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巡礼編4「アリスシティ」

「はい、到着しましたよー」

「流石に…疲れたね」

私はそう言うと身体中についた雪をほろっていく…とんでもない吹雪を抜けると、不思議な事に暖かい街道に出た。

久しぶりに見るアスファルトの道路…

「あ…後はここを道なりに進むだけ…」

突然エリィがうずくまった。

狼たちの姿が辺りから消える。

「エリィ」サクラが駆け寄る。

「エリィ、水…水飲んで」

私は鞄からよく冷えた水が入った水筒をエリィに渡す。

「す…すいません…」エリィは地面に座り水筒を開けて何口か飲む。「ふぅ…」

…そうか。辺りの気温はかなり暖かい。

恐らく20度ぐらいはあるに違いない。

冷気そのものであるエリィには…かなり厳しい環境なのだろう…。

「そう言えば…どうしてエリィはそんなに厚着をしているんだい?…こんなに温暖ならいっそ…」

気になったので私は訊ねた。

「いえ…逆に薄着になんてなったら死にかねません。冷凍庫から取り出した氷を、そのまま置くのと、何かでくるんで置くのとでは溶け方が全然違うんですよ?」

「あぁ、そうか」私は思い出した。「毛布でくるんであれば暖かい空気を取り込みにくいから溶けにくい…って奴だね」

「…?」サクラは首を傾げる。

「さすがルイーゼさん!まぁサクラちゃんには分からないかもですねー…ってルイーゼさんって教養あるんですか?少し高度な物理学ですよねこの話…」

エリィは驚きで息を飲んでいた。

「私の時代ではほとんどの人が学校で勉強してたからね…」

私は遠い目をして言った。

…私はかなりサボってたけどね…

「学校…昔そう言う場所があったって聞きますけどねー。ただ、もしかしたら無能力者地区…【オフライン】にまだあるかも知れませんが…」

オフライン…なるほど、ギルドストーンからかなり離れた、能力者が能力を行使しづらい場所か。

「エリィ、大丈夫そうなの?」

サクラはエリィに手を差しのべた。

「えぇ。なんとかなりそうですよ」

エリィは立ち上がると、私を見つめた。

「あら、ルイーゼさんも顔色が…ああ、忘れてましたすみません!」

突然エリィは私に向けて指を鳴らした。

身体中が突然軽くなった。

「あれ…?これは…」

「あのマイナス気温の環境でも普通に身体が動くようにコアを凍らせていたんですよ…気づかなかったでしょう?」

「コアを…凍らせたぁ!?」突然胸に霜焼けのような痛みが走った。「いたっ」

「…いつものこと。だから…」

サクラも片手で頭を押さえていた。

…道理でストーブもないあの空間で凍えもせず過ごせた訳だ…。

「ここがアリスシティ…」

私は呟いた。街の周囲は頑丈な塀で囲まれ、門の向こうには高くても五階建ての白い建物が規則正しく建っている。

「待て」白い作業服を着た男が突然現れた。手には小銃を持ち、こちらに向けて構えている…。

「政府認可組織201【ファランクス】のエリィ=エヴァーレインです。目的は…うーん、観光…に当てはまるんですかねぇ」

「認識する。動くな」白い作業服の男は突然小銃でエリィを狙い、トリガーではなくその横のボタンを押した。

赤い光がエリィに当たり、エリィは顔をしかめながら男に言う。

「あの、この光結構熱いから早くして下さいよ…あまりに暑いと周囲の空気を無意識に冷凍しかねませんし…」

男は眉をピクリと動かした。

「…認識した。通れ」

エリィは溜め息をつくと街に入った。

「清水音桜【しみずねさくら】…観光…」サクラはそう言って両手を上げる。

「よし、通れ。ん…見ない顔だな…」

男は私を睨んだ。

「えぇと…自己紹介と目的を言えば?」

「あぁ。まぁいい喋りながら手を上げてろ…いまから認識する」

「はい…私はルイーゼ=ラストワン…目的はエリィと一緒で…観光です」

「…はぁ!?」「うわあ!?」

私はかなりビビった。

男は銃の側面を手で叩き始める。

「畜生、イカれやがった…あぁ、行け行け…あのファランクスのエリィと一緒なら問題はないだろ」

「あ、ありがと…」私は門をくぐるとエリィに話しかけた「随分と厳重な場所…」

「えぇまぁ、こうでもしないと街のいざこざが増える原因になりますからね」

エリィはそう言いながら水を飲む。

「…早速向かう?」サクラはチラチラと周りを見ながら言った。

「そうですね…まずはルイーゼさんについて本部に報告しなくては…」エリィはそう言うと私の方を振り向く。「さぁ、本部までご案内しましょう。途中に商店街が有りますが、まぁ後でということで…」

「分かった」私がそう答えると、エリィは両手をパチンと合わせた「さて…行きましょうか、ついてきて下さい」

途中明らかに危ない目をした連中が沢山いる場所を通ったが、不思議とこちらを見ると皆目を反らしている。

中には笑いだす者もいた。

「?」疑問には思ったがとりあえず私はエリィの後に続いて歩いた。そうしているうちにエリィが足を止める。

「御苦労様です」エリィはもう一度手をあわせて門の前の男に声をかけた。

そこはかなり見覚えがあった。

そう、私が二百年眠る前に襲撃した、【スコーピオンテイル】のアジトだった。

天然の地下空間を使用した、入り口さえ分からなければそこにあると分からない、街の下にあるアジト。

「エリィさん!お待ちしてました!」

大柄の男が両手を広げて迎える。

手には巨大なハンマーを持っていた。

「彼が門番のダッシャーです。お元気そうでなりよりですよ。」

エリィは彼を紹介する。

「…太った?」サクラは目を細める。

「え、そんな!」男は大きな自分の腹を叩きながら声をあげる。「まぁ確かに襲撃がなければずっとここで立っているだけの仕事ですが…」

「減量した方がいいですよー?…もしかしたら貴方が中に入ったら地面が崩れるかもしれないですしー」

「うーむ…」男は話を変える。「ところで、本日は何の用で?」

「至急、マスターに取り次いで貰いたいんですよ。緊急で報告しなくてはいけない件がありましてね…」

「分かった」男はシャッターのような扉を開ける。「マスターは自室にいらっしゃる…まぁだが、ホールに行っててくれ」

「ありがとうございます」エリィは施設の中に入っていく。

昔よりも道が増え、かなり入り組んだ構造になっているようだ。

迷うことなくエリィはジグザグに進路を選び、私はサクラとエリィを見失わないようについていった。

しばらく歩くと、【ギルドマスターホール】と書いてある巨大な門にたどり着く。

「エリィ=エヴァーレインです」

ノックをしながらエリィは叫んだ。

「入れ」

中から女性の声が聞こえた。

エリィは扉を押し開け、中へ入る。

スッとサクラも続いたので、私も一緒にその広々とした部屋に入った。

…なんとそこは書斎…というか小さな図書館になっていて、机に自分の金髪を三つ編みにしたものをマフラーにしている軍服姿の女性が座っていた。

机には一冊何か大きな辞典のような本を広げ、それから目を離そうとしない。

「…エリィか」

「マスター…突然の来訪をお許し下さい…本日は朗報をお持ちしました。」

「朗報…その黒い赤髪の娘のことか?」

「えぇ、彼女こそがウルティタ地方のギルドストーン、そしてバビロンの魔女にして最強の能力者…なのですっ!」

「エリィ…それじゃあマスターが混乱する…」サクラが割って入る。「私が…順を追って説明します…」

「まこと信じがたい話だが…私の能力では君たちは【嘘をついてない】ようだ…」

本から目を離さずマスターは言った。

「私…これからどうなるんだい?」

「マスター次第です…」

エリィは手を合わせた。

「えぇ…」私は遠い目をした。

「それが事実なら」マスターはページをパラパラと捲った。「我が組織は最高の魔力供給と戦力を手に入れた事になるな」

「その通りです。…これがもし他の組織にバレてしまえば、我々の本部に敵が攻め込んで来ましょう…」

サクラはそうマスターに言った。

「うむ…ここで動かずとも、敵は進軍するのなら…」マスターは本を閉じた。「こちらから動くに越したことはないか」

「と、いいますと?」

エリィは首を傾げた。

「この地を防衛するなら、強力な砦が必要になるだろう…そして兵力もだ」マスターはエリィを見つめた。「エリィ、お前とサクラ、ユリ、そして魔女を連れ、センチュリオンを傘下に納めるのだ」

「はっ!仰せのままに!」だが頭を下げたエリィの顔は真っ青だった。

「…失礼しました」

サクラは頭を下げながら、硬直したエリィの首根っこを掴み、引きずりながら部屋を後にした。私もそれに続く。

誰も居なくなった部屋でマスターは天井を見ながら誰かに言った。

「…どう思う?アケロン」

「世界が動くな」何処からか声が響いた「あの魔女…恐らく同じ災厄をもたらす」

「ふむ…今は踊らせておこうか」マスターは再び分厚い本を開く「林檎がなるのなら、実を全て取ってからでも切り倒すのに遅くはなかろう…アケロンよ」

「はっ」

「魔女の動きに注意せよ。そして…しかるべき道に導いておけ」

「御意に」

「頼んだぞ」マスターはそう言うと本を広げながら立ち上がり、エリィ達とは反対側の扉を開けると、中へと消えていった。

「あわ…あわわわわ…」エリィはまだ頭を下げたまま固まっている。

「センチュリオンって組織名のことかな?」私はサクラに聞いてみた。

「…このアリスシティのファランクスに敵対する勢力のひとつ…確かに傘下に納めることが出来れば、アリスシティを傘下に納めるようなものだけど…」

「規模が我がファランクスと同じなんですよ!?」エリィが動き出した。「とても四人じゃ太刀打ち出来ませんって!」

「マスターは殲滅せよとは言ってない…きっとファランクスを傘下に納めるというのは…」サクラはエリィの手を握る。「我々に降伏せざる負えない状況にすること」

「どうやって…!…いえ、思考を放棄すれば負けですね。考えましょう…うー」

エリィが頭を抱え始める。

「この街のギルドストーンってファランクスが所有してるの?」

私は恐ろしい考えを思い付いた。

「ん…ファランクスと…センチュリオンのアジトの奥にもありますよー?その二つがアリスシティの魔力供給で…」

「ルイーゼ…貴方まさか…」

サクラは気づいたらしい。

「そう」私はニッコリとエリィに笑いかける…「じゃあセンチュリオンのギルドストーンを私が【食べ】ちゃえばいいんだ」

「…あの」エリィは真剣な顔になる「確かにいい方法ですよ…?何せ能力者は所属ギルドのギルドストーン以外のオンラインではサブ能力が使えないなどの不便な状態になります…だだ…」

「相当恨みを買う…それに、何よりもギルドストーンの原石を取り込んで200年眠ってた貴方が…無事で済むかどうか…」

「エリィ、貴方のギルドストーンの欠片を貸してくれるかい?」

私はエリィにそう言って手を差し出す。

「え?欠片ですか…はい」

エリィはその手に自分の服のポケットに入れられた小さな紫色の水晶を乗せた。

…水晶は手に溶け込むように消えた。

「ギャアアアアアアア!?」

エリィは私の胸ぐらを掴む。

背が足りないので背伸びする形で。

「うーん…対して眠くもならないな…」

「わ、私の…私のギルドストーンをぉ…かかか返して下しえあぁ!」

「エリィ…実は私達はギルドストーンを必要としない」

「は?ちょっとサクラちゃん…?」

サクラも懐から水晶を出して私に渡す。私はまたもうひとつの水晶を取り込んだ。

「…眠くない?」

「この量で大丈夫なら…行けそうな気もするけどね…」

私はサクラの方を向いて言った。

「あ、そうか」エリィはようやくサクラの発言の意味に気づいたようだ「前にルイーゼさんの欠片入りスープを食べさせて貰いましたよね…だから…」

「ルイーゼ…計算高い…」

「ん…どう反応を返せばいいのかな?」

サクラの発言がどちらの話題にも通るので私は困って首を傾げた。

【続く】


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