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スマホからの投稿です。
ブクマ有難う御座います。
18/7/19改稿
主人公の名前を少し変更
翌朝、目を覚ますと同時に自分へと”浄化”をかけるギンジ。
こうする事によって、寝汗でベトついた身体がさっぱりとするのだ。
【生活魔法】を覚える前は、寝る前と起きた後とで最低でも毎日2回は身体を拭いていたのだが、それが朝晩2回の”浄化”へと変化した。
それどころか、日中でも少し汗をかいたら”浄化”手が汚れたら”浄化”食事の前には”浄化”と、かなりの頻度で”浄化”を使う。
キレイ好きなのか、手や身体を洗うのが面倒くさいのか。
ここはギンジの名誉の為に、キレイ好きと言うことにしておこう。
とにかく【生活魔法】を覚えて、何が一番嬉しいかと聞かれたら”浄化”を使える様になった事だと答えるだろう。
その後”収納”から桶を取り出し、中に”飲水”を貯める。
その桶から水を掬い、バシャバシャと顔を洗う。
その後、房状になった木の枝を取出し、そこに昨夜調合した”薬液”を少量たらし、歯を磨いていく。
先程”浄化”したので不要だと思うのだが、この一連の流れが習慣になっているからなのか。
…いや、キレイ好きだからだった。
その後、今日は宿の食堂で朝食を摂る。
まだ日も登りきっていない時間のせいか、どうやらギンジが一番乗りのようだ。
朝食代として200ウェンを宿の受付に払い、代わりに番号の書かれた木の板を貰う。
それを食堂の受付に渡すと、既に用意してあったのか、料理が乗ったトレーを渡される。
それを適当な席に座って食べ始めたギンジ、周りには徐々に人が増えてくる。
そろそろ皆が起きてくる時間なのだろう、これ以上人が増える前にと急いで朝食を平らげる。
皿が乗ったトレーを受付に返し、すぐさま自分の部屋へと戻っていった。
ちなみに味は普通であった。
まだ温かいから食べられたけど、先に盛り付けて置いて渡すだけの仕組みなのだとしたら、おそらく後30分遅く向かえば、大して美味くもない物になっていたかもしれない。
値段と量を考えればこの程度が普通なのかな、等と割りと辛口な評価をしつつ、人が少なくなる時間になるまで部屋に籠もる事にしたのだった。
ーーーーー
そして昼前、組合に依頼達成の報告に向かう。
なお、籠もっていた時間はひたすら”薬液”から”回復薬”を作っていた。
昨夜と同じ轍は踏まぬよう、充分に換気を行い更には”微風”で宿の中へ臭いが行かないように調整した。
”毒消し”に関しては、少々ややこしい器具が必要になるのでまだ調合していない。
それに場所を考えて行わければ、異臭騒ぎどころでは無く本気で人が死ぬ。
なので、後々調合で使う分だけ残し、後は”毒草”として提出する事にした。
「ギンジさん!おはようございます!」
「…ああ、おはよう」
建物に入るなり早々、アンナから大きな声で挨拶された。
3日連続で顔を合わせてるとは言え、未だにアンナに慣れないギンジは、その大きな声に少しだけ引いてしまう。
とは言え、専属の受付なのだからアンナの元に向かうしかなく、やや頬を引き攣らせながら向かう事にした。
「…今日も”薬草”と”毒草”だ」
「えーっと、はい。確かに!薬草15株に毒草9株、合わせて12,000ウェンの報酬ですね!」
ここで言う1株とは、1つの根から生える物と言うわけでは無く「葉を10枚一纏めにしたもの」という意味だ。
そもそも、採取の時は根を残す様に採るし、1つの根からは2〜4枚と、採れる葉の枚数に差異がある為にこの様な決まりを作っている。
最小単位が「枚」で、10枚で「株」になり、10株で「束」となる。
そして、依頼の単位は1株からだ。
「はい、ではこちらが報酬です!」
そう言って金貨を1枚と銀貨を2枚差し出すアンナ、それを受け取り”収納”へとしまい込む。
「…じゃあ、今日も採取に行ってくる」
「はい!…あ、ちょっと待ってください!」
話は終わったと逃げる様に出て行こうとするギンジに、アンナが待ったをかけた。
「…何か?」
「いえ、私はギンジさんの専属ですので少しだけ助言をと思いまして」
振り返ってアンナを見ると、その表情はニコニコと嬉しそうにしている。
そんな表情でそんな事を言われたら、無碍に扱う訳にも行かないな。
と、ギンジは軽くため息をついてアンナの元へと戻った。
「…それで?助言というのは?」
「はい!ギンジさんは元々体術が得意だった為、すぐさま体術の経験を積んだほうが良い…と思ってたんですけど」
得意にしていた事が”祝福”でスキルにならなかった場合でも、全くの素人よりはスキルの発現が有利にはなっている。
と、昨日アンナから聞いた。
これはギンジの【採取】のレベルの上がる速度が早いのと同じ理由で、一つ一つの行動が濃密な”経験”として魂に刻まれるからだ。
ギンジとしても、確かに【体術】のスキルは欲しいと思っている。
それは単純に、請ける事が出来る依頼が増えるからというだけだ。
発現すれば良いとは思っているけど、積極的に修練を行っている訳では無い。
事実、夜になると宿の庭を借りて修練を行っているがほんの軽く30分程だけだ。
「それよりも先ず、生活を安定させる事が先決だと思うんです!」
「…あ、ああ、そうだな」
それは言われるまでも無い事だ、とギンジは思った。
「それでですね、採取依頼だけでは報酬が少なくて結構ギリギリだと思うんですよ」
「…あ、ああ」
それもわざわざ言うまでもない。
ギンジが今泊まってる宿は、物価の高い王都でも安い方では有るが、それでも素泊まり10,000ウェンはする。
食事の事も考えれば、少しギリギリだ。
「実は【採取】のスキルがⅤになると【調合】と言うスキルが派生するんです!」
それはもっと早く教えて欲しかった、もう派生している。
「薬草の採取依頼なら1株500ウェンの報酬ですけど、これが回復薬の納品依頼になれば1本800ウェンの報酬になるんです!」
「…それは凄いな!」
これは素で驚いた。
1株から作れる”薬液”は凡そ”回復薬”10本分、つまり1株が8,000ウェンになるということだ。
単純計算で報酬が16倍になる。
いや、そもそも引き取り不可の物がお金になるのだ16倍どころでは無い。
これはかなり良い事を聞いた。
「そう言う訳で、ギンジさんはこのまま【採取】を伸ばして【調合】を発現させて下さい!一応見本として回復薬を一本渡しておきますので、発現したら直ぐに調合しましょう!」
「…あ、いや」
もう発現している、と言おうとしたところでアンナからずずいっと瓶を一つ渡された。
中には濁った”何か”が入っていて、それを見て目を顰める。
なんだこれは?と訝しみ、瓶の蓋を開けて少量を口に含む。
そしてすぐに吐き出した。
「…ごほっ…これは?」
「あー汚い!もうっ!ギンジさんは初めて見るかもしれませんが、それが回復薬です!味は苦くて飲みにくいですけど、体力を回復する効果が有るんですよ!」
「そんな訳がない!」
そう言って、初めてアンナの前でキッパリとした口調で言いきるギンジ。
「えっ…と、ギンジさん?」
戸惑うアンナを尻目に、今朝作ったばかりの”回復薬”を”収納”から取り出した。
透明な瓶に入った”回復薬”は、透き通る様なキレイな緑色をしている。
「これが回復薬だ、そっちの濁った物と比べてみてくれ。味も清涼感が有って、全く違う物だ」
「あ、あの、少しいいですか?!」
そういって瓶をギンジから受け取るアンナ、光に透かして見たり蓋を開けて臭いを嗅いでみたり。
そして先程のギンジと同様、少量を口に含み目を見開いた。
「っ!!美味しい!鼻に抜ける爽やかな風味で、後味もスッキリとしてる!好みは別れるかもしれませんが、この味なら私は毎日でも飲みたいくらいです!」
感想がどこかのグルメ番組のようになってはいるが、それほど気に入ったと言う事だろう。
まあ、回復薬の感想が効果についてでは無く、味についてと言うのはどうかと思うが。
しかしそれはアンナの方にも実感として現れているようで、少しだけ落ち着いた後にキッチリと評価を下した。
「それに、効果もしっかりと出ていますし間違い無くこれは回復薬ですね」
「だからそう言ってる」
ふむふむ、なるほどと何かを確認するように2口目3口目と瓶を煽るアンナ。
次第にゴクゴクと喉を鳴らす様に飲んで、最後にぷはーっと息を吐いた。
「いやー、凄いですねギンジさん!まさか既に【調合】を発現させて、さらにはこんな美味しい回復薬を開発してるなんて!」
「いや、オレが開発した訳じゃ無いけど」
「そうなんですか?でも私が知ってる限りでは初めて飲みますよ?」
アンナが知ってる限り、と言うのはあてになるのかよく分からないが、ギンジの調合は基本的に母親譲りだ。
その母親は、基本的な事から教えると言っていたのでこの回復薬がギンジにとっては基本の物なのだ。
「んー。まあ、良いです。でも、これでギンジさんの生活も少しよくなりますね!」
「ああ、そうだな。で、今ある回復薬も引き取ってくれるのか?」
「もちろんです!この納品依頼も常時発行しているものなので、現物を持ってきていただけたらそれで完了です!」
「了解」
そういって”収納”から回復薬を取り出すギンジ、それを一つ一つ確認しては受け取っていくアンナ。
しかし…
「あのー…何本有るんですか?」
ギンジが30本目を取り出したタイミングでアンナがややうんざりした様子で尋ねる。
「ん?全部で200本程度だけど」
「にっ?!」
あくまで回復薬の数が、である。
1本で100本分になる”薬液”の数は更に10本以上、全てを回復薬で納品すればそれだけで100万ウェン弱になる。
まぁ、一度に納品すると値が下がったりするかもしれないのでそれはしないが。
「あー!もう、良いです!この際纏めて出しちゃって下さい!」
「いや、取り敢えず今日は100本だけにしておくよ」
そういって残りの70本を纏めて渡す、その全てを今確認する事は出来ないからとアンナが横に固めてどかした。
「後で確認しておきます、取り敢えず先に報酬を渡しちゃいますね」
「それで良いのか?」
「はい、ざっと見た感じ別の物は混ざってませんし品質も同等だったので」
「一目で分かるものなのか?」
「あ、私【鑑定】スキルが有るので!」
汎用スキルの中でもかなり有用なスキルらしく、こう言った場合に大いに役立ってくれる。
物品の鑑定に補正が掛かり、じっくりと見れば物の名称や品質が正確に分かる。
そうでなくても、さっと目を通すだけで真贋を見極める程度の事は出来るそうだ。
その結果同品同質と判断し、後で正確に鑑定し直す必要はあるが、ひとまずは納品完了と判断出来るとの事。
「そうか、それは便利だな」
「ギンジさんも、頑張って発現させてみたらどうです?丁度【調合】の次にオススメしようと思ってましたし!」
ギンジの賞賛の声に気をよくしたのか、先程までとは一転して表情を明るくしたアンナ。
そして金貨を8枚取り出し、カウンターの上に載せる。
「回復薬100本の納品で80,000ウェンの報酬です。どうぞ確認して下さい」
「確かに」
ジャラジャラと手の中で枚数を数え、直ぐに”収納”へとしまい込む。
「…でもギンジさん」
「ん?」
「これだけの回復薬作る分を採取するって結構大変じゃ無いですか?」
「ああ…まぁ、それは」
ほぼ1日掛けて、それも昼食も摂らずに採取していたのだ、大変じゃ無いとは言えない。
「それなのにどうして薬草採取として提出しなかったんですか?回復薬の値段を知ったのは今日ですよね?」
「何を言ってる?引き取り不可だと言ってたじゃないか」
「???」
確かに薬草より回復薬の方が引き取り額がでかい、でもそれを知らなかったのならば1株500ウェンでも引き取りに出すのが普通だ。
と、アンナは考えている。
「んー?まぁ、よく分かりませんけど。これからは500ウェンが800ウェンになるんです、約1.3倍の儲けですね!」
「…ちょっと待て」
ここまで聞いてギンジも気付いた。
「あの濁った回復薬モドキの原料は何だ?」
「何って”薬草”に決まってるじゃないですか、ギンジさんも【調合】があるなら知ってますよね?」
組合の言う”薬草”とは?
薬草採取で唯一引き取って貰えた物は?
薬効は強いが水やお湯に溶けにくく、物凄く苦い為経口ではなく患部に塗布するしか無い物は?
「…あのさ」
「はい、何ですか?」
ギンジは”収納”から、葉に包まれた物を取り出しアンナにわたす。
「薬草の用途間違ってるぞ」
言われた意味が分からないという表情のアンナに、回復薬用と軟膏用の”薬草”の違いを、現物を交えてイチから丁寧に説明していく事にしたギンジであった。
スキルを得ただけでは意味がないと言うお話。
ちなみに回復薬は薄荷味の設定です。
好みが分かれる味ですね、ちなみに私は苦手です(汗)