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「世界」を書くか、「キャラ」を書くかを決めましょう

 ファンタジー小説を書く上での注意事項、というほど大げさなものではありませんが、私個人が「こうした方がいいのでは?」と思うことがあります。

 それは「世界を書くか、キャラを書くか、どちらかに絞った方がいい」ということです。


 まず「世界」とはなにかというと、主人公が生きる場所、舞台となる場所のことです。そして、「キャラ」は読んで字のごとく、キャラクター、主人公のことです。


 せっかく小説を書くのなら、読者さんをあっと驚かせる不思議な世界を書き、さらに、そこで生きる主人公もカッコよくてハイスペックで個性的、というものを書きたいと思われる方もいらっしゃるでしょうが、私からすると、欲張るのはよくないです。

 というよりも、世界とキャラの両方が個性的で魅力的という小説を書くのはかなり難しいと思います。


 主人公が目立てば、自然とその背景である世界の持ち味は薄れますし、世界が個性豊かになれば、せっかく主人公をハイスペック設定にしても、それが生かせない場合が出てきます。


 例をあげていきたいと思います。

「世界」が特徴的なのは、ジブリ作品に多いですね。「風の谷のナウシカ」は巨大なむしや腐海の森が出てきますし、「もののけ姫」では神なのか、妖怪なのか、よくわからない不思議な生き物(?)がたくさん出てきますし、「千と千尋の神隠し」も個性豊かな神様や珍しい街並みや建物が多々見られます。


「不思議な生き物が常に闊歩して、不思議な現象が起こって、現実には存在しないような建物が出てくるファンタジー小説を書きたい」と思っている人は「世界」を書くと決めて、世界に重点を置く代わりに、主人公は「割と普通」「どちらかというと平凡」というくらいの薄味のキャラにした方がいいです。

「世界もキャラも、どっちも魅力的だと思われたい」と張り切って書いても、結局は主人公が大した活躍をしない、主人公の特技を生かせなかった、となりかねないでしょうから。


 先にあげた「風の谷のナウシカ」と「もののけ姫」の、それぞれの主役は「ナウシカ」と「アシタカ」ですが、私から見ればどちらもキャラとして、これと言って特徴とか個性というものを感じにくいのです。魅力がないというのではなく、このキャラと言えばこれ、という独特の色というか、持ち味というか、そういうものが掴みにくいのです。


 もちろん、じっくり注目すれば、それぞれのキャラならではの魅力や個性は見えてきます。

 ナウシカは手持ちの火薬や銃を使って王蟲の殻を切り取って持ち帰る知能や技術もあり、人にも蟲にも優しい博愛的な性格で谷の人々からも信頼されています。

 アシタカも物語の中で人助けを何度もし、どんな時も沈着冷静で堂々としていて、タタラ場の人たちとサンの間に入って仲裁をしようと働きかけます。

 一言で表すとこの二人は「ハイスペック」「理想的」「憧れの対象」となるのでしょうが、逆に言うと、「人間臭さ」とか「親しみやすさ」というものが欠けているようにも思えます。


 その一方で「千と千尋の神隠し」の主人公、千尋(千)は、いかにも普通の女の子です。それどころか、見知らぬ世界でオロオロ慌てたり、わあわあと騒いだり、「どんくさい」とか「頼りなさそう」という印象すら受けます。というより、世界が圧倒的過ぎて、千尋のような普通の子では、その世界に振り回され、結果、頼りなく見えるのかもしれません。

 それでも、千尋の「普通」である部分こそが、あの個性的な世界では、かえって魅力的に見えるのではないかと思います。


 仮に、好きなジブリのキャラランキングがあれば、ナウシカやアシタカが上位で、千尋は下の方にランクインするかもしれません。しかし、物語を通してみると、千尋の方が「世界」の中で生き生きしているように見えるのです。


 単純に表情や感情がわかりやすいだけという理由もあると思いますが、ナウシカやアシタカもそれなりに表情の変化や感情的な面あるにも関わらず、やはり、物語の中で魅力的に見えたのは千尋の方だと思うのです。

 それは、千尋が圧倒的、個性的な世界に対して、「小さな存在」「普通の女の子」であるからこそ、対比効果により、「普通であること」が逆に彼女の個性になったのではないかと思います。


 わかりにくい人のために、別のものに例えますと、真っ白な紙に赤いインクを垂らすと、その部分が目立ちますよね。逆に赤い紙なら、白いインクを垂らすと、その白さによってインクの存在が目立ちます。

 しかし、赤い紙に赤いインクを垂らすとどうなるかと言うと、途端に埋もれて見えます。むしろ、インクの存在に気付いてもらえないかもしれません。


 世界を個性的に、同時に、そこに生きるキャラはハイスペックにしようという試みはこの「赤い紙に赤いインクを垂らすようなもの」だと思ってください。主人公が見えにくくなってしまうか、逆に世界の設定がしょぼく感じられる可能性が出てきます。


 ただ、誤解のないよう、申し上げますが、「普通」と言っても、「全く個性や特徴がない」というわけではありません。

 ファンタジーの世界で生きるキャラならではの魅力や個性があってもいいでしょうし、そういった魅力や持ち味があるからこそ、その部分以外の「普通の部分」が映えるものだと思います。


 例えば、主人公が悪魔や妖精など、人間以外であってもいいのです。ただ、「そのキャラが悪魔や妖精であることを除けば、人間の自分とあまり変わらない」と読者さんに思われるくらい、普通の部分が目立つ設定にした方がいいということです。


 ダークな見た目の悪魔なのに虫が苦手だとか、愛らしい妖精だけど方向音痴で初めて訪れた場所では必ず迷子になってオロオロするなど、「普通の人間っぽい部分」を書いて、結果「普通の子」に見えるようにした方が、かえって、そこが魅力的に見えると思います。


 先にあげたナウシカやアシタカは私からすると、かっこよすぎて、非の打ちどころがなく、わかりやすい欠点がないがために、心にひっかかるものがないという印象なのかもしれません。逆に千尋は「手際が悪いな」とか、「放っておけない」と思わせる部分があり、この部分が心にひっかかり、結果、そこが千尋の持ち味や独自の個性に見えたのかもしれません。


 また、「世界」を書くとなると、異世界転移でないと書けないように思えるかもしれませんが、世界とは別に、主人公が今いる世界とは別の世界や、広範囲である必要ありません。


 例えば、主人公がうっかり立ち入り禁止区域に入り込んでしまい、そこには、これまでに見たこともない生き物がたくさんいたとか、美術館や博物館の中にいた主人公が、何者かの魔法の悪用によって、そこに閉じ込められたなど、限られた場所であっても「世界」は書けます。

 この他にも、田舎に住む主人公が都会にある魔法使いの学校に入学するとか、これまで貧乏生活を送っていたのに、とあるお屋敷にメイドとして雇われ、これまでの生活とは一変、周りはきらびやかなものだらけで常に驚きっぱなし、という設定も「世界」を書くことになります。


 主人公が引っ越しや入学などでこれまでの生活が一変する、その変化を書きたいという人、主人公がこれまでに見たことのないものを見て驚いたり、これまでにない体験をして感動したりするシーンを書きたいという人は「世界」を書くことに力を入れ、主人公自身には、ちょっとした個性や特技を持たせる程度にして、下手にハイスペック設定にしないようにしてみましょう。



 次に「キャラ」に重点を置き、代わりに「世界」を普通にした場合を見てみましょう。

 同じくジブリの作品に「魔女の宅急便」があります。

 主人公のキキは生まれ故郷を離れ、別の土地で修行する魔女です。設定としては、黒猫のジジと会話ができる、ほうきで空を飛べるくらいで、呪文を唱えてモンスターを召喚、というようなことはできません。


 それでも、物語の中でキキはうんと個性的に見えます。それはなぜかというと、キキがいる世界が「普通」だからだと思います。

 もちろん、街に住む人が魔女を珍しがっても、パニックを起こすとか、過剰にフィーバーすることはなく、「魔女は存在するもの」と認識している時点で、一種のファンタジーの世界ではありますが、「魔女の存在を誰もが認識している」こと意外は、現実世界となんら変わりはないのです。そこに生きる人たちがパンを店で買ったり、自転車に乗ったり、赤ちゃんをベビーカーに乗せて歩いたりと、そういった、この現実世界でも見られる光景がそこにはあるのです。


 この「普通の世界」を生きるからこそ、キキはほうきで飛んで、黒猫と会話ができるくらいの特徴しかないにも関わらず、とても強い個性や持ち味があるように映るのではないかと思います。


 なので、キャラを書きたい人は、魔法使いがいる世界など、ファンタジー要素溢れる世界に設定したとしても、それ以外の部分では、「この現実世界と大差ない」と思われるような、日常的なシーンを入れるとキャラの個性が目立つと思います。


 ファンタジー小説を書きたい人はまず、「世界」と「キャラ」どちらを書きたいのかをじっくり考えて、「世界」を書きたいのなら、「平凡な主人公」をそこに書きましょう。


 もちろん、話の内容によっては、主人公を普通にしたつもりなのに、読者さんに「個性的」と思われることもあります。それはそれでいいのです。世界にも、キャラにも魅力や個性を感じてもらえたのなら、それはそれで大成功です。


 ただ、どちらも目立たせようとすると、上手くいかないことがあると思いますので、小説を書く際は、思い切ってどちらかを「普通」にする勇気を持った方がいいと思います。


 平凡なキャラにすると、つまらなくなりそうと思われるかもしれませんが、個性豊かな世界が舞台なら、平凡さが逆にそのキャラの個性や魅力になりますので、心配しなくても大丈夫です。


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