27. 友達
「あっ、おい、馬だ。馬がいるぞ」
青年は反対側に立っていた馬の姿を見つけると、走り出した。
(馬は知ってるんだ)
ヨシスケの姿のドラゴンは、慌てて後を追う。
「訓練された馬は、背中に乗せてくれるんだ。お前、訓練されてる? ……あ、馬は言葉話せないんだっけ……」
馬の姿もドラゴンなので話そうと思えば話せるが、ここは普通の馬のフリをする方がいいだろう。
「ブルルルルル」
馬の姿のドラゴンは、控え目に鼻をならしてみた。
「えーっと……そうだ、大事にしてやれば乗せてくれるんだ」
青年は馬の姿の前で何やら考えながらぶつぶつと言っている。
(よかった、本物の馬に見えるみたい……)
ほっとしていると、急にくるりと青年がヨシスケの姿の方に向き直る。ドラゴンはドキリとした。
「なあ、お前、大事にする方法知ってる?」
「えっ?」
ドラゴンはきょとんと青年を見つめる。
「訓練された馬は、大事にしたら乗せてくれるんだ。馬に乗ったら、すげー速く移動できるんだぜ。ノイチゴんとこ早く行きたいから、大事にして乗せてもらいてーんだ」
青年は得意気にそう話した。
「けど、大事にするってどうするんだ?」
(……なんでこんなに中途半端な知識なんだろう……)
何も言わないドラゴンを見て、青年は顔をくもらせる。
「もしかして、お前も知らない?」
「あっいや……えっと、撫でたり、食べ物を食べさせたりとかじゃない?」
「撫でる?」
「えっと、手のひらで優しく触れながら、動かすんだ。ほら、こう」
ヨシスケの姿で馬の姿に近づき、首の辺りを撫でてみせる。自分で自分を撫でるなんて、変な感じだ。
青年はしばらくドラゴンの手を見ていたが、ゆっくりと手を伸ばし馬の姿の首もとに触れ、優しくなで始めた。
とてもあたたかく感じた。そういえば、現世でこんな風に他人から触れられたのは初めてだ。心臓の辺りがざわざわぽかぽかする。ドラゴンは目を細めた。
「これでいいか?」
青年の声にはっとする。相変わらずに優しく撫でながら、青年がヨシスケの姿の方を向いていた。
「ああ、うん、いいと思うよ。馬も喜んでるよ」
「そうなのか?」
青年は今度は馬の姿の方に向き直る。馬の姿のドラゴンは耳を横にし目を細め、嬉しそうな感じをだしてみた。
「んー、よくわかんねーな」
馬の姿のドラゴンは、思いが伝わらずに少ししょんぼりする。言葉にできないことを伝えるのは難しい。
「あとは、食べ物か。んー、馬って何食うんだ? ……あっ、石とか食える?」
青年が洞窟の石に手を伸ばしかけたので、慌てて止める。
「石は食べない、食べるのは草とかだよ。でも、食べさせなくても乗せてくれると思うよ。この馬、俺の友達なんだ」
「……友達……?」
青年がヨシスケの姿の方に向き、眉をひそめる。
「嘘じゃない、本当だよ。ほら、この馬、荷物いっぱい持ってるだろ?この荷物俺のなんだけど、友達だから持ってくれてんだ」
「別に嘘だなんて思ってねーよ。ただ、その友達ってやつ……どっかで聞いたことがあるんだけど……何だっけ?」
「ああ、そういうこと。友達って言うのは、えーっと……」
いざ説明しようとすると、難しい。
「友達っていうのは、一緒にいて楽しいって思う人のことかな」
「こいつ馬だぜ」
「ああうん、人だけじゃなくて、馬や他の生き物ともその気になれば友達になれるんだ」
「へー……で、一緒って、なんだ?」
「一緒は……同じ時間に同じ場所で同じことをすること、かな。あと、友達は大事にしたり、助けたりもするんだ」
「撫でたり草やったりすんの?」
「あっ、いや、撫でたり草をあげるだけが大事にするってことじゃないんだ。大事にするって言うのは、えーっと、喜ぶことやしてほしいと思っていることをやってあげること、かな」
「ふーん、じゃあ助けたりって?」
「助けるって言うのは、困っていたり危険な状況になったりした時に、その原因を取り除いてあげること、かな」
「なんでそんなことするんだ?」
「なんでって、友達だからだよ。友達なら、当たり前にそういうことをしたり、してもらったりするんだ……多分。なんか上手く言えないけど」
「んー……」
青年は考え込んでしまった。
(わかりにくかったかな……)
「なあ」
少しして、青年がまた声をかける。
「お前、馬以外に友達っていんの?」
「えっ?えっと……いない……かな」
馬の姿もドラゴンなので、実質現世では誰も友達がいないということになる。改めて言葉にすると、やっぱり寂しい。
「ふーん」
「なんだよほっとけよ。自分はどうなんだよ」
「さあ?でも友達ってなんかいいもんみたいだし、オレがお前の友達になってやるよ。その代わり、お前もオレの友達な」
青年がにかっと笑う。
「え」
「で、お前とも友達な」
青年は馬の姿を優しく撫でながら、にかっと笑いかけた。
「え」
「で、オレはノイチゴが食いたい。ノイチゴが食えたら喜ぶ。だからお前は、友達のオレを喜ばせるためにノイチゴがなっている植物のところまで一緒に行ってくれ」
青年がヨシスケの姿の肩をポンと叩く。
「え」
「そして早く食いたい。早く食えたら喜ぶ。だから、友達のオレを背中に乗せてくれ」
今度は馬の姿の首もとをトントンと叩く。
「え」
「というわけで、出発しようぜ。ほらほら、早く早く」
「「え」」
ヨシスケの姿と馬の姿の両手をグイグイと押され、ドラゴンは完全に青年のペースにのまれたまま、入り口へと向かっていった。




