姉と猫
短編書いてみました。
自分の考えた物語が文字になっていくのは楽しい。
学校の登校時間。
ホームルームが始まる少し前に、偶然にも好きな人の背中が見えた。
階段を登って追いかけると、その音で気づいたのか、こちらを振り向いてくれた。
「……陽向?」
少し息が上がった私の姿を見て、その人が階段を下りてきてくれる。
震える声を抑えて、慎重に言葉を選ぶ。
「……放課後、一緒に帰れる?」
私の精一杯の言葉は……。
「ごめん、今日はメグミちゃんに会いたいから……」
見事に断られた。
「……一緒に来る?」
いや、いいよ。
私は一人で寂しく帰るから。
一緒に行って、相手に迷惑をかけたくはない。
「……そう、じゃあまた」
その人は落ち込んでいる私を気遣ってか、軽く手を振ってくれた。
学校が始まるまで時間は無い。
それぞれの教室へと向かい、別れた。
はああああぁ。
溜息が漏れる。
断られるとは思っていなかった。
「陽向? どした」
机に脱力して倒れこんでいる私を見かけたのか、友達が声をかけてきてくれた。
今はほっといて。この机の冷たさに浸っていたい。
「……それは乙女の溜息だね! 告白してふられたか?」
そうだよ。
「相手は誰だい? って聞くまでもないか」
なんだい。
私の恋愛事情は筒抜けだったか……。
「それじゃあ、マズいことしたかなあ。陽向が分かりやすく落ち込んでるって、さっき連絡してしまった」
誰だ? って、……姉か。
こんなひどい姿、見せるわけにはいかない。
せっかくの昼ご飯の時間だ。早めに食べて、元気を出しておかないと。
振られるのには慣れている。
……だから筒抜けなんだろうけど。
「おっ、ようやく食べ始めるのかい? とりあえず一緒に食おうぜい」
友達が前の席に座り、後ろの私の席に昼食を広げてくる。
「……陽向?」
自分のお弁当を食べ始めようとした時、おそるおそる教室の扉を開けて、顔を出してきたのはやはり私の姉だった。
「落ち込んでるって聞いて、一緒に食べよう?」
一緒に食べるのは恥ずかしいので結構です。
それでも姉は、関係無いって感じで私の椅子に詰めて座ろうとする。
「……仲睦まじいことで。元気出たかい?」
……少しは。
「陽向、あーん?」
恥ずかしいからやめて。それにお弁当の中身同じでしょ。
「おいしい?」
まあね。私も手伝ったからね。
残すのも悪いので、姉が差し出してきたおかずを食べる。
いつまでも一緒に居たくはないので、早めに食べてしまおう。
放課後。
宣言通り一人で帰る。
友達が一緒に帰ろうと言ってきたけど断った。
家に帰ってごろごろしたい。この気持ちを早く落ち着かせてやりたい。
「陽向?」
姉だ。
放課後だし、ホームルームが終わる時間もそんなに変わらないだろう。軽く会釈をして、走って逃げようとしたら、腕をつかまれた。
「……落ち込んでるんなら、気分転換に一緒に帰ろうよ。きっと楽しいよ?」
有無を言わせぬ力強さで引っ張られる。
そのまま柔らかい身体で抱きしめられ、胸に顔をうずめさせられた。
「……行こうよ」
私はうなずくことしかできない。
心配してくれる姉を、振りほどくなんてことは出来ない。
「着いたにゃー」
姉の言葉つかいが変わってしまっている。
近所の公園。
姉の存在に気付いたのか、猫がわらわらと寄ってくる。
「よしよし」
無防備に近づいてきた猫の頭を、指先で撫でている姉の顔はいつもと違いとろけていた。
「………」
私に猫は近づいてきてくれない。
いつも遠巻きに眺めるだけだ。
「陽向、こうだよ」
こうって、どうするの?
とりあえず、手を出してみる。
猫たちは、私からいつでも逃げられる位置で動こうとしない。
私もそれ以上は近づけない。
猫も怖いのだ。
やけに大きな瞳で、まばたきもせずに睨んでくる。
「にゃー」
姉はご満悦だ。
目の前で寝転ぶ猫のお腹を撫でまわしている。
…………。
「……メグミちゃんってどの子?」
「今、撫でてるこの子。ちょっと耳が長くてかわいいでしょ?」
……長い、のか?
違いがわかんない。
「私とどっちが好き?」
「メグミちゃん!」
即答か……。
私は猫にも勝てないのか……。
知り合いが飼ってる猫が、私を見るとすんごい目を開くんですよ。
最近、目をつぶってくれるようになりました。