24. 準備完了
一時間ほど休むと、かなり回復していた。まだ胸の傷はズキズキと痛んでいるが、血はもうでておらず、カサブタのようなものが出来かけている。少しだけしていた火傷は、もう治っているようだ。
もしかしたら、ドラゴンの姿に戻った方が速く治るかもしれないが、これからの旅を思いあえて人間の姿で過ごしていた。それでも、驚異的な回復スピードだった。
ヨシスケの姿のドラゴンは、馬の背中に手をつきながらゆっくりと立ち上がる。胸の傷がズキンと痛むが、よろけたりはしなかった。馬もゆっくりと立ち上がる。
内臓を取り出した獲物のところにいくと、いつの間にか取り出した内臓はどこかに消えていた。休んでいる間に野生の動物が持っていったのだろう。肉自体は木に吊るしていたので、全て無事だった。ナイフは無造作に転がっていたのをなんとか探し出した。
粗方血も出てしまっているようなので、川に持っていくことにする。馬の背に載せ、自身も馬にまたがる。また傷が痛み、少し血も滲んできた。
(川に着いたら、少し手当てしよう。)
そう思いながら、ゆっくりと馬を走らせた。
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流れてしまわないように川に肉をつけ、ヨシスケの姿のドラゴンは木陰に腰をおろした。丁度その時、馬の足音が近づいてきた。背中に何やら色々と載せている。ドラゴンはボロボロになってしまった上衣をそっと脱ぐと、馬の背から臭いの強い草と、ふわふわした葉を取った。
臭いの強い草を手に取り、少し水を足して手でこねる。ツンとした臭いが強くなり、粘りが出てきた。それをそっと胸の傷に塗ってみる。
「っつ……」
傷ついた妖の生物が、この草に強く身体を擦り付けていたのを何度か見たことがあった。ので、真似してみたがとりあえず痛み止めの効果ではなかったようだ。この痛みは多分消毒だろう。ドラゴンだった時は傷が膿んだことは一度もなかったが、一応用心のためと、実験のために塗ってみた。前世で見たことがない草なので、効果があるようなら旅立つ前に作って持っていってみよう。
次にふわふわした葉を手に取る。大量の葉はしゅるしゅると一本の帯のようになった。少しだけ引っ張ってみると、程よく弾力がある。包帯の代わりだ。
あまり強くはなさそうなので、慎重に胸に巻く。傷の範囲が大きいので十分とは言えないが、服ですれない程度には巻くことができた。あとは、ボロボロになった服の修理だ。馬の背からまた材料を取り、作業を始めた。
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「よし、そろそろいいかな」
ヨシスケの姿で、ぐんとのびをする。胸の傷は少し痛んだが、もう大丈夫そうだ。よいしょと立ち上がり、川に付けた肉の方へ歩いていく。
服は元通りに戻っていた。また、今後のことを思って、同じものを上下もう3つずつ作ってみた。ゆっくり作業していたので、2時間くらいは経っているだろう。
肉を川からあげ、皮を剥ぎ、肉を解体していく。ナイフではなく"形を変える魔法"の応用で作業すると、驚くほどスムーズで速かった。脂身の多いところをつまみ食いしながら、作業を進めていく。
薄く切り、乾燥させる。これも魔法を使うと、あっという間だ。周囲を温め、風をおこす。塩がないため少しでも保存できるように燻すことにした。焚き火をおこし、樹脂と粉にした木を混ぜて固めたものを焚き火のなかにいれて、上に3匹分の肉をセットする。
その間に毛皮の処理だ。ハリネズミの毛皮は使えそうになかったので、針だけ集めておくことにした。処理をした毛皮は、グロロスカニーチャの毛皮の隣に干す。先に干していたグロロスカニーチャの毛皮はすっかり乾いたようだ。
植物性の油を塗り込んで、手触りをチェックする。柔らかくて気持ちがいい。そういえば、前世でも高級品として大きい町で売られていたのを思い出した。
確か、妖玉と呼んでいた。
ふわふわの毛皮をしばし楽しんでいると、ふと固い部分が手にあたった。尻尾の先に、何かがはいっているようだ。注意深く取り出すと、青い透明な妖玉がでてきた。なんとなくぼうっと光っている。氷の魔法を放っていた部分だろう。
他の毛皮もチェックする。キツネのような生物からは少し小さな青い妖玉が2本の尻尾の先から一つずつ、イノシシのような生物からはこれもまた少し小さくて赤と青のマーブル模様の妖玉がそれぞれの牙の根元から一つずつ、そして別の場所においていたハリネズミのような生物のトゲの根元には更に小さな黄色い妖玉がたくさんくっついていた。
確かこれらも価値のあるものとして取引されていたはずだ。旅の資金の足しになるだろう。魔力の結晶と同じく、そのまま空気に触れさせているといつの間にかなくなってしまうので、スターカーバイソンの革袋にしまった。
「……スターカーバイソンには、妖玉ないのかな?」
ふと思いつき、革袋のなかから角を取り出す。こいつは魔法を角から放つのだ。目を凝らしてみると、うっすらと丸く青く光っていた。
「なるほど、角のなかにあるのか」
角のなかなら、今まで狩って食べたやつのにも残っているかもしれない。たまに外へ出していたが、まだ洞窟の中に何個か放置しているものがあったはずだ。戻ったら探してみることにする。
ヨシスケの姿のドラゴンは、燻製をしている焚き火がちゃんと見えるように木に寄りかかって座る。
馬の姿の方も近くにこさせて座らせた。
「あとは……ナイフ以外の武器も作っとくかな」
ナイフは少し刃がかけていたので、魔法で直し、改めてよく見てみた。洞窟の石で作ったが、確かこれは黒曜石という石だろう。強度はそれほどではないが、非常に鋭利な刃物を作ることが出来る。金属が手に入らない現状では、武器の材料として非常に適しているはずだ。前世でも滅多に見ることはなかったし、現世でもあの洞窟以外の森のなかで見たことがない。旅立つ前に作っておいた方がいいだろう。
ドラゴンは馬の姿を立ち上がらせると、洞窟へとむかった。ヨシスケの姿の方は、燻製中の肉の見張りだ。自分の身体に分業させるのもかなり慣れてきた。
少しすると、馬が戻ってきた。背に乗せた革袋が重そうに膨らんでいる。馬の姿でヨシスケの姿に近づき、ゆっくりと座り、革袋を渡した。
馬の姿では少々手こずったが、洞窟から黒曜石を取ってきたのだ。
「なにを作ろうかな……」
そう呟きながら、ドラゴンは革袋から黒曜石を取り出し、しばらく眺めていた。
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ヨシスケの姿のドラゴンは座ったまま小さく息をはく。その回りにはいくつかの武器が置かれていた。馬の姿はその隣で静かにたたずみ、燻製中の肉を見守っていた。
よくしなる木に麻のような妖の植物から作った弦を張った弓。持ち手の部分にはツタを巻き付けて手に馴染むように調整してある。
その隣には尖らせた黒曜石を先につけた矢20本が、木で作った筒に入れられている。筒にはツタから作ったヒモが付けられており、背中に固定することができる。
あとは短剣が2本に剣が1本、木の鞘に納められている。刃の部分は黒曜石を使った。柄の部分はナイフと同じようにツタを巻き付けた。
そして最後に少し長めの槍が1本。
「とりあえずはこれだけあれば大丈夫……だといいなあ」
そう呟くと、剣を手に取り鞘から抜きブンブンと振ってみた。弓と矢は前世でも作ったことがあったが、その他は記憶を頼りに作ってみただけだ。身を守る程度の剣の心得はあるが、あまり得意な方ではなかった。そして槍は大きな町の武器屋に置いてあるのを手に取ったことがあるくらいだった。
そのかわり弓矢の腕はまずまずだったし、今は多少人間のときよりも丈夫で力も強い。そしていざとなれば強力な魔法が使える。見よう見まねで作った武器が壊れてもすぐに直すこともできる。
「あんまり多くても荷物になるし、こんなもんだろ」
剣を鞘にしまってからゆっくりとたちあがり、燻製中の肉のところへ向かう。始めてから数時間はたっているはずだ。もう日は沈みかけている。干していた毛皮も、もうかわいているだろう。
ドラゴンは諸々を片付け始めた。準備はこのくらいでいいだろう。足りないものは、途中で調達だ。洞窟に帰って休んでから、夜が明けたら出発だ。
胸を躍らせながら、ドラゴンはてきぱきと片付けていった。




