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成人を迎えました

スマホからの投稿です。

18/7/19改稿しました。

「〜〜〜♪」



辺り一面、見渡す限りの草原。

遠くに見えるは、鬱蒼と生い茂る木々。

自然豊かな風景の中に、唯一つ場違いにも思える物が有った。


10年程前に【賢者】が発明した”魔動車”と呼ばれる物で、これまた【賢者】が発明した”アスファルト”の上を走るクルマである。

通称”バス”と呼ばれるタイプの乗合魔動車を、ご機嫌な様子で鼻歌混じりに運転する男。


幸いにも、只今の乗客は0人。

男の調子が外れた鼻歌は、誰にも聞かれる事無く済んだ。



「〜♪…………つ!!!」



しばらくゴキゲンに道を走らせていると、前方に白い塊が見え急ブレーキをかける。

かなりの急制動で、もし乗客がいれば大惨事となっていただろう。



「なんだ、一体…」



白い塊の手前で静止するのに成功し、男は慌てて外へと飛び出た。



「…あ?」



その塊は、白いローブを纏った人間であった。

しゃがんだ状態で、アスファルトを撫でたりペシペシと叩いたりしていた。



「何やってんだ?危ないだろ!!」



アスファルトとは魔動車の為に作られた街道であり、歩行者はその横を歩く。

それが10年前に魔動車とアスファルトが出来た時からの常識であり、また法律である。

その事を知らないのは赤ん坊か、はたまた途轍もない田舎者かだ。



「…すいません、初めて見る物だったので」



どうやら、その田舎者のようだ。

立ち上がって、頭を下げる白ローブの人物。

身長は170cmも無い程でやや小柄、顔はフードを目深に被っている為よくわからない。



「なんだ、田舎者か。この道は魔動車用だ、歩行者は少し離れた所を歩くのが常識だぞ」

「…魔動車?」



そう言って、白ローブが男の後ろに目をやる。

アスファルトを知らない田舎者が、魔動車なんかを知っているはずもなく。

男が丁寧に説明してやると白ローブはアスファルト同様に、魔動車を撫でたりペシペシと叩いたりしていた。


呆れた様子で男は白ローブに事情を聞くと、何と王都へと向かう途中だと言うではないか。

ここからだと魔動車で2時間強、つまり200km近くある。

せっかくだから乗せてってやるかと、男が白ローブを魔動車の客席へと案内する。


まぁ、料金は当然発生するのだが。



ーーー



その後、王都の1つ手前の街で乗客を拾った。

商人風のでっぷりとした男性、その連れのケバケバしい女性。

子供連れの女性、カッチリとした制服を来た少女。


帯剣した、傭兵風の男が二人。


王都に向けて発進したその30分後、事件は起きた。



「この魔動車は俺達が乗っ取った!命が惜しければ、大人しく金目の物を出しやがれ!!」



乗合魔動車の中で、一人の男が大声で叫んだ。

乗客一堂がそちらの方へと目を向けると、そこには剣を抜いた男が二人。

一人は運転手の首元へと刃をあてがい、もう一人の男が客席の方へと向き凄んでいる。


突然の出来事に一言も出せず、呆気にとられていた乗客達。

次第に自分達が強盗に遭っているのだと気付いた者から順に、悲鳴があがる。



「やかましい!!」



騒がしくなった車内に苛立ったのか、男が剣を振るいながら叫ぶ。

横薙に振るわれたそれは、近くに座っていた白ローブの顔スレスレを通っていく。

その風圧によって、被っていたフードがめくれ上がりその人物の顔が顕となった。


珍しい黒髪に僅かに赤みがかった瞳、整っているのだが少し幼い印象の”少年”だ。

その少年は怯えるでもなく理不尽を嘆くでもなく、ただ強盗の男を睨みつけていた。



「なんだ…その目は!」



少年の反抗的な態度に、苛立ちが頂点に達した男は剣を振り上げる。

乗客の悲鳴に包まれた中、唯一冷静に行動に移す少年。


振り上げられたと同時に席を立ち間合いを詰め、振り下ろされた男の腕を払う様にして受け流す。

そして体勢を崩した男の頭を掴み、思いっきり床へと叩きつけた。



「がはっ!!」

「どうした…な?!てめぇ!!」



勢いよく叩きつけられた男は、苦悶の声をあげ意識を失う。

その声に気付いたもう一人の男は、運転手から離れ客席へと向きを変えた。

ゆっくりと立ち上がる少年の足元に、相方が伸されているのを見て男は激昂した。


少年の元へと駆けて行き、持っている剣を突き出す。

まだ完全に立ち上がっていない少年には、到底対処出来ない程の剣速。

そのまま吸い込まれる様に少年へと突き刺さった。


”殺った!”と男は確信したが、それは間違いである。

少年が身に纏うローブには穴が空いてしまったが、くるりと半身になって躱しその勢いのまま少年の踵が男の側頭を襲う。

ドサリと倒れた男の表情は、勝ちを確信していたのか笑みを浮かべたまま白目を剥いて気を失っていた。



「…ロープを」



目まぐるしく変わる状況に、周りの乗客達もついて来れなかったようだ。

やや高めの透き通った少年の声が、運転手へと掛けられる。

それを聞いて我にかえった運転手が慌てて魔動車を停め、強盗を縛りあげた。

安全が確保出来たと分かると同時に、客席から歓声が上がる。



「すごい!」

「よくやった坊主!」

「ありがとう…ありがとう…」



余程恐ろしかったのか、感極まって泣き出す乗員までいる。

各々に感謝の言葉を述べられた少年は、照れくさいのか少しだけ頬を赤く染め無表情のまま一礼する。

めくれ上がったフードを被り直すと、表情を隠す様に目深に被り元いた席へと座った。



「貴方、中々やるわね」



座ったと同時に、少年の隣から声が掛かる。



「…どうも」



救って貰ったと言う事もあってか、声の主は少年に対してあまり警戒はしていないようだ。

やれ治安が悪くなっただの衛兵の職務怠慢だのと、少年に向けてというよりも一人で愚痴を漏らすかの様に喋っている。

それに比べあまり人慣れしていないのか、少年の返事は素っ気ない。



「…ちなみに王都へは何しに行くの?観光?もし良かったら私が案内してあげようか?」



無口な少年に対し、ペラペラと話かける隣人。

少年はそちらへと目を向けると、そこには15〜16歳位の少女がいた。

可愛らしい顔つきとは裏腹に、随分とカッチリとした服装の少女。

そのギャップに、ついつい目線はそちらへと向かってしまう。



「ん?この服?これは組合(ギルド)の制服なの」



そう言って少女はよく見える様に、と腕を拡げて少年と向き合う。

濃い青を基調としたややタイトなスカートに、同系色のジャケット。

インナーは白いカッターシャツで、首元には赤いタイが巻かれている。


そんな風に見せつけられると、少年も自然と全身を見回す様に眺めてしまう。

その途中、少女とは思えない程に発達した一部につい目を取られてしまい慌てて視線を外す。

少女はそれには気付かなかった様で、何事も無かったかのように話を再開した。



「支店からの帰りでこんな目に遭うなんてね、乗合魔動車も完全には安心出来ないって事か。で?王都には何を?」



答えるつもりが無かった少年も、少し罪悪感があったのかようやく口を開いた。



「…成人の儀に」

「…え?!」



この世界では15歳になると、王都の神殿で”成人の儀”というものを受ける事が出来る。

それなりに高額のお布施も必要だし、全ての人が行っている訳ではない。

ただ受けておくと様々な恩恵が得られると言う事で、15歳になると同時に受ける人は少なくない。


なら少女が驚いたのは一体何に対してだろうか?

そんな大金を持ってる様に見えないから?

どう見ても15歳には見えない顔つきだから?

それとも【スキル】も持たずに、悪漢を二人も制圧したからだろうか?



「…?」

「そう…そうなんだ!じゃあ、その後は組合(ギルド)に登録に来るよね?!」



組合(ギルド)とは、平たく言えば依頼(クエスト)の斡旋所だ。

組合(ギルド)に持ち込まれる様々な依頼(クエスト)を、組合員の能力(ステータス)に応じて紹介してくれる。


組合員になる条件の一つに”成人の儀を終えている”というものがあり、組合員になる為に成人の儀を受けるという者も大勢いて、組合(ギルド)への新成人の登録率はおよそ7割を占める程だ。



「…まぁ、その為に受けるから」



この少年も例に洩れず、どうやら組合(ギルド)に登録する為に成人の儀を受けるらしい。

その言葉を聞いた少女は、ニコリと微笑む。



「だったら、儀式が終わったら直ぐに来てね。今回のお礼もしたいし」

「いや、別に…」



必要無い。

と言い掛けて、少年は口を噤んだ。


ニコニコと満面の笑みを浮かべ、少年の手を取る少女。

自然と向かい合わせになってしまうのだが、正面から可愛らしい少女に見つめられるなど、人馴れしていない少年には刺激が強すぎたようだ。


王都までの残りの道程。

俯いてしまった少年の横で、少女は楽しそうに王都の見所について語り出していた。

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