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13. 血のついたネックレス

「……えっ?」

 ベイリットは冗談を言っている顔じゃなかった。

「……女の子が? 妖の?」

 ベイリットは小さくこくりとうなずいた。


「……たまたま、拾ってかけてみたとか……」

「いや、多分、女の子のものだろうって。……メーズルさんが………。やっぱり、お前も知らなかったよな」

 ベイリットはふぅと小さく息をはいた。


「メーズルさんが言うにはさ、人型の妖もみんなネックレスを持っているそうなんだ。人型だけじゃなくて、ある程度知能が高い奴らはみんな持ってるんだと。……昔、いっぱい見たって言うんだ。その、殺してたころ、な」

「……妖たちも、同じ文化を持ってるってこと?」

「……多分」


 ヨシスケは混乱していた。

 確かに、人型をはじめとして、知能が高い妖の生物がいることはしっていた。人型の妖は服のような布をまとっているし、仲間同士でならコミュニケーションをとれているようだったからだ。

 しかし、意志疎通が全くできないことや、問答無用で襲ってくることから、それほど高い知能だとは思っていなかった。せいぜい喋り始める前の子供のくらいの知能で、いつ見ても凶暴そうな顔で襲ってくるのでそこまで複雑な感情もないのではないかと思っていたのだ。


 しかし、自分たちと同じ文化を持っている。刻んでいる印はよくわからないが、もしかして妖の生物の文字なのだろうか。文字を持つほど、彼らは高い知能を持つのだろうか。

(……でも、それなら……)


「……なんで、意志疎通ができないんだ?」

「……わかんねぇ」

 ヨシスケの呟きに、ベイリットがかえす。


「人間の見よう見まねじゃないかって言う人もいるらしいんだが、メーズルさんはそう思わないらしい。なんでも、今まで、その、やりあった人型の妖は全員持ってたらしいんだ」

「……人型の妖たちに、しっかり根付いてるってことか」

「ああ。でもさ、もし、このネックレスが俺らと同じような使われ方してたとするぜ。なんかあったら、印を刻む。嬉しいこと悲しいこと。俺らと同じように、感じたことを刻んでるんだ。でさ、これをあの子に作ってやったのはさ……」

「……女の子の父親と母親、か」

「俺らと同じようにさ、生まれてきた時にもらったはずなんだ。おめでとう、生まれてきてくれてありがとう……ってさ」


 女の子が亡くなったことを知れば、両親はどれほど悲しむだろうか。そもそも、女の子は白熊に襲われているとき、どれほど怖かっただろうか。そして、死ぬときは……。


 ヨシスケはベイリットの苦しみがわかる気がした。ただ、人型だったからショックを受けていたわけではないのだ。

「……」

 またなんと言っていいのかわからなくなり、ヨシスケは黙ってしまった。


「……俺が殺しちまったのは、もうどうしようもないからさ」

 ベイリットが静かに話し出した。

「……ベイリットが殺したわけじゃない」

「あぁ、うん、ありがとな。でも、助かったかもしれなかった命を俺は助けられなかった。やっぱ、俺のせいで死なせてしまったって、思ってしまうんだよ」

「……」

「でも俺は、絶対忘れないで生きていくよ。女の子のこと」

 ベイリットはネックレスを再び袋に入れると、後ろのポケットにねじ込んだ。


「うん」

「許されることじゃない……と思う。……メーズルさん達を責めてるわけじゃないぜ」

「……うん。」

「しょうがないこと、どうしようもないこと……だった、と思う。メーズルさんたちがしてきたことも、俺がしてしまったことも」

「うん」

「いつか、妖の生物ともさ、話せるようになるかな。話せなくても、意志疎通ができるようにさ。そうしたら、妖の生物も襲ってこなくなってさ。……殺してしまうことも、殺されてしまうこともなくなってさ」

「……なるといいね」

「ああ。本当に」


 一呼吸おいて、ベイリットは勢いよく立ち上がった。

「ごめんな、せっかくお祝いに来てくれたのに、わけわかんない話してさ。でも、ありがとう。少し……気持ちに区切りがついたかな。助かったよ」

「……気にしないで」

「よしっ! この話は終わりだ!」


 ベイリットはヨシスケに向き直って、にっと笑った。まだ少しぎこちないが、気を使っているのだろう。こういう時は、いつも通りに接するに限る。


「もっと飲もうぜ! 俺の兄貴の結婚前夜祭なんだからなっ。俺もノイチゴ酒飲もうかな」

「ははっ嬉しいな。でもお前は酒は止めとけ。どうしても飲みたいならジュースにしとけよ」

「もう去年のはとっくに呑んじゃったよ。酒ほどもたないんだ。……いやまてよ、シロップは残ってたはず……水にといたらノイチゴジュースになるぜ!」

「おおっいいじゃん、お前の家にあんの? 取ってこいよ。……あっとやっぱ俺もいくわ。ついでに、ちょっとお願いもあってだな……ちょっと待っててくれ」

 ベイリットはいそいそと屋根裏へ登っていった。


「なに?」

 戻ってきたベイリットは、小さめの籠を抱えていた。覗き込んだヨシスケは、途端に真っ赤な顔になった。


「ちょっ、お前、これ……」

「男のタシナミだな。これ、悪いんだけど預かってくんない?リーズにはちょーっと見せられなくてさ」

「なっ、俺の家で!?」

「他にどこがあるっていうんだよ」

 ベイリットはケタケタと笑った。


「お前もう成人だろ、ヨシスケ。全くこっちに関してはうぶだよなー」

「うぶとか言うな!お、俺だってそういうの見たことないわけじゃ……」

「ははっ、なあ頼むよ。たまに見てもいいからさ」

「っ!……いいけど……」

「よっしゃ、興味がないわけじゃないもんな」

「うるさいな! もうやめろ!」

「なんでだよ。健全な男なら当たり前なんだよ」

「だからっ!預からねーぞ!」

「ごめんごめん、ムキになるなよぉ」


 ベイリットは楽しそうに笑いながら、籠を置いてコートを羽織る。ヨシスケもまだ耳を赤くしつつ、一度自分の家に戻るために外へ出る準備をするのだった。

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