ファンタジー世界にもリアリティは必要
ファンタジー小説の魅力は、この現実世界では決して見ること、体験することのできないことを疑似体験したり、味わったりすることだと思います。
そして、作者さんにとっては世界を自由に設定して書きたいように書ける手軽さが魅力でもあると思います。
現実世界を舞台に書こうと思ったら、やはり、最低限調べておいた方がいいこと、場合によっては取材の必要も出てきます。そういう、取材を含め、調べ物をしながら小説を書くことを楽しめる人はいいのですが、そこまでしたくないという人、もしくは、現実世界を舞台にすると泥臭い部分が出てくるからいやだ、ひたすらロマンティックな物語を書きたい、という人にはファンタジーは打って付けだと思います。
ただ、ファンタジーと言っても、最低限のリアリティは必要です。
いくらファンタジーであっても、ツッコミどころ満載だと、読んでいてしらける読者さんも出てくるでしょう。ストーリーや設定に矛盾がないようにするのはもちろんですが、「たいていの人はこういう場合、どういう行動をとるのが自然か?」ということをしっかり書いておく必要はあると思います。
例えば、先に出した「毒の雨の降る世界」が舞台だとしましょう。
毒の雨に当たれば皮膚病になる、最悪死に至る、しかも、その雨は何十年も前から降るようになったという設定の場合、その世界の住人はどんな対策を取ると思いますか?
おそらくは雨をはじく特殊な繊維の服を着たり、常に傘を持ち歩いたり、街のいたるところに雨宿り(避難)できる場所が設けられたり、もしくは、住む場所を地下に移すくらいのことをやっていても不思議ではないでしょう。
それが、雨が降る度に住人が「雨だ! 毒の雨が降ってきたぞ!」「みんな、早く屋内に避難しろ!」などと、騒いでいるだけで対策を一切取っていないと、読者さんに「ここの住人はなにをやっているの? 自分の命に係わることなのに、なんで、何十年もの間なんの対策も取らずに、雨が降る度に騒ぐの?」と疑問に思われるでしょう。
それはファンタジーというよりは、作者側のご都合主義にも映りかねないので、最低限、「こういう世界があったとしたら、このキャラはこういう場合、どういう対策を取るだろう」と想像してみましょう。
また、リアリティが必要なのは、世界だけではありません。
キャラ、特に読者さんが自分を重ねたり、感情移入をしたりする主人公は重要です。
例えば、主人公がその生い立ち故に迫害や差別をされているとしましょう。
家族を早くに亡くし、友達と呼べる親しい人もいない、周りは自分に対して敵意を顕わにしている……。そんな環境で育った主人公はどんな性格になるでしょう。素直で純粋無垢で明るくて人懐っこい、という性格にはまずならないでしょう。
主人公が逆境にめげずに這い上がるシーンは読んでいる人を勇気づけますが、あまりにもひどい逆境だと、主人公が純粋であることが難しくなりますし、そんな中でいつまでも変わらず明るく朗らかだと、けなげどころか、「いくらファンタジーでも、リアリティに欠ける」と思われてしまいます。逆に、攻撃的で冷徹な性格の主人公を書きたいのなら、これくらい徹底して不幸な生い立ちや逆境を書き込む必要が出てくるわけですが。
逆境にめげない主人公にも、癒しや安息は必要です。
敵がいるなら、なにがあっても主人公の味方を貫いてくれるキャラがいるとか、主人公の心を癒す出来事を書きましょう。それによって、逆境もあったけど、このおかげで主人公は純粋さを失わなかったと言えますから。
この他にも、「なぜ、主人公はこんなことをしたのか?」という説明にもリアリティは持たせた方がいいです。
例えば、真面目で臆病なところのある主人公が立ち入り禁止区域に入ったとしましょう。それはなぜか?
この行動の理由が、「主人公の気まぐれ」だったらどれくらいの人が納得するでしょうか?
おそらくたいていの人が、「その性格の主人公が、そんな理由で立ち入り禁止区域に入るなんて、ありえない」と思うでしょう。
しかし、もし、主人公の大切な親友が行方不明になったとしたらどうでしょうか。そして、親友の日記や近所の人の証言から、立ち入り禁止区域に一人で入ったことがわかったとしたら。しかも、その区域はずっといると命に係わる場所で、誰かに知らせて親友が救出されるのを待っていたら、親友の命は危ないかもしれない、最悪、親友が死んでしまうかもしれない……。
そんな状況から、怯えながらも主人公が、「立ち入り禁止区域に入ることよりも、親友を失うことの方が怖いから」と、立ち入り禁止区域に入ったとしたら……。
こちらの方がまだ、気まぐれという理由よりは説得力が出てきますね。
このように、主人公がどういう場合なら、このような行動をとるのが自然か考えて設定してみましょう。