組合に登録しました
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※前話の、ステータスの数値を大幅に変更しました。
18/7/19改稿
主人公の名前を少し変更
「本当にありがとう…ございました、これはお礼…です」
儀式が終わったのを見計らって、先程の女性が修道服に着替えてやってきた。
後ろ手にモジモジした様子でやってきた修道女に、少しドキっとしてしまったギンジ。
修道女は近くまでやって来て、手に持っていた物を差し出してくる。
後ろにまわして隠していたつもりだろうが、ギンジからはバッチリと見えていた物。
腰くらいまでの長さの棒状の物で、先端にはまるで花弁が広がるようにしてーーー刃が付いている。
戦槌だった。
そんな物を後ろに隠しながら近付いてくる女性、ギンジでなくともドキドキしたに違いない。
いつまで経っても受け取らないギンジに、修道女は笑顔で可愛らしく首を傾げる。
ギンジとしても「ありがとう、抱いて♡」みたいな展開を、期待していた訳では無い。
断じて無い。
しかし「私が焼いたお菓子です♡」とか「私とお揃いの装飾品です♡」みたいな展開は、少しだけ期待していた。
「護身用にどう…ぞ、やっぱり素手は危険…ですから」
「…あ、ありがと…う」
女性らしかぬ贈り物だったが、いつまでも呆けている訳にはいかないと戦槌を受け取る。
柄の部分は、青く塗装され。
先端を囲うように付いた刃に鋭さは無いが、それでも勢いよく振るえば充分と肉を裂く事は出来そうだ。
「私とお揃いなん…ですよ」
そう言って”収納”から、もう一本の戦槌を取り出す修道女。
青かったであろう柄の部分は、所々削れて元の木の色が見えている。
刃の部分にも、所々”シミ”の様な黒い物が見えるが…詮索は止めておこう。
そんな年季の入った戦槌を握り締め、笑顔を浮かべる修道女。
違う、そんなお揃いを求めてなんか居ない。
ギンジはこれ以上ない程にドキドキした。
ーーーーーー
『娘を救ってくれたせめてものお礼だ、今回の儀式は無料ということにしよう。まぁ…あんな娘ですまない、と言う気持ちも込めてだ』
一部始終を見ていた神父は、苦笑いを浮かべながら最後にそう言ってくれた。
正直、これからの事を考えるとお金はいくらあっても困らない。
少しでも節約出来るのならば、それに越した事は無いと素直に頷いておいた。
ただ「…無料、って…商売になって無いですか?」と言ったら「…それは言わないでくれ」と言われたが。
どの宗教であろうとも”神事を行いそれに対してお金を請求する事”は、禁止となっている。
だが神父や修道女も生活を行う人間であり、お金が無いと生きていけない。
その抜け道として”神に仕え、神からの施しによって生きる”の信条で、お布施の”一部”を授かり物としている訳だ。
あくまで”神に対して、自主的に供える”と言う形が必要であり、神殿側は”お値段”や”料金”などの単語を使うべきでは無い。
ましてやその供え物を”無料”と称して、受け取らないのはどう考えてもおかしい。
まぁ…別に啓蒙な信者と言う訳でもないギンジにとっては、どうでもいい事だしただ有り難いだけだ。
母が聞いたらブチ切れるだろうな、とは思ったが。
暫く歩くと、組合の建物が見えてきた。
木造の3階建てで、周囲の建物と比べると二回り程大きく少し圧倒される。
大通りを避けてここまで来たのだが、それでもやはり王都は人が多い。
少しだけ悪くなった気分を落ち着かせ、腰くらいの高さまでしか無い扉を押し開いた。
ーーーーー
「…もう、すっごく格好良かったんだから!こう迫り来る強盗の剣を避けて、バシーン!って…ちょっと、レベッカ聞いてる?」
「はいはい、聞いてますよ。いくらこの時間は暇だからって、何度も同じ事を話さなくてもいいでしょうに」
「そんなに何度も話して無いじゃない!…無いよね?」
「いーや。アンナちゃん、オレが聞いてるだけでももう5回目だぜ?隣にいるレベッカは多分それ以上聞いてるだろうなぁ」
「あら、ガンツさんはまだたったの5回ですか?じゃあ私の代わりにアンナの話を聞いてあげて下さいな」
「それはちょっと…」
組合の建物1階に入ると、正面の奥には受付らしき窓口が見えた。
横に長く作られた木製のカウンター、その上に衝立で仕切り個別の窓口としている。
カウンターの中には仕切りなど存在せず、横へ身体を向ければ受付に座っている者同士の会話も容易い。
アンナと呼ばれた少女が、興奮した様子でレベッカと呼ばれた獣人へと話しかける。
その後ろを、何やら重そうな箱を抱えた男性が通り過ぎようとしてアンナに捕まった。
「…それでまだ未成人だったんだから驚きだよ、絶対に良いスキルを”祝福”で授かるはず!」
「まぁ、確かに聞いてる限りじゃ【体術】の才能があるよなぁ」
「でしょ?!それどころか【体術家】まであり得ると思うのよ!」
「どうかしらねぇ…職業スキルは万人に一人位しか授からないって言うしねぇ」
「でも、もしそんな坊主がウチに来てくれたら…うん、塩漬けになってる依頼も片付いて助かるな」
「大丈夫よ!ちゃんと組合へ登録に来るって言ってたから!そろそろ…あ!」
そう言ってアンナが視線を入り口へと向けると、何処か居心地が悪そうに立っているギンジの姿が目に入った。
自分の居ない所で、延々と自分の活躍を語られていたのだ。
それを聞いて、その渦中に自ら飛び込める勇気はギンジには無い。
「こっちこっち!」
「…どうも」
ギンジに気付いたアンナは、自分の方へ来るようにとブンブンと激しく揺ら…いや、手で招く。
さも今さっき来たかのように振る舞い、先程の会話を聞いてなかった素振りをするギンジ。
アンナがギンジの対応を始めると同時に、他の二人は自分の作業へと戻っていった。
「改めて、さっきは有難うね!」
「…いや、たまたま乗り合わせただけだから」
満面の笑みを浮かべるアンナに対し、ギンジは素っ気ない返事を返すだけだ。
それでも、と繰り返しお礼を言うアンナに軽く手をヒラヒラとさせて返しておく。
軽く自己紹介だけ済ませ、目的の登録作業へと進めていく。
用紙に名前等の筆記項目を埋めて、それをアンナへと渡す。
同時に”身分証明”を見せる事も忘れない。
「ギンジ・イチノセ…変わったファミリーネームねぇ」
「…みたいだな」
「それよりも、本当に15歳の新成人だったんだね!もっと若く見えるのに」
ほっといてくれよ、とギンは思う。
薄い造りの童顔は、少しだけコンプレックスなのだ。
黒い髪と同じく父親から受け継いだモノで、おおっぴらに不満を顕す事はしないが。
「…いいから、早く登録を済ませてくれないか?まだ宿も押さえて無いし、昼飯もまだなんだ」
「あ!ごめんなさい、すぐに処理するね!」
そう言って記入漏れが無い事を確認した後、用紙を手に取り奥へと引っ込んでいった。
「あ、そうそう。ギンジさんってあまり人に慣れて居ないよね?受付担当を固定にする事もできるけど、どうする?」
と思ったら直ぐに出てきて、ギンジに尋ねた。
どう言う事か、良く分からないので「任せる」とだけ答える。
すると、今日一番とも思える様な満面の笑みを浮かべて「わかった!」と叫んで奥へと戻っていった。
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