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5. 村長の告白

 ヨシスケの両親とベイリットの父親が殺された日、村は大騒ぎになった。大きな町から役人がきて、調査もされたらしい。調査の結果、妖の生物に殺られたとされた。

 ヨシスケは、この時のことを覚えていない。小さかったからなのか、あまりにショックで忘れてしまったのかはわからない。


 この話は、成人する前の日に村長から聞いた。自分の両親については、知っておくべきだと。


 成人の儀の前の日の夜、ヨシスケは村長に倉庫へ呼び出され、話をされた。それまで、両親は病で亡くなったと聞いていたヨシスケは、あまりのことに頭が真っ白になったのを覚えている。


 ーーーーー

 話終えた村長は、ゆっくりとヨシスケの手をとった。豆がつぶれて堅くなった手のひらは、ヨシスケの手の甲を強く包み込んだ。

「黙っていてすまなかった。許してくれとは言わない。じゃが、村のもの達のことは恨まないでくれ。わしが、無理に頼んでいたんじゃ。時が来るまで、黙っていてくれと」


 返事をする余裕のないヨシスケの頭の中は、混乱していた。そして、まず頭に浮かんだのはベイリットの母親だった。ベイリットの母親は、ヨシスケの物心がついた時には既に親がわりとして、ヨシスケの世話をしてくれた。自分の母親ではないということは知っていたが、ベイリットとわけへだなく接してくれていた。いつも明るく、優しく、時に厳しく、でもやっぱり心底優しかった。


 ベイリットの母親は、ヨシスケの成人の2年前に、急に倒れて亡くなってしまった。その時、ヨシスケは既に一人暮らしをしていたのだが、ベイリットが血相をかえて家に飛び込んできて知らせてくれた。駆けつけた時には、村長が蘇生を試みて様々なことをしているところだった。そして、その努力もむなしくベイリットの母親は二度と目を覚まさなかった。

 あまりに突然で、葬式のときは涙が出なかった。終わってからベイリットの家に行くと、テーブルの上にウミスズメのスープが入った小さな鍋があった。いつも、ヨシスケにお裾分けしてくれる鍋だった。


 途端に涙が溢れた。

 嗚咽を漏らしながらその場に膝をつくと、ベイリットが覆い被さるように抱き締めてくれた。首筋に暖かいものがポタポタと落ちてきたのは、ベイリットの涙だったのだろう。


 ベイリットの母親には感謝しかなかった。しかし、村長の話を聞いて別の感情がわいてきた。


(おばさんが亡くなったのは、俺のせいなんじゃ……)


 自分の夫の亡骸と、惨殺された知人を見てしまったショックは計り知れないだろう。忘れたい、思い出したくないと思うはずだ。惨殺された知人の忘れ形見を見るたびに、心労が溜まってしまい、とうとう倒れてしまったのではないだろうか。


(そもそも、あの夜父さん母さんのところに行かなければ、おじさんは死ななかったんじゃないか?)


(いや、俺たちが村に来なければ、そもそもこの村で事件は起きなかったんじゃないか?)


(知っている村人はたくさんいるはずだ。俺がいることでまた事件がおこるかもと不安だったんじゃないだろうか?)


(いや、それなら今だって……)


(俺はこの村にいるべきじゃない……? いや、いるべきではなかった?ずっと前から……)


 ヨシスケは思考の闇に囚われ、目の前が真っ暗になっていった。


(息が苦しい、呼吸ってどうするんだっけ、わからないわすれたどうしようどうしようどうしようどう……)


 不意に、村長の両手がヨシスケの両頬を包み込み、顔を上げさせられた。村長と目が合う。


 村長の指が、目元をそっとなぞる。いつの間にか、ヨシスケは涙を流していた。

「役人の調査がおわり、また明日くると言い帰ったあと、わしの家にベイリットの母親が先頭となって、村人が押し寄せてきた。成人していない子供と、その子守り役以外全員だ」


「わしは、役人の調査結果が聞きたいのかと思った。じゃが、皆それよりももっと重要なことがあると言うのじゃ」

 村長は、ヨシスケから目をそらさない。ヨシスケも、目がそらせないでいた。

「お前さんの処遇じゃよ」

 村長は小さく微笑み、ヨシスケの頬を親指で優しく撫でた。ざらざらとした感触が、少しくすぐったい。


「役人たちは、お前さんの両親に関係するもの全てを回収していっていた。そして、両親が売った商品も回収するから明日までに準備しておくようにと村人に言い渡したのじゃ」


「事件があまりに残酷だったこともあり、当時お前さんはベイリットの家から出さなかった。役人はお前さんの存在に気づかないままだった」


「役人は売った商品でさえ回収するのじゃ、お前さんの存在が知られたら、絶対に連れていかれてしまうだろうと、皆思ったんじゃろう」

「……なぜ、役人に引き渡さなかったんですか?」

 ヨシスケはかすれる声で聞いた。小さな子供とはいえ、前代未聞の残酷な事件の関係者だ。村人は、村にいられたら気持ち悪いと思うはず……。


「村人皆が、お前さんを村で育てると主張したからじゃ」

 思っていなかった言葉に、ヨシスケは驚きの表情を見せた。村長はそんなヨシスケの頭を優しく撫でた。その表情は、ヨシスケをかわいくてしょうがないと思っているものだった。

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