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2. 村の仕事

 ノイチゴのジャムを貰うため、リーズの家に向かいながらヨシスケはのんびりと今日の予定をたてる。

(そろそろ畑を耕さないといけないから、道具のチェックをして……ああ、そういえば隣の家の屋根の修理を頼まれてるんだった)


 ヨシスケの住む村は、村人150人ほどの小さな村で、皆支えあって生活している。成人男性のほとんどは農業か酪農業に従事しており、収穫物や酪農品は村の共有財産だ。ヨシスケは今年成人して、今は農業をしている。仕事はとても好きで、特に太陽に暖められた土の香りが大好きだった。ちなみに、ベイリットは主に羊の世話をしている。

(屋根を修理してから道具のチェックだな。でもそれでも午後は時間があるか。うーん、今度植える種の整理でもいいけど……)

 暖かくなってきたとはいえ、まだ朝霜は降りているし雪がちらつく日もある。実施に作業が始まるのはもう少しあとになるだろう。


(さっきベイリットに魚を恵んでやるなんて言ったし、久しぶりに釣りに行こう。この時期はちょっと暖かくなってきたしきっとよく釣れる。たくさん釣って、お隣とベイリット、リーズにもおすそ分けに行こう)

 冬の農業ができない時期、農業従事者は雪掻きや村の設備の整備をする。雪が溶けてくると、釣りや狩りに行ってご近所にお裾分けをしたりしながら少しずつ農具などを準備し、本格的な農業の時期に備えるのだ。


 隣の家には、初老の夫婦が2人で住んでいた。まだまだ元気な二人ではあるが、力仕事や体力仕事はヨシスケが代わりに請け負うことが多くなってきた。その代わり、夫婦は一人で暮らすヨシスケをなにかと気にかけ、料理のお裾分けやほつれた服の修理など、あれやこれやと助けてくれる。


(そう言えば包丁が切れにくくなってきたから、研いでもらえるか屋根の修理のついでにお願いして……)

「あっ、ヨシー!」

「にぃちゃん! にぃちゃん!」


 足元ばかり見て考え事をしていたヨシスケは、正面からの元気な声に顔をあげた。子供達が7人、手を振りながらかけよってきている。その後ろからは、少し年長の少年少女3人が馬に荷車を引かせながらこちらに向かってゆっくり歩き、手を振っていた。


「みんなおかえり。どうだった?」

「ミッションコンプリートであります!」

「こんぷりーとあります!」


 一番速くヨシスケのところに来たのは、10歳と5歳の少年達だった。ビシッと敬礼をきめる10歳もかわいいし、舌足らずながら真似をする5歳もかわいい。ヨシスケは優しく二人の頭を撫でてやった。


 繁忙期には年配者や女性も農業や酪農を手伝うが、普段は売るための刺繍や小物を作っていることが多い。村で消費される以上の収穫物や酪農品、刺繍、小物を大きな町に売りにいくのは、5歳から14歳の子供達だ。普段は農業や酪農を手伝っているが、月に一度程度、10人くらいずつ交代で定期的に町へ行商に行っている。

 売れたお金は、村の財産として平等に分配される。村に学校はなく、子供達は物を売りながら、年長者に教えてもらい文字や計算などを学んでいく。

 大きな町までは大きな荷車、冬はソリを馬で引きつつ、片道数時間かけていく。そして商品があらかた売れるまで町に数日滞在して、大人たちから頼まれたお使いを済ませてから、また村に帰ってくるのだ。この子たちは丁度町から帰って来て、村長に報告に行ってきたところだろう。


「困ったことはなかった?」

「だいじょぶだったよ。ゲスタさんが帰り道にってクッキーをくれたの。今日は帰り道、ちゃんと全部自分で歩いたんだよ」

 誇らしげににこにこと話すのは、6歳の小柄な少女だった。走ったからか肩で息をしている。

 この行商経験で農業や酪農以外に興味を持った子は、成人後大きな町に移住していくこともある。平均して全体の10%くらいは移住して別の職についていくが、皆この村が好きで、ちょくちょく帰ってきている。ゲスタは隣の夫婦の息子で、今は大きな町で大衆食堂を営んでいる。この村の子が町に滞在する間、いつも屋根裏の一角を寝る場所として貸してくれ、朝食と夕食もほぼ原価で提供してくれるのだ。


 去年までヨシスケもこの行商に同行していた。小柄な少女も5歳で同行していたが、帰り道にいつも疲れて座り込んでしまい、荷車に乗せるかヨシスケがおんぶして帰っていた。少女の成長を感じて、ヨシスケは嬉しそうに頭を撫でた。

「それにしても、ずいぶん帰りが早いね。かなり朝早く出発したんじゃないの?」

 ヨシスケは他の子供達の頭を撫でながら尋ねた。

「まだ真っ暗だった!」

「でも“導きの灯火”が明るいから全然へっちゃらだったよ!」

「おひるにみるよりね、ぼわわわーとしててきれいだったの!」


 導きの灯火は、道の両脇に数メートル間隔で浮かぶ魔法の光で、ぼんやりと紫色に光っている。この世界最大の都である王都ディルブランドの国教が管理していて、世界中の主要な道に設置されている。いわゆるセンサーのような役割をしており、何か危険があった時に触れると、近くの教徒が文字通り飛んできてくれるのだ。

 これのお陰で、人々は安心して行き来することができている。しかし、どうして、光り続けているのかを知るものは、ヨシスケの回りにはいなかった。


 ヨシスケが10歳のとき、大きな町にいた教徒に仕組みを聞いてみたことがある。教徒はうやうやしく自身の右中指につけていた指輪を見せ、導きの灯火が作動するとこの指輪がその場所へ連れていってくれるのだ、と説明した。指輪をつけているときは、何時なんどきどこに導かれようとも、戦い民を守ることができるようにしているのだと、教徒は胸を張った。どうなっているの?と聞いても、教皇の魔法だ、あの方は神様なのだとしか教えてくれなかった。もしかしたら、その教徒もそれしか知らなかったのかも知れない。


 とはいえ、ある程度の危険は自分たちで解決していかなければならない。そのため、皆簡単な剣術や、魔法を応用した攻撃、防御は習得する。特に空気中の水蒸気を集めて氷にして盾を作る防御魔法などは一番最初に練習する。ヨシスケも剣術はあまり得意ではないが、ちょっとした野性動物くらいなら追い払ったり倒すことができる。それも、この行商の経験で学んでいくのだ。


「夜行性のやつらがちょっと多かったけど、まぁ問題なかったよ。誰も怪我してないしね」

 馬を引いていた年長の少年少女がヨシスケのところに到着した。荷車には、村人から頼まれていたのだろう諸々の物と、溢れるほどの色とりどりの花が載っている。

「花を早く持って帰りたかったんです。太陽にさらされ過ぎて萎れてしまったら大変だし」

 年長の少女はそう言うと、花が入れられている樽を覗きこむ。

「やっぱり一度水を変えた方がよさそう。荷物を家に配る前に、井戸に寄りましょ」


「明日の結婚式の花?」

 ヨシスケが聞くと、年長の少女がにっこり頷く。

「そう、明日朝一番に広間に飾るの。ヨシスケさんも、よかったら手伝ってくださいね」

「もちろん。それにしても大荷物だね」

「永劫の災いの再来期間が近いから、皆からたくさん頼まれていたの。2ヶ月くらいは村からでられないし」

「ああ、そうだったね。お疲れ様」

「うん、もういかなきゃ。みんな、一度井戸に行くよー」

 遊ぼう遊ぼうとヨシスケにまとわりつこうとする子供達を諭しながら、一行は井戸の方へと向かっていった。ヨシスケはそれを見送ると、再びリーズの家に向かうのだった。


 リーズの家は村長の家でもあり、ベイリットの家よりもかなり大きく、大きな倉庫も3つほど建っている。村共有の大事なものも、ここに保管されているのだ。

 軽くノックすると、深い緑色の優しい瞳で、腰まで伸びてゆるくカールした栗色の髪の女性が出ていた。リーズの母親である。女性はにこにことヨシスケの頭をなでると、家の中に向かってリーズを呼ぶ。既に頭を撫でられる年齢ではないヨシスケは、少し気恥しそうに頬をかいてリーズを待つのだった。

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