画期的でした。
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「クリス・ガーネット、どうして貴女がここに……」
ギルバートは自らの後ろを確認し、その人物が既知の者である事に驚いた。
ギルバートと同じく薬師会に所属し、同じく部署の長である人間。
立場は違えど身分は同等、そんな彼女とここで出会うとは露程も思っていなかったのだ。
しかもそのクリスが、先程までだらしない笑みを浮かべていたと知ったら……ギルバートは卒倒してしまうかもしれない。
幸い、その事を知っているのはギンジだけだ。
二人の関係をよく知らない事もあるし、態々告げ口をする事でも無いとギンジは口を噤む。
クリス・ガーネットの、尊厳が守られた瞬間だった。
「いやぁ、この店は常連でね。こうやって、時間を見つけては足を運んでいるのさ」
あっけらかんというクリスに、ギルバートは茫然とする……ギンジは苦笑いだ。
しかし、今の口調……何かを隠している? いや、誤魔化している? 何かは分からないが、ギンジには違和感を感じた。
……まぁ、先程の表情を見てる側としては”何”を誤魔化したいのか想像もつくが。
「時間を見つけて、って……調薬はどうしたんですか?」
「今だって大事な調薬中さ、主に妄想……いや、想像力を掻き立てて新薬の開発に役立てうんぬんかんぬん」
「つまりは、抜け出してきたと」
「まぁ、そうとも言うね」
ペラペラと御託を並べていたが、要はサボりだ。
ギルバートにそう責められたところで、クリスは悪気なく肯定した。
「はぁ……別に構いませんが、ここでの飲食費は経費で落ちませんからね」
「おお! なんと嘆かわしい! 同僚がここまで冷血な男とは!」
頭を抱えてため息をつくギルバート、それに対して仰々しく悲しみを表現するクリス。
ギルバートはまともな事を言っているのだが、寸劇じみたやりとりのせいでどうにも喜劇の登場人物のように見えてくる。
まさにこの場は、クリスに空気を支配されていた。
「で、さっきの話なんだけど」
「まだ話は終わってませんよ」
片手を大きく天に上げ、残った手を胸に当てた姿勢から一転。
ギンジへと話を振ったクリスと、それを半目で諌めるギルバート。
「わかってるさ、いままでボクが無駄な経費を計上した事があるかい?」
「まぁ……それは、そうですが」
だからこそ、先程浮かんだ”横領”の二文字を振り払う事が出来たのだ。
もし普段から、不審な項目があれば真っ先にクリスを疑っていたであろう。
そう納得し、ギルバートはそれ以降は口を噤んだ。
「魔水がタダ同然、興味深い話じゃあないか」
「……失礼だが、貴女も薬師会の方か?」
ああ、そういえば自己紹介がまだだったね。
等と言い、再度先程同様のポーズをとって自己紹介するクリス。
……いちいち、動作のクセが強い。
「ちなみに処女さ!」
「……いや、そこまで聞いてない」
なぜか聞いてない事までぶっ込んでくるクリス、リリィとは違い”ドヤ顔”なあたりがとても腹立たしい。
「魔水が安く手に入るのならば、ボクたち調薬部としてももっと原価を抑えられるのだけどね」
ひとしきり場をかき混ぜて満足したのか、ようやく真面目な顔になるクリス。
「……ああ、まぁ。確かに、魔水はタダ”同然”で手に入る。全くの0、という訳じゃないが」
「一体どうやって? ……ああ、言っておくけど”魔力操作”を使ってっていうのは無しだよ?」
そんなのは魔水を精製するにあたって、最もポピュラーな物だからだ。
言われなくても、クリスだってそんな事は分かっている。
誰でも”簡単”に身につけられる汎用技能、その中でも”魔力操作”だけは毛色が違っている。
技能を発現させる為には、それに殉じた行動を取らなければならないのは周知の事実。
”採取”を得たいなら採取行動、”解体”を得たいのならば解体行動といった具合に。
ならば”魔力操作”なら?
答えは魔力を操作する事で発現する、だ。
要は矛盾しているのだ、魔力を操作する為の技能”魔力操作”を得る為に魔力を操作しなければならない。
リリィがギンジに行った事は、いわば”裏ワザ”的な行為。
そんな矛盾も”魔術”以上の技能を授かれば、簡単に解決するのだが……そんな技能を持っていれば、魔水をせこせこ作るよりもっと稼げる方法がある。
つまり、自らの魔力を消費してまで魔水を作るメリットが魔術師には無いのだ。
魔水が高価な物になるのも、そう考えれば当然の結果と言える。
ギンジは”そっちの”魔水の精製法は知らなかった為、クリスからそう説明されて知識を一つ増やした。
まぁ、これから”母の調薬法”を教える訳だからその対価と思えば良いか……と、ギンジは一人納得した。
「……魔水の加工法、それはコレを使う」
そういって”収納”から取り出したのは、紫色の毒々しい石ころ。
「それは……瘴石? ですか?」
アンナが思わず呟いた通り、瘴気の化身とも言える魔獣から取れる石ころ……瘴石だった。
「正しくは、この瘴石から瘴気を抜いた”魔石”という物を使う」
「魔石と言うと、10年前に【賢者】が新しいエネルギー源として提案した……あの魔石ですか?」
アンナの言うとおり、魔石の精製及び活用法として【賢者】が提唱し……画期的なエネルギーとして、10年前から普及し始めている。
しかしそれらは魔動車など大型魔道具の燃料としてであり、まだまだ研究しつくされているとは言えないのが現状だ。
クリスはその僅かな説明で、ピンと来たのか驚きの表情を浮かべた。
「そうか! いや、何で今まで気づかなかったんだボクは!」
「……クリス・ガーネット?」
自らを責めるクリスの様子を、ギルバートは訳がわからないと言った様子で伺う。
「完璧に瘴気を抜いた魔石は、常に微量な魔力を放出している。その僅かな魔力を収束し、出力とする。ここまでが【賢者】の見解!」
「ええ、その論文には私も目を通しましたが……」
研究者としてのクリスはもちろん、薬師会と言う大きな組織の部門長であるギルバートでもその事は知識として知っている。
それでもなお、理解出来てないギルバートに「だったら……」とクリスは続けた。
「その魔力を水へと”出力”したら? 擬似的に”魔力操作”と同じ事が出来るんじゃないか?!」
「あ……!!」
ようやくギルバートにも理解出来たようで、まさかそんな画期的な……等と驚いている。
くどいようだが、魔石と言う物の研究が進んで居ない現状。
誰でも思いつきそうな事であっても、なかなかポンとは出てこない。
まぁ、後5年もあれば自然と気付けた事ではあろうが。
「すごい! これで魔水の精製を魔術師に頼まなくても済む!」
後はどうやって”水に魔力を染み渡すか”を探るだけだ、そう喜ぶクリスにある意味非情な言葉をかけるギンジ。
「……ちなみに、魔石の全包囲から魔力は出てるから。一番効率的なのは”ただ放り込んでおくだけ”だな」
「…………え」
そんな簡単な事で良いの? と、クリスを含めその場の全員が固まった。
文中にある通り、魔石の利用方など誰でも……いえ、みなさんならすぐに分かる物だと思います。
しかし、文明的に”科学”が発展してない世界で”新しいエネルギー”などと言うものが生み出されたら慎重な扱いになるのも当然の事。
ならばなぜ、賢者が提案する10年前より”先に”その利用法に気付けたのか。
答えは明らかですが、次話で説明いたします。
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