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17. チビドラゴン

転生しました。

 明るい月夜の晩、ドラゴンが茂みに倒れ込んでいた。

 ドラゴンは全身濃い紫色で、体長5メートルほどだ。とはいえその半分くらいは尻尾なので、ドラゴンとしてはまだ小ぶりである。茂みは小さな刺でチクチクとくすぐったいが、ドラゴンは一向に立ち上がる様子がない。

(俺……俺は……)

 ふわりと甘酸っぱい匂いがドラゴンの鼻孔をくすぐった。


 ーーーーー


 ドラゴンの一番最初の記憶は、卵の殻を割ろうとしているところだった。


 窮屈だったため少し身じろぎしたらピキッとヒビが入り、そこから光が射し込んできた。よくわからないままヒビの部分を口元で押してみたら、パキッと音がして卵の殻が砕けた。全長50cmほどの、小さなチビドラゴンが誕生したのだ。


 回りは真っ黒い石でできた洞窟だった。産まれたばかりのチビドラゴンがいるのは、出入口から30メートルほど奥に入った部分だった。ここだけ他の部分とは違って広い空間になっていて、天井の高さも50メートルほどある。 天井の真ん中にぽっかりと丸く穴が空いており、そこから月が見えていた。卵のヒビから射し込んだ光は、この月の明かりだったようだ。


 チビドラゴンはプルプルと身体を震わせて、身体についていた水滴を飛ばす。そしてゆっくり立ち上がった。最初だけよろけたが、しっかりと立つことができた。そのまま、確かめるように自分の身体や周囲をキョロキョロと見渡す。

 ふと上を向いたとき、月が目に入った。生き物どころか、草木、苔もない岩だらけの中で見つけた月は、チビドラゴンにとってとても魅力的に見えた。


 ぎこちなく手を伸ばすが、届くわけもなく、チビドラゴンは口を尖らせる。だが何かをおもいつき、自分の背中を見る。背中には30cmほどの、小さな羽が二つついていた。教えられたわけではないが、チビドラゴンはそれが空を飛ぶためのものであることを知っていた。

 おそるおそる広げ、2、3度ゆっくりと羽ばたいてみる。問題なく動く羽を見て、ぱあっと明るい顔になり、月を見つめると、思い切り羽を動かした。しかし、全く浮かび上がらない。諦めずに羽ばたきながらぴょんぴょんと跳び跳ねるが上手くいかず、そのうち着地に失敗して転んでしまった。


 ペタンと座り、しゅんと頭を下げる。追い討ちをかけるように、クルルとお腹がなる。腹ペコのチビドラゴンは、食べるものを探すためにしぶしぶ立ち上がった。


 まずは周辺を探してみるが、岩以外本当になにもなかった。試しに少し出っ張った部分に噛みついてみたが、固くて歯が立たない。それどころか、鋭利になっている部分で口の中を少しだけ切ってしまった。初めての鋭い痛みに、チビドラゴンはビックリして飛び退いた。

 口からポタポタと赤い血が垂れてきた。口のなかには何とも言えない味が広がる。染み込むことなく石の上に落ちている血を前足でそっとつついて匂いを嗅ぐ。なんだか胃の辺りがざわざわするのを感じた。


 ここに食べ物はないと判断したチビドラゴンは、途方にくれてまた座り込んでしまった。その時、どこからかひゅうと風が吹いてきた。チビドラゴンは顔をあげ立ち上がると、風が吹いてくる方向へちょこちょこと歩きだした。


 風を頼りに、うねうねとした洞窟をしばらく歩くと、明るくなっているところが見え、チビドラゴンは走り出した。


 洞窟の外は、月の光で明るかった。うっそうと生い茂る草木は、禍々しく強い生命力放っていた。チビドラゴンはしばらくその景色に目をぱちくりとしていたが、意を決して一本踏み出した。草のチクチクとした感触に少しだけビクッとするが、踏みしめると岩とは違って少し柔らかかった。チビドラゴンはおそるおそる洞窟からでて、周囲を観察してことにした。


 まず、足元の草の匂いを嗅ぐ。食欲をそそるような匂いはしないが、一応かじってみる。何とも言えない苦さに、思わずむせて咳き込んでしまった。

 すると、何度目かの咳のときに、不意に口から小さな炎が出た。

 びっくりしたチビドラゴンは目を白黒とさせ、もう一度試しにわざと咳をしてみたが、なにもでない。だが、諦めずに何度かやってみると、また小さな炎が出てきた。コツをつかんだらしく、嬉しそうに何度も出している。周囲を焼いてしまうほど強い炎ではないが、ぱっと光る炎に夢中になった。


 四方八方に飛ばしていると、ふと、木に小さな実がなっていることに気がついた。チビドラゴンの手ほどの小さい実で、黒い球に赤い刺がついていてギザギザして見える。チビドラゴンは実に向かって炎をはいてみた。2、3発当たると、実はポトリと落ちてきてチビドラゴンの足元に転がる。

 匂いを嗅いで、前足と牙で割ってみる。口のなかを切らないように慎重にガリガリしていると、パカリと実が開いた。中からは、怪しく光る黄色のプルプルしたものが出てきた。ペロリとなめてみると、舌がパチパチとしたが甘くて美味しい。チビドラゴンは夢中で食べ、なくなったらまた次を落とし、初めての食事を楽しんだ。


 炎が届く範囲の実を全て食べたチビドラゴンは、少し満たされていた。元気を取り戻し周囲をキョロキョロしていたが、不意にふわりと漂ってきた匂いにピクリと反応した。胃の辺りがざわざわする。吸い寄せられるように、チビドラゴンは匂いのする方向に走り出した。


 匂いは洞窟から少し離れた崖の上からしていた。崖の高さは高く、100メートルはありそうだ。何度か挑戦してみるが、全く登れる感じがしない。チビドラゴンは仕方なく、回り道を探して歩きだした。匂いと直感に導かれ、1時間ほどさまよった後にチビドラゴンは崖の上に到着した。それまでうっそうと茂っていた木が、ぽっかりとない部分があった。

 チビドラゴンはちょこちょことそこに足を踏み入れた。葉っぱや草が敷き詰められているのか、とてもふかふかして気持ちがよい。ただ、それよりももっと興味を引くものが、そこにはあった。


 チビドラゴンの10倍ほどもある動物が、静かに横たわっていた。茶色の毛皮に身を包み、チビドラゴンよりも太い四肢を持ち、左右のこめかみ辺りから禍々しい角が頭から映えている。おそるおそる近づいてみるが、血が出ていて動かない。既に死んでいるようだ。腹の辺りが破られていて、赤い肉が覗いている。

 チビドラゴンは匂いに誘われるまま、肉にかじりついた。身体中がじんわりと満たされるような気がして、チビドラゴンは夢中で食べた。


「グルルルルルルル」


 低い地響きのような音がして、チビドラゴンはビクッと顔をあげる。50メートルほど先にの木々の間をゆっくりと、今食べている生き物の2倍はある生き物がこっちに向かってきていた。くすんだ黄色に赤黒い縞模様が入った毛皮で全身が覆われており、額には一本黒い角が生えている。一歩一歩足をあげる度に見える爪は鋭く、黒々と光っていた。毛を逆立て牙をむき、チビドラゴンに迫ってくる。

 とてつもない恐怖を感じ、チビドラゴンが振り向いて駆け出しと、大きな生き物が強く踏み込む。だが、すぐ後ろは崖でチビドラゴンは数歩もいかないうちに立ち止まる。すぐ横をチビドラゴンと同じくらいの大きさの火球が通りすぎた。大きな生き物の角から放たれたようだ。振りむくと、黒々と光る鋭い爪がすぐそこまで迫っている。チビドラゴンは無我夢中で翼を開き、崖から飛び降りた。


 飛べた、とはお世辞にも言えないが、とりあえず落ちるスピードよりも前に進むスピードの方が速い。地面に激突は防げそうだ。


「グガオォオオォオ!」


 全身がビリビリするような咆哮が後ろから聞こえ、振り向く。チビドラゴンが全然登れなかった絶壁の崖をすごい早さで下りてくる影が見えた。慌てて前を向き直すと、黒い岩山が見えた。チビドラゴンの洞窟だ。必死で羽ばたき、洞窟を目指す。


「ガオォオォォ! グギャオォォオオ!」


 咆哮は既に地面から、しかも結構近くから聞こえる。崖をとっくに下り、ぐんぐん追い付いてきているのだろう。恐怖でつい振り向いてしまったその時、


「ッキュイ!」

 木の枝に引っ掛かって体制を崩し、チビドラゴンは地面に落ちてしまった。咆哮はどんどん迫ってくる。洞窟の入り口はあと50メートルほどだ。チビドラゴンは必死で駆け出した。


「ガルルルル……グルルルル」


 何とか洞窟に逃げ込んだチビドラゴンは、岩影から様子を伺う。寒いわけではないのに、小さな体はプルプルと震えていた。あとほんの少しの差でチビドラゴンを取り逃がした大きな生き物は、悔しそうに唸りながら洞窟の入り口前をウロウロしている。入ってくることはなさそうだ。

 数分ほど匂いを嗅ぎつつウロウロいていたが、ようやく諦めたのか背を向けて走り去っていった。月はもう見えにくくなり、空がうっすら明るくなっていた。それから10分ほどじっとしていたチビドラゴンは、ようやくおそるおそると岩影からでてきた。落ちたときに擦りむいたのか、左後ろ足からうっすらと血が出ている。チビドラゴンはひょこひょこと洞窟の奥に帰っていった。


 天井の穴から、柔らかい光が差し込み、その中心にチビドラゴンが出てきた卵のからがそのままの状態でおかれていた。チビドラゴンは卵の殻を何度か踏み、小さな欠片にすると、光の下に丁寧に集めて上にクルリと丸まった。石の上よりも少しは柔らかかった。チビドラゴンは痛めた左後ろ足をしばらくペロペロと舐めたあと、そっと目を閉じた。


 すぐに小さな寝息が洞窟の中に、規則正しく聞こえるようになった。

ちょっと更新頻度がおちます。

すみません。

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