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12. 生きることと殺すこと

「妖の子供のだったんだ。……シロクマに襲われていたみたいだ。腹減りすぎて、妖の生物でもなんでも手当たり次第に襲っていたんだろう」

 ベイリットへ深くため息をついた。


「……シロクマが離れたから、岩の隙間から出てきたんだろうな。……せっかくシロクマから助かりそうだったのに……俺が邪魔して……」

 ベイリットは頭を深く垂らして、力なく左右にふった。


 ヨシスケはなんと言っていいかわからなかった。すっかり冷えてしまったハーブティを一口飲む。さっき、火傷したところがピリピリと痛んだ。


「俺……人型の妖が死ぬところ見たの、初めてだった。めちゃくちゃ動揺した。だって、本当に人間と同じなんだ……人間の女の子なんだよ」


「……シロクマから追われ、恐くてむちゃくちゃ泣いてたんだと思う。頬に涙のあとが付いてた。……俺が殺したんだ。俺が……」

 震えるベイリットの手をそっと握る。


「……ベイリットのせいじゃな……」

「俺が殺したんだよ!」

 ベイリットはヨシスケが握っている手と反対の手で、テーブルを殴りながら叫んだ。


「俺の矢に気をとられなかったら、逃げ切れていたかもしれない! 俺がもっと早く盾を出してれば、助かったかもしれないんだ! ……俺が、くそっ、俺……」

 ヨシスケはもう一方の手も強く握った。


「……運が悪かったんだ。ベイリットは悪くない」

(もっと気の効いたことが言えたらいいのに)

「大丈夫。俺はベイリットの味方だ。ベイリットは悪くない。絶対にない。だから……」

 しばらく二人は何も言わなかった。ヨシスケはひたすらベイリットの手を強く握り続けた。


 不意に、ベイリットが大きく深呼吸した。

「……悪ぃ。ごめんな」

 ベイリットは顔をあげると、弱々しく微笑んだ。


「かっこ悪いとこ見せちゃったな。」

「ベイリットはかっこいいよ!」

 ヨシスケは咄嗟にそう叫んだ。だが、なんか場違いな気がして、顔を赤くした。そんなヨシスケを見て、ベイリットは小さくと吹き出した。


「ぶふっ、ありがと……くくっ」

「笑うなよ」

「だってお前、面と向かって……ぶっ」

「……悪かったな、気の効いたこと言えなくて」

「いや、すげー助かったわ。くくっ、ありがとう」


 ベイリットはまだクスクスと笑っていた。

(よかった、少し戻ったみたい)

 ヨシスケは残っていたハーブティを飲み干し、もう一杯注ぐために席をたった。


 また2杯分のハーブティをポットに入れて、席に戻った。自分とベイリットのカップに静かに注いでいく。

「……ありがとうな」

 お礼を言うベイリットに、ヨシスケは無言で頭をふると、席についた。


「メーズルさんにもさ、めちゃくちゃ心配かけちまって」

 ベイリットはハーブティを一口飲むと、また話し出した。


「ヨシスケの両親に教えてもらうまではさ、基本的に妖の生物と会ったらどっちかが死ぬまで戦うのが常識だっただろ?だから、自分もいっぱい死ぬところを見てきたし、自分が殺したこともあったんだって、メーズルさんが言うんだよ」

 ヨシスケは小さくうなずく。


「家族や村人を守るために、そして自分が生きるために……そんな自分を軽蔑するかって聞かれた」

「……なんて答えたの?」

「もちろん、軽蔑なんてしないって答えたさ。本心からの言葉だった」

 ベイリットはカップを持ち上げるが、口をつけずにまた下ろしてしまった。


「……そう、軽蔑なんてしないさ。でも、自分のせいで殺してしまったのはさ、やっぱり割りきれなくてさ」

 ベイリットはゆっくりとカップを揺らしている。


「そこから色々考えちまって……そもそも、俺は今日ウミスズメを25匹とってきたわけよ。あと、シロクマも一体な。そいつらも俺が殺してんだよな。でも、それほど罪の意識は感じてないんだ。むしろ、嬉しかったよ。何でだろうな、同じ命なのに」

「……そいつらは、食えるからじゃない? 無駄に殺してるわけじゃない」

 ヨシスケは考えながら言う。


「ああ、うん、そうだよな。でも、妖の他の生物もそんなに感じないんだ。あいつらは食わないのに。……俺は、何を基準に殺してもいいやつと、ダメなやつを決めてるんだろう」

 ヨシスケは昼間に釣ったセーロンガルを思い出した。確かに少し心は痛んだが、さっきまで忘れてしまっていた。


「……あー、くそっ! 悪い、なに言いたいのか自分でも全然わかんねぇ」

 ベイリットは頭をガシガシと掻いた。そしてふと思い出したように、毛皮の袋に手をつっこんだ。この袋はヒレンディールの毛皮から作っているやつだ。ヒレンディールは、大型のトナカイのような妖の生物である。


 ベイリットは袋から何かを引っ張り出した。先ほど見た、血のついたネックレスだった。


「……これさ、なんだと思う?」

「何って、誰かのネックレスだろ? どうしたんだよ、拾ったのか?」

 それは、一見なんてことないネックレスに見えた。ヨシスケ達がそれぞれ持っているのと同じように、小指の先くらいの小石でできている。ただ、何が彫っているのかはぐちゃぐちゃ過ぎてみえず、掘られているはずの名前もよくわからなかった。


「あんまり見たことない石だけど……印も文字もうまく見れないから、かなり昔に誰かがなくしたやつかな?」

 ヨシスケはそういうと、ネックレスを軽く手にとって観察した。

 やっぱり、読み取れる部分はない。

「うーん、印自体少ないみたいだね。小さな子供が落としたのかなぁ」


 そう言ってベイリットを見る。ベイリットは眉間にシワを寄せて、ネックレスを凝視している。何だか、何とも言えない不安にかられて、ヨシスケはネックレスから手を離した。

「……どこにあったの?」

 ヨシスケがそっと聞くと、ベイリットはため息を一つはいて答えた。


「……女の子が……死んじゃった女の子がつけていたんだ」

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