引き抜き工作をうけました。
ブックマーク&評価ありがとうございますm(_ _)m
薬師会の会長から直接指示を受けた青年、ギルバート・アリストンは辟易としていた。
自らは”販売部”の責任者だというのに、何故”調査探索”まで押し付けられるのかと。
まぁ……薬師会の中に”調査部”なんてものは無いので、ギルバートで無くとも管轄外の仕事になるのだが。
それでも誰かがしなければならないのならば、ギルバートに押し付けた会長はある意味有能だと言える。
何故ならば、薬師会で最大規模を誇る”販売部”……その責任者ともなれば、動かす事の出来る人員数は計り知れない。
会長室から出ると同時に、自らの部下へと指示を出し調査を開始した。
調査する人間を確保し、その空いた穴埋めをする人間に特別賞与を出し。
僅か30分と言う短時間で、普段の仕事とは違う特殊な体制を整えて見せた。
ギルバート・アリストンは有能な人物であった。
……少々運が悪い、と言う事を除いて。
たまたまギンジの回復薬販売によって煽りを受け、たまたま会長室にいる時に原因が判明する。
たまたま近くにいた自分が調査を命じられ、その対応を必死にこなした後……ふらっと立ち寄った店で、たまたま”自分で”原因と思しき人物を見つけた。
見つけてしまった。
浮かべた笑顔の内心で、ギンジを恨んだとしても仕方の無いことだと思う。
「回復薬……と言う単語が聞こえまして、良ければ詳しくお聞かせ頂けませんか?」
聞こえてきた内容によると、この少年は”母”に教わったと言っていた。
その母とやらが”調薬部”の人間なら黒、もし全くの関係無い人間であるなら……どうにか薬師会に引き込めないか。
ギルバートはそんな事を思いつつ、ギンジを見つめてそう問いかけた。
「……詳しくも何も、回復薬を作って組合に卸した。ただ、それだけの事だ」
回復薬を組合に卸すのは違法では無い、それはアンナから聞いて知っていたギンジ。
なので、一番当たり障りの無い返事……そう思って答えたのだが。
「それは困りますね、回復薬は薬師会に卸していただかないと」
「どうして?! 別に違法でも何でも無いはずよ!」
ギルバートが困ったように言うと、ギンジの代わりにアンナが叫んだ。
「ええ、別にどこに卸そうが個人の自由です。それを縛る法など、存在いたしません」
しかし、とギルバートは続けた。
「それは、個人で開発した調薬法に限ります。薬師会の調薬法で調薬した回復薬は、薬師会に卸して頂くのがスジかと」
調薬部から調薬法が流出したとは、まだ確定はしていない段階。
しかし敢えて”断定した”と言外に匂わせる事によって、ギンジに対して揺さぶりをかける。
さぁ、どう出る? と、ギルバートはギンジの言動に注意を払った。
「……生憎だが、この調薬法は母に教わった物だ。薬師会? とやらは関わりが無い」
「その”母”が薬師会の人間という事は?」
「……母は教会に属した人だ。まぁ、20年前に還俗して父と一緒になったみたいだが」
教会に属した人間で、調薬に優れた人物などギルバートには心当たりがない。
20年前に還俗と言うことは、その後薬師会に関わりがあったのだろうか? そうあたりをつけた。
「なるほど、あくまでその回復薬は自らの調薬法だと」
「……自らのと言うか、まぁ母の。だな」
このまま追及してもこの少年の主張は変わらない、そう判断したギルバートは流出元を探る事は諦めた。
ならば、と次の指示を遂行する。
「だとすればどうでしょうか。私達”薬師会”に所属し直す、というのは」
薬師会への抱き込み、これが上手くいけば態々流出元を探る必要も無い。
再び回復薬の専売を取り戻し、売り上げも回復するだろう。
「如何でしょう。回復薬1本につき、銀貨8枚で買い取る事をお約束しますが」
「ぎ、銀貨?!」
今ギンジは、組合に1本あたり銅貨8枚で卸している。
毎日1000本、金貨80枚だ。
それをギルバートは10倍の値段で買い取ると言う、これにはギンジよりもアンナの方が驚いた。
「ほ、法外よ!!」
「何故です? 調合師は数が少ないのです。その者達にやる気を出して貰う為、充分な報酬を出すのは当たり前でしょう?」
どうやらギルバートにとって、そこまで法外な値段と言う訳ではないようで。
アンナの叱責に対して、本気で疑問に思った顔で問いかける。
「で、でも銀貨8枚だなんて……組合じゃ、そんなには出せないし」
「それは、貴女方の企業努力というものでしょう。利益の為に調合師に負担を強いる、そのような企業は唾棄されるべきだ」
ギルバートは、本気で調合師の事を思っての値段設定のようだ。
それがアンナにも理解出来たのか、それ以上言い返す事が出来なくなって黙り込んでしまう。
しまいには、目尻に涙を浮かべ嗚咽を漏らし始めた。
「う……ぅ……確かに、ギンジさんの事を思えば……でも、他の組合員の為にも……う……でもでも……」
ギンジにとって利となるならば、恩返しの為に専属となった身としては”鞍替え”に賛同すべきなのかもしれない。
しかし組合の職員として、有能なギンジを手放すのもどうかと言う気持ちもある。
アンナの心境は、まさに板挟みであった。
「……有り難い話だ」
アンナが臥せってしまった事で、当事者でもあるギンジがギルバートと話を始める。
抱き込みは成功かと、ギルバートは内心ほくそ笑んだ。
「……だが、まぁ。今のままの金額で納得してるし、組合から抜けるって事は考えられないな」
ギンジの答えはNO……報酬の増額などクソ喰らえ、であった。
「……っ! どうして?!」
信じられない、どう考えても薬師会に鞍替えした方が得なのに。
デメリットの一切無い話で、断られる事を想像だにしなかったギルバート。
「……オレは、出来るだけ多くの人に回復薬を回したいんだよ」
ギンジの言い分としてはこうだ。
『母の教えである、命に値段をつけない。これは立派な考えであると賛同するが、現実問題として施し手の方だってただの人間である。生活するためにお金は必須であり、それを稼ぐ手段としての回復薬売買……なるほど、どちらにとっても利に沿っている。だがしかし、自分としては”最低限”の稼ぎで構わない。その分多くの人に回復薬を普及させ、少しでも怪我人や命を救う手助けをしたい。それをもって、母の教えに出来るだけ沿って生きて行きたい』
そんな長文を、ギンジが一息に話せる訳もなく。
つっかえつっかえ、途切れ途切れではあるが何とかギルバートに伝えきった。
「そんなばかな?! 回復薬1本銀貨1枚など、僅かな稼ぎどころか大赤字でしょう?!」
「……それは、そちらの企業努力が足りないんじゃないか?」
ギンジにとって世話になっている、専属受付嬢アンナ。
それを泣かせたギルバートに対しての意趣返しなのか、先程アンナが言われた事をそのまま言い返してやった。
「私共薬師会の調薬部からは”中級回復薬1本につき銀貨5枚”というのが、素材代として計上されています。それに人件費を思えば、銀貨8枚でも少し安いくらいだと思っていましたが……」
「……そんなには掛からない、素材は自分で”採取”しているからタダだし。掛かっているのは”瓶代”だけ、それも最近は”樽”で納品してるから殆ど掛かってない」
ギルバートは自らが管理している帳簿を思い返し、調薬にかかる経費を計算していた。
そこに、ギンジから思わぬ実情をぶち込まれた。
「瓶代だけ?! まさか……いや、薬草は採取すれば良いかもしれませんが”魔水”はそうもいかないでしょう?!」
一瞬ギルバートは調薬部による横領が頭を過ったが、すぐに思い直す。
確か素材代の9割は、魔術師による特殊な加工を施された”魔水”が原因だったと。
魔術師にしか加工出来ない……故に外部委託、故に高価。
まさかこの少年は、調合の他にも”魔力操作”を持っているのかとギルバートは戦慄した。
だが、その予想は正解なのだが……不正解でもある。
リリィによって”魔力操作”を手に入れたが、ギンジの持つ魔水にはその技能は使われていない。
そもそも【生活魔法】が使える以前から、母に教わって調薬していたのだ。
ならば一体どうやって?
「……いや、魔水なんかそれこそタダ同然だろう?」
一体何を言っているのか、ギルバートはギンジの言葉に怪訝な表情を浮かべる。
すると、その後ろから声が掛かった。
「その話、良かったらボクにも聞かせてくれない?」
「……っ?!」
突然の声に驚くギルバート、その声の主は白衣を着た女性。
眼鏡を掛け、赤い髪を後ろで纏めている姿は何処か理知的だ。
研究者――そんな言葉がピッタリだと、ギンジは思ったのだが……その顔には見覚えがある。
先程、だらしない笑顔で店員を目で追っていた女性だ。
ブックマーク&評価、まだの方は是非m(_ _)m




