思い切って全部オリジナルにする
ファンタジーはある程度自由に書いても問題ないのですが、それでも、現実をベースにした場合、そこからズレや違いがあるとつっこんでくる読者さんもいるわけです。
ファンタジーで多いのは、中世ヨーロッパ風の世界と書きましたが、当時の貴族の生活や、社交界でのルール、爵位、テーブルマナー、その他暗黙のルールは存在します。
いくらファンタジーであっても、その手の情報に詳しい人が読めば、「この身分の人とこの身分の人が結婚することは、現実ではありえない」「コース料理の出される順番が違う。スープはメインディッシュより先に出されるもの」などとツッコミが寄せられることも、やはりあるわけです。
「これはファンタジーですから」でまかり通ることもあるでしょうが、読者さんからすれば「最低限、調べておくべきでは?」と思われることもあるのでしょう。
そういう読者さんからのツッコミを回避するには、やはり、下調べくらいはすべきですが、せっかくなら、全てオリジナルにしてしまうのもありです。
爵位などは割と頻繁に出てくると思います。「○○男爵」や「○○侯爵」、「○○子爵」など、小説で見たことがあるという方も多いでしょう。
しかし、一方でその手の順位や特権などを熟知されている方もいるのです。
そういう人からすれば「この身分の人はこんなことをしないことくらい、ネットで検索すれば簡単にわかるはずなのに。全く調べないで書いたの? いくらファンタジーとはいえ、手抜きすぎる」という印象を持たれるかもしれません。
それなら、どうするか。
その説明をする前に、以下の文を読んでください。
これはウィキペディアから抜粋したものですが、平安時代の女性の階級です。
平安時代以後に生じた呼称 (※説明文は省いています。)
中宮
女御
更衣
御息所
御匣殿
尚侍
典侍
……とあります。上記の名詞は、源氏物語など、古典を読んだことがあってなんとなく知っている、見たことがあるという方もいるでしょうし、逆に、ちんぷんかんぷんだったり、初めて見たという方もいたりするでしょう。
それでも、仮に「更衣程度の身分でこの私に、そんな口を利くとは」とか「いずれあなたには中宮になってもらいます。そのために、必要な知識や振る舞いは、今から身につけてください」などとキャラが話していると、「このキャラは『更衣』より上の身分なんだ」「『中宮』はこのキャラより上の身分なんだ。そして、このキャラはいずれ『中宮』に身分が変わるかもしれないんだ」と掴める人はいるでしょう。
何が言いたいかと言うと、つまりは、「階級や身分の名前なんて、順位や立場が読者さんに伝わればなんでもいい」というわけです。誰が誰より上か下かわかればいいだけなのです。逆に言うと、貴族や男爵や侯爵が出て来たとしても、誰が誰より上か下かがわかりにくいと、あまり階級や爵位を書く意味がありません。
それなら、いっそのこと、自分で全部作ってしまえばいいわけです。
例えば星の名前から適当に「スピカ」「シリウス」「ベガ」「カペラ」と引っ張り出してきましょう。これを爵位の代わりに使ってしまうのです。
そして、階級の順位はキャラの会話でさりげなくしてしまえばいいのです。
「近くにずいぶん大きな馬車が止まっていたけど、何事?」
「なんでも、スピカの方がいらしているどうよ」
「スピカ!? そんな高貴な身分の方がなんでこんな田舎に?」
「結婚相手のカペラの方の別荘があるから、遊びに来たそうよ」
「カペラ? カペラは確かに私たちからすれば、はるか上の階級だけど、スピカの結婚相手として身分が低すぎない? スピカは同じスピカか、一つ下の階級のシリウスを結婚相手にするものでしょ? シリウスの下のベガの階級であっても、下手をすれば結婚相手が見つからなかったって言われかねないのに、どうして、さらにベガより下のカペラ?」
こんな感じで、会話でさりげなく設定を説明してしまえば、順位を読者さんに伝えられますし、男爵や侯爵とか実在する爵位を使ったがために、「その爵位の人がそういうことをすることはありえない」とつっこまれる心配はありません。
呼び方も「○○男爵」「○○侯爵夫人」の代わりに「○○・スピカ」「○○・シリウス夫人」などと変えてしまえばいいのです。
カタカナ語だらけで、名前か階級かわかりにくくなりそう、と心配な方は漢字を適当に組み合わせてしまっても問題ないです。
「啓貴士」でも「天界爵」だろうが、「大貴公」でも「公大爵」など、適当な漢字の組み合わせでも、「太陽爵」「月爵」「星爵」でも、それっぽいものでそろえた称号でも、なんでもいいのです。
ファンタジーっぽい、オシャレな階級を作ってもいいですね。「氷月」「火花」「白羽」「紫雨」……綺麗な印象の漢字を組み合わせて作ってみてもいいかと思います。
面倒な人は「第一級貴人」「第二級貴人」のように、数字で表せば、説明さえも省けます。
ついでに、こういう「オリジナル階級」を一つ作ってしまえば、次のファンタジー小説に盛り込んでも構いません。「使いまわし」と言われようと、「私の小説の階級は、どの話でもこれを使います」と使い続ければ、その作者さんの一つのスタイルとなり、個性となります。
また、通貨の単位も自分で作ってしまうのもありですね。
リンゴ一個の値段が百シリウスとか、一スピカなどだったら、だいたい一シリウスは現実世界の一円くらいに値するのだろうか、一スピカは百円くらいの価格だろうかと想像できますので、現実世界の人が買っても違和感のないもので、さりげなく価格や価値を伝えるのもいいですね。
他にも、オリジナルのマナーや暗黙のルールとかも作ってしまうのもありだと思います。
その世界独特のお茶会があったとします。
例えば、「フェイク・ガーデン」と呼ばれるお茶会に主人公が御呼ばれしたとしましょう。
「はあ」
思わずため息が出た。フェイク・ガーデンは私が一番嫌いなお茶会だ。
その昔、ある貴婦人がテーブルに飾る花がなかったがために、花より安く、それでいて色鮮やかなお菓子を皿に乗せてテーブルに置き、客人をもてなしたことが始まりらしい。
花の代わりに、花のようなお菓子でもてなすのがルール。
そう。つまり、フェイク・ガーデンで出されるお菓子は、どれだけ空腹であろうとも決して食べてはならないのだ。
決して食べることが許されない、美味しそうなお菓子を前に、ひたすらお茶だけを飲み続ける、なんとも空しい茶会。私にとっては拷問以外のなにものでもない。
……こんな感じで、「お菓子が出されるのに、絶対にそれを食べてはいけない」など、現実ではありえないマナーや暗黙の了解なども作っておくと、ファンタジーならではの世界がより見えてくると思います。
せっかくのファンタジー小説ですから、思いついた設定を自由に投入してみてください。