25. 出会い
天井の穴から差し込む朝の光の下には、様々な物が並べられていた。
ナイフ1本
短剣2本
剣1本
槍1本
弓1本
矢20本
弓の弦4本
服の上下3枚ずつ
干し肉3匹分(キツネとイノシシとハリネズミ、のような生物)
毛皮3匹分(キツネとイノシシのような生物と、グロロスカニーチャ)
妖玉(青3、赤と青のマーブル2、黄色たくさん(トゲつき))
青い妖玉の入ったスターカーバイソンの角10本(4つは洞窟で発見)
スターカーバイソンの革1頭分と少し
繊維のしっかりした植物の葉約50枚(衣服用)
伸縮性のあるツタ約20メートル(ベルトなど様々な物用)
黒曜石の小瓶入りの消毒薬5瓶(臭いの強い草から作成)
包帯10メートル×5巻(ふわふわした葉から作成)
黒曜石の空瓶5本(水筒用)
袋4つ(スターカーバイソンの革袋2つ、麻のような植物の袋2つ)
荷物用の鞍(スターカーバイソンの革で作成)
ノイチゴの入ったカゴ
ドラゴンはヨシスケの姿で一つ一つを指差して確認して、満足そうに頷き、丁寧に袋にしまい始めた。馬の姿に鞍で固定するため、バランスよく入れていく。四つの袋にそれぞれいれてしまうと、馬の姿に鞍をつけてそこに固定していく。金属がなく金具が作れなかったため強度が少し心配だが、魔法で作った縫い目のない革の鞍はかなり頑丈そうだ。
荷物をつけたまま、馬の姿で洞窟の中を歩いてみる。鞍の強度は大丈夫そうだし、荷物もしっかり固定されている。だが、鞍と背中が微妙にずれて少し痛い。長旅にはつらそうだ。
ドラゴンは少し考えてから、袋のなかからイノシシのような生物の毛皮を取り出して魔法で形を整え、鞍の下に敷いた。もう一度歩いてみるが、今度は痛くない。馬の背には大人が2人は乗れるくらいのスペースが残されている。今後荷物が増えても大丈夫だろう。
ヨシスケの姿の方では武器を持つ。といっても全部持つのは無理なので、いくつか試してみて短剣と剣を一つずつ腰に固定した。残りは鞍の形を魔法で変えながら、馬に固定する。
ヨシスケの姿のドラゴンは、馬の姿から少し離れて、あちこちから見てみる。
「うん、大丈夫。どここら見ても普通の馬だ」
ヨシスケの姿でにっこりと笑い、馬の姿でヒヒンとないた。
(ついに出発するんだ。この洞窟を出て、広い広い世界に、一人で……)
ふと、ドラゴンは何かを考え始めた。そして何かを思い付いたように動き出し、馬の姿に固定している荷物からツタを1メートルほど取り出して、洞窟の壁に向かった。
ーーーーー
「よし、できた!」
10分ほどなにやらごそごそとしていたが、ようやくヨシスケの姿で立ち上がった。手には黒曜石で作った石のネックレスが握られている。
石の一つには、下半分に半円が椀を伏せるような形で描かれており、そのすぐ上に丸がくっつくようにかかれている。生まれた時に刻まれる印だ。魂が大地に降り立った様子を表しているらしい。そしてその隣の石には、人が馬に乗っている絵が刻まれていた。
さっそく首にかける。なんとなく、ドラゴンの時のサイズで作ったので、ヨシスケの姿で首にかけると二重にして丁度いいくらいだ。ドラゴンは首にかかったネックレスを見て、満足そうに微笑んだ。
馬の姿の側に戻り、ノイチゴの入ったカゴをひょいと持つと一つをパクリと頬張る。傷まないようにと凍らせておいたので、シャリシャリとしている。残りはカゴの三分の一くらい。
「……よし……出発だ……」
ドラゴンはヨシスケの姿で馬の姿の頬に手を当てると、クルリと向きを変え、入り口へと続く通路に向かう。手綱はないが、馬は大人しく従っている。まあ、こちらも自分なので当たり前だが。
通路につくと、ドラゴンは後ろを振り返った。十数年暮らした広い空間はいつもと変わらない。50メートルほどの高さの天井に空いたぽっかりとした穴からは、朝日が優しくさしこんでいる。
今から旅に出る。ここに戻ってくるかはわからない。
安心できる洞窟を出ていくのは不安だ。でもそれ以上に大きな期待と興奮が炎となり、身体中から吹き出しそうだ。
旅に出るんだ。
知らない世界を見に行くんだ。
みんなに会うんだ。
「……いくぞ……いってくるぞー!!」
「ヒヒーン!!」
ヨシスケの姿で大きく拳を揚げて、叫んだ。馬の姿も大きく嘶き、前足を大きく踏み鳴らす。洞窟が震えたように感じた。
その時
ピキ……ピキピキピキ……バリン!!
入り口へと続く通路とは反対側の壁、丁度ドラゴンが立っている正面の壁の一部が、砕けた。
幅5メートル高さ5メートルほどの穴が壁に空いた。
「……え?」
穴の向こうはちょっとした薄暗い空間があるみたいだが、中まではよく見えない。
「……え?」
ドラゴンとして生きてきて今までずっとこの洞窟で暮らしてきたが、こんなことは初めてだった。
(……え?なに?壁が割れたの? 大きな声だしたから振動で? 外? いや、暗いから違うか……ていうか……なんであそこだけ? え? なにあれ?)
「…………」
「………………」
「すぅーーーー……はぁーーーーーー」
突然の事態に混乱してしまったが、深呼吸して気持ちを落ち着かせる。これから旅に出るのだから、不測の事態であろうと冷静にあらねばと、自分に言い聞かせた。
空間があるように見えるだけで、ただの浅い穴かもしれない。というよりも、その可能性の方が高いだろう。今まで暮らしてきて、何にもなかった。ただ脆くなっていただけだ。
取るに足らないこととして、このまま回れ右をして旅にでかけてしまおうか。でもなんだか出鼻をくじかれてしまったし、ちょっと気になる。
(ちらっと中を見てから、出発するか)
ヨシスケの姿のドラゴンは、穴の方にゆっくりと向かう。それにしても、なんてタイミングだ。興奮の炎はびっくりしてすっかり小さくなってしまった。
(浮かれずに行きなさいという、思し召しかな?)
先ほどの自分の慌てようを思いだし、ドラゴンは少し笑ってしまった。壁の穴はすぐそこだ。
(ちらりと覗いたら、仕切り直して出発だ)
ひょいと穴を覗き込む。
ドラゴンの心臓は、破裂するほど大きくはねた。
穴の中は以外と広かった。縦横奥と入り口の3倍くらいの空間があり、ちょっとした部屋みたいだ。
こんな空間があることなんて、ドラゴンは全然知らなかった。しかしドラゴンを驚かせたのはそんなことではない。
久しぶりに、いや現世では初めて、人間を見た。
空間の真ん中に、人間が仰向けになっていたのだ。ドラゴンはしばらく穴の前で固まっていたが、ふらりと部屋のなかに入っていった。心臓はまだ、大きく早く胸を打っている。
ゆっくりと人間に近づく。かさりと足元で音がする。人間の下に、まるで敷物のようにたくさんの枯れ葉が敷き詰められていた。どれも枯れてカサカサになっている。
人間は、男の青年だった。
髪の毛は薄い紫色で、少し長めのストレートだが肩には届かない程度だ。彫りはあまり深くないが、すっと通った鼻が顔全体を整え、きりっとした印象の顔立ちになっている。上半身と腰には簡易な鎧をつけており、なんとなく兵士のようにも見える。靴は膝上までのボロボロのブーツをはいていた。身長はヨシスケの姿よりも5cmほど高いだろうか。全体的に細めの体型だが、鎧や服の上からでも、程よく筋肉がついているのがわかる。
(生きている……はずないか……もしかして人形……?)
ドラゴンはゆっくりと屈み、顔を覗き込む。
(どうしてこんなところに……というか、見れば見るほど……)
ゆっくりと頬に触れてみる。
(今にも動き出しそうだ)
ドラゴンはこの青年が動いているところを容易に想像できた。
その時
ゆっくりと青年の目が開き、ドラゴンと目があった。




