狩りをしました
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18/7/19改稿
主人公の名前を少し変更
その日の昼、ギンジは王都の外にある森の入り口付近へとやってきた。
さすがに3日目ともなると、そろそろ目に映る範囲にある”薬草”の数は少なくなって来ている。
1時間位採取をし、次からは場所を変えた方が良いかも、等と考えながら”収納”から大きめの鍋を取り出した。
昨日”薬液”を作った時に使用した物だ、今日はこの後の時間を調合に使うつもりなのだろう。
薬草を採取している時に一緒に集めていた、枯れ葉を小山の様に盛り、その上に乾いた枝を組み上げた。
”着火”で枯れ葉に火を着けて、それを”箱”で囲み上に鍋を載せる。
簡易的なかまどの出来上りだ。
鍋に”飲水”と”薬草”を放り込み、そのまま煮立たせる。
軽くかき混ぜ、放り込んだ薬草の色素が水に溶け出し、全部抜けて白くなった葉を取り出す。
そのまま水分を蒸発させて、中の色水が凝縮されて黒寄りの深緑になるまで火に掛けておく。
途中何度か水を足して、また煮詰める。
立ち上る刺激臭が無くなるまでそれを繰り返せば”薬液”の完成だ。
殺菌・除菌の効果があって、洗剤代わりに使う事もできる。
ただし原液のままだと、目や鼻の粘膜につくと大変な事になる程の劇物なので取り扱いには注意が必要だ。
これを、加工した特殊な水で希釈することで”回復薬”になる。
「取り敢えず、これで今までの分全部かな」
無心で”薬液”を作り続け、ふと気がつけば日が大分傾いていた。
”時計”で時間を確認すると、門限まではまだ3時間くらいはある。
どうしようか、と軽く逡巡し、結局今日はもう帰る事にした。
「ー”浄化”ー”浄化”ー”収納”ーうん、やっぱり便利だな【生活魔法】は。もっと早く覚えられていたら…っ?!」
調合に使った道具に、手早く”浄化”をかけて”収納”に仕舞う。
さあ帰ろうか、と立ち上がったと同時に…不意に後方から轟音が聞こえ、ギンジは反射的に身構えた。
「…何の音だ?」
どうやら森の中から聞こえて来たようで、音がした方へと目を向けるが…残念ながら木々に視界を遮られて音の発生源は確認出来なかった。
そのまま音のした方から視線を外さず、警戒を続けるギンジ。
やがてガサガサと草葉を踏み鳴らす足音が近づいてきて、木々の影からそれは現れた。
「っ?!豚頭か!!」
ギンジの目の前に現れたのは、魔獣である豚頭だった。
体長は約2m程で、字面の通りに首から上は完全に豚そのもの、首から下は人間と同じ造りになっているがでっぷりとした肉付きをして、知性は無く本能のまま人間に害を成す”魔獣”である。
獰猛で、その巨躯から生み出される力で暴れまわる、魔獣の中ではそれなりに強い。
ギンジが今まで狩った事がある魔獣の中では、最上位と言っても差し支え無いだろう。
いくら体術の心得が有ると言っても、素手で相対して無事で済む相手では無いのだ。
が、それはあくまでも相手が五体満足であればの話。
目の前の豚頭の左半身は、何かに焼かれた様に爛れていて、左腕に至っては肩から先が無かった。
肉の焼ける臭いがギンジの鼻を襲うが、それに顔を顰める事は無い。
残った右腕に丸太ぐらいの太さの棍棒を持ち、ギンジを視界入れたと同時にそれを振りかぶっていたからだ。
振り下ろされたそれを慌てて横へと避け、豚頭の鳩尾目掛けて正拳突きを放つ。
ギンジの拳は狙い通りの場所へと当たり、人間で有れば間違い無く最低でも呼吸困難に陥り、胸骨を骨折。
下手をすれば内蔵を破壊して、死に至るであろう衝撃を豚頭に与えた。
しかし、豚頭は数瞬動きを止めただけで、直ぐにギンジに向かって棍棒を横薙に振るう。
それを後方へと飛び退いて躱し、距離をとって仕切り直しとなった。
「くそ、やっぱり耐久が高いな。素手じゃあ、有効打を与えるのは難しそうだ」
そう言って”収納”から、戦槌を取り出す。
そこそこの重量が有る打撃武器の戦槌、結論から言うとあまり豚頭には効果が無い。
先程の正拳突きが効かなかった理由と同じで、巨体故に衝撃が分散されやすく、分厚い肉が緩衝材となって、衝撃を吸収する役割を果たしているからだ。
有効打を与えたいのならば、分厚い肉を裂き骨を断つ事が出来る”鋭い”剣が一番良いだろう。
それはギンジも理解しているし、豚頭も本能的に理解しているのか。
同じ打撃武器ならば重量のある方が有利、豚頭は非力な人間を叩き潰す為に棍棒を思いっきり振り下ろす。
「ーーっ!!」
最初の振り下ろしとは質の違う、豚頭の全力が込められたソレを、ギンジは左手で綺麗に受け流した。
豚頭の力に正面からぶつかる事はせず半身になって外側へ避け、棍棒に手を添えて力の向きを少しずらすようにする。
すると豚頭の重心が流れて、何も無い地面に思いっきり叩きつける結果となった。
その後受け流した勢いを利用し、後ろ回し蹴りを放つ。
軌道はやや下方、狙うは肉の薄い関節部…豚頭の膝裏にギンジの右足が襲いかかる。
やや時間差をつけて、右足を追いかけるように右手に持った戦槌が振るわれ豚頭の背中を強打する。
如何に打撃に強いとは言え、強制的に膝を折られて踏ん張りの効かない状態では有効打にならずとも衝撃を吸収する事は出来ない。
そのまま前方へと軽く吹き飛ばされて、顔から地面へと打ち付けられる。
「はぁっ!!」
右手をついて起き上がろうとする豚頭に、ギンジの戦槌が襲いかかる。
烈帛の気合を込めて振られた戦槌は、グシャっと鈍い音を出して豚頭の後頭部を叩き割った。
ーーーーー
血の付いた戦槌に”浄化”をかけて、綺麗になったのを確認して”収納”にしまう。
少し神経質に思える程、汚れが無いかを確認するのは、もし自分の戦槌にも”黒いシミ”が出来てしまったら、それを見る度”ドキドキ”する羽目になるからか。
どうやら少し、心的外傷になっているようだ。
倒した豚頭はそのまま”収納”に仕舞い、ギンジは先程轟音がなった方向へと再度目を向ける。
「豚頭は火傷を負っていた、つまり誰かと戦闘した後。って事だよな」
それも豚頭の腕を吹き飛ばし、半身に致命傷を与える事が出来る者。
音がしたのは一度きり、つまり一撃でこれだけの有効打を与えたのだ。
「だとしたら、この豚頭は何故オレの方へ?」
隙をついて逃げ出して来たのだろうか?
「豚頭を追って、誰かが来る様子も無い。って事は…」
相打ち、もしくはーーー
「…はぁ、仕方ない。か」
一通りの考えを口に出して整理した後、大きくため息をついて森の中へと入って行ったギンジ。
しばらく真っ直ぐ歩いて行くと、一人の少女が倒れているのを見つけた。
「やっぱりか、生きてると良いけど…」
全身に傷を負っているせいか、服のあちこちが血で染まっていた。
元は白だったであろうワンピースも、半分以上が赤くなっている。
ギンジは”収納”から”軟膏”と”回復薬”を取り出すと、少女に向かってゆっくりと歩いて行った。
書いててたまに、豚頭が豚肉になるときがありました。
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