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帆模田玲央の暴走

BLが苦手な方は本当に注意してください。

「…………」


 あの衝撃の事件からおよそ3分が経過した。僕と玲央は無言のままベンチに座り続けていた。

 お互いに引きつった笑顔で大量の冷や汗を流し続けたままであり、その、気まずい。


(どうしてこうなった……)


 いや、そもそもの原因は僕が勝手に玲央の小説を見たことであるのだが。

 今思えば、彼が小説を持ってきていないと言ったときに歯切れが悪かったのは、その小説が他者に見せられるものではないものであったからなのであろう。


 僕が彼の立場だったらどう思うだろうか。自分の持ってるいかがわしい小説を、これから長いつきあいになるであろう初対面の人に見られてしまったら……。


「~~~~~!」


 駄目だ想像しただけで悶絶してしまう。

 そしてこの悶絶モノのシチュエーションを、今回僕は相手に味わせてしまっている立場の人間なわけだ。

 実際に悶絶するということはないが、感じる罪悪感がすさまじい。申し訳なさで胸がいっぱいだ!


 また、本の内容も内容である。これが普通のいかがわしい小説ならば「思春期だねぇ」の一言で済まされるのだろう。


 だが彼の持っていた本はBLモノ。どのようにして一言で済ませれば良いというのだろうか。


 待てよ。

 そもそもこの本を持っていたのも彼の気の迷いであるかもしれない。

 そう、そうだよ。まだ彼が同性愛者であるとは決まった訳ではない。ただこういった本をたまたま持っていただけに過ぎないのかもしれないのだ


『まぁたまにはこういう本も読みたくなるよね』とか言ってフォローすれば何事もなかったことにできるかもしれない。誰にだって気の迷いはあるし、魔が差すときだってあるはずだ。

 そうに決まっている。そうと決まれば、早速フォローをしなければ。


「なぁ、玲央……」

「……だよ」


 フォローをしようと声を出した矢先に玲央の呟きに遮られる。とりあえず彼の話を聞くことにした。


「あぁそうだよ、俺はホモだよ。」


 ……イマナントイイマシタカ?

 その言葉に呆気に取られる僕であったが、そんな僕のことなど気にもせず玲央は引きつった笑顔のまま言葉を続ける


「そうさ、俺はホモさ。学校にいかがわしいBL小説持ってくるような、同性愛者の変態さ。」


 待って!?何か玲央がとんでもないこと言い出したぞ!?

 彼の目はぐるぐると回っており、顔は真っ赤。

 それに加えて、まだ4月というのに、まるで真夏の太陽の下にいるかのように多量の汗を流していた。

 玲央が完全に暴走しているのは明白であり、そして次の瞬間にはもっととんでもないことをまくし立てていた。


「なんなら入学式の時の式辞で晋平を初めて見たときから『こいつかわいいな、ぐへへ』とか思っていたし?初めて名前で呼ばれたときには胸がキュンってなったし?『お互いのことを知ろう』って言われたときにはそれはもう『意味深』なことを考えまくって興奮したさ!」


 おいいいい!!もうこれ完全にフォローできないやつじゃないか!

 てことはあれか?玲央は元々同性愛者で、入学式の時に見た僕に一目惚れした。そこで帰りの遅い僕を無理矢理待ってでも放課後に会いに来たと。

 時々息づかいが荒くなるのは体調不良なんかじゃなくて僕の挙動に興奮していた、ということか。

 こんなの気づけるか!。そんでもってなんか複雑だ。僕に惚れた最初の人が男の人ってことが。


「そういえばさ」

 明かされた衝撃の真実に戸惑っていると、玲央はやたらと低いトーンの声で話しかけてくる

 目からは光が完全に失われていた。はっきり言って怖い。


「そういえば、晋平は彼女がいないって言ってたよね。」


 なんでこの状況でその話を振ってくる必要があるんですかね。

 果てしなく嫌な予感がする。


「そ、そうだけどそれがどうしたの?」


 おそるおそる返事を行う。玲央はこちらを向いて彼特有のイケメンスマイルを浮かべながら


「だったらさ……いっそのこと俺とつきあうってのはよどうよ。」


 という提案をしてきたのである。


「え、嫌です……」


 この間0.5秒ほどだったであろうか。とにかく咄嗟に返事を行った。

 玲央は笑顔を崩さないままこちらに言葉を投げかけてくる。


「どうして?」


「いや、僕女の子とつきあいたいんで……」

 当たり前である。


「男と女なんてそう大差ないよ。」


「全然違うよ……」


「それは男女差別だよ、晋平。」


 いやその理屈はどう考えてもおかしい。そんなこと言ってたら我々が発する言葉の三分の一程は男女差別にあたるのではなかろうか。

 平静こそ装っているものの、こんなことを言う辺り玲央が心の中では暴走していることがよく分かる。


「晋平は男同士というのがそんなに嫌かい?」


(嫌です……。女の子とがいいです……。)

 心の中で呟く。そんな僕の心情を悟ってなのか、玲央は言葉を続ける。


「晋平、確かに男は女とは違う生き物だ。」


 うんそうだね全然違うよ。だからさっきの君の発言は撤回しましょうね。


「男と女とで営むHに対して、男と男とで営むHには魅力をあまり感じないかもしれない。」


 急に何言ってんだこいつ。とはいえその通りなのでこれにうなずく。


「だから俺が今からその魅力ってやつを教えてやる。」


「は?」


 またしても目の前の男はとんでもないことを言い始めた。


「いや……結構です……。」


 そんなこと教えて貰う必要ない、というか願い下げなので全力で拒否する。


「なに、こういったことは実際に経験してみるとすぐ分かるってもんだ。」


 しかも実演してくれるとか言ってるよこの人。そんなサービスなどいらないというのに。

 というか目の前の男怖い……何か目が血走ってきてる……。

 思わずベンチから立ち上がり、彼との距離を取ってしまう。


「いや、校内でそんなことしたら他の人に見つかるし、駄目でしょ。」


 そして冷静に真っ直ぐと正論を突きつけた。

 だがそんな正論など聞く耳持たずといった感じで、玲央は語りかけてくる。


「校内でなければ良いってことかい?ああそれとこの辺りは部活同の行われている体育館や運動場とは離れていて人通りも少ないだろうし、トイレの中で多少声をあげてしまっても見つかることはないだろうから平気さ。」


「ちょっと!?声のトーンがガチなんだけど!?待って待って待って、落ち着いて!!」


 玲央は息を荒げ、目を血走らせ、ゆらりゆらりと僕に迫ってくる。

 はっきり言って滅茶苦茶怖い。

 だって僕の目の前の男は身長が2メートル近くもあるんだぞ?

 多分、というか確実に力では勝てない。捕まれば確実にされるがままだ。


「晋平……晋平……」


「ひえっ……」


 そうこうしている内に玲央はどんどん距離を縮めてきていた。

 僕も必死に後ずさりするが、恐怖で脚がすくむのと、玲央の一歩が詰める距離の大きさによって、もう目と鼻の先のところまで来ている。


(どうする?)


 逃げるか?

 いや、今僕と彼の距離は近すぎる。

 今から逃げたとて恐らくすぐに捕まるだろう。玲央は運動神経も良さそうだし。


 説得するか?

 いや、目の前の男は冷静さを失っており言葉が届くかどうかも怪しい。

 今の彼の様子を見ればはっきり分かる。説得は無理だ……!


 ……あれ?これもうどうしようもないやつでは。


「はぁっ……はぁっ……晋平……!」


 彼の腕が僕の体に伸びてくる。

 これに捕まると間違いなく逃げられなくなるだろう。そしてそのままトイレに連れ込まれて……


 い、嫌だ!

 僕は女の人と清い付き合いがしたい!

 僕はホモじゃない!!


「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


 切羽詰まった僕は手に持っていた鞄を思いっきり彼にぶつける。

 この時僕が狙ったのは、彼の腹部の上あたり。

 流石に顔は危ないと思ったので、鞄を彼の鳩尾付近にでもたたき込んでやることで彼の暴走を止めようとしたのだ。


 ……だがまぁ僕は切羽詰まってたわけで。


 目をつぶりながら鞄を振り回したせいで、僕の想定していた部位に鞄が行かなかった。

 想定していた箇所よりもかなり下のところに鞄が直撃したのだ。

 …………彼の腹部、ちょっと下の『ど真ん中』に、直撃したのだ。


「あっ……」


 つまり、鞄は玲央の『股間』にめり込んでいた。

 しかも鞄の中に入れていた教科書の角が、綺麗に股間にめり込む形。見事なまでのクリティカルヒット。

 それを認識した後、僕は恐る恐る玲央の表情を伺う。


 玲央は先程までの興奮しきった赤面から一転、その顔色をみるみるうちに青くさせていった。

 そして僕の方を向いて一言、苦しさに満ちあふれた声で呟く。


「しんぺいぃ……男にとっての股間は硝子のように脆く、鳩尾とか脳天なんかよりも遥かに急所なんだぞぅ……」


「れ、玲央!?」


 訳の分からないことを言った彼は、そのまま膝を震わせながら股間を押さえ、その場にうずくまってから動かなくなる。

 そんな玲央を見た僕は襲われることが無くなったと安心する反面、またしても彼に対して申し訳なさでいっぱいになるのであった。

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