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巡礼編3「誤認」

「う…ぐ…」

「はぁ…はうっ…」

今、エリィとサクラが死にかけている。

まさかこれほどとは。

ちなみに今さらだが言っておくと、私は料理の下手さにはかなりの自信がある。

学校で自炊したお弁当を友達に取られ、次の日から一週間その友達不登校になった理由がこれだ。

…自分で食べる分には問題無いんだけど

「…なんで…」サクラが涙を流して手を伸ばしてくる「どうして…あんなに美味しかったのにぃ…はぅ…」

「サクラちゃん…うう…多分だけどね…我々の舌が許容しても、腹には許容出来ない何かがあったんじゃないかなぁ…」エリィも虚ろな目で手を天井に伸ばしている「わぁ、ガリゴリ君の期間限定クリスマスケーキ味だぁ…」

「…エリィ、戻ってきて、今は夏よ…私の周りにだってお花が沢山咲いているの」

駄目だ。二人ともあっちの世界に行きかけている…何とかしなくては…

そもそも、何故美味しいのに食べたら倒れるんだ皆は?

確か使者さんにも振る舞った事があったが…『悪い、用事を思い出した』とか言って数日間仕事が無かったけどあれも恐らく…そういうことなのか?

家族にだって振る舞ったぞ。

次の日は家族だけの祝日になったが。

家族…家族か…

「…ルイーゼ?」

苦しそうにサクラが声をかけてきた。

不意に現実に戻される。

「あ…あぁごめん…私のせいで…」

私は涙を拭いながら言う。

「…いい。きっとまともな食事が久しぶりすぎて体がついていかなかったんだよ」

サクラはそう言って微笑んだ。

「サクラ…」

「ええ、まぁルイーゼさんは無事な訳ですしね…気にすることはありませんよ!また作ってください!美味でした!」

「エリィ…」

そう。今はこの二人が私の家族なんだ。

絶対に護る。何があろうと。

今は…あれ、私の本当の家族は…?

それを思うと胸が痛んだ。

前は思い出せたのに…家族は確か…

お父さん、お母さん、フィーナ…

「ルイーゼさん、どうかしましたか?」

「あ、いや…片付けしてくるね」

私は立ち上がり、食器を片付け始めた。

私の記憶は曖昧だ。

そう、両親は私が殺した筈なのだ…


「…ちなみに空間制御能力者以外には絶対やらない方が良いですよ…」

「う…気を付けるね…」

片付けが終わり戻ると、サクラとエリィの二人は地図を見ながら話をしていた。

「具合はよくなったのかい?」

私は二人に声をかける。

「はい、それに我々は今、ギルドストーンの原石たるB粒子を体に取り込んでしまった事になります…もしかしたら新たな能力に目覚めたりとか…と思いまして!」

「そうか、この世界にとってギルドストーンは魔力そのものだったね」

私は地図を見た。知っている大陸の中に知らない国家が散りばめられている。

改めて200年という時間の長さと言うものを実感した。

「…そんなに早く能力が増えている筈はない…そう言って聞かせたのに…」

サクラはそう言って立ち上がった。

「サクラちゃん…何事も検証しなきゃ真実はラビリンスにドゥッハァーなんだよ!それもそうねエリィ様って言って」

「それもそうねエリィ様…はっ」

サクラは顔を赤くして口を押さえた。

可愛そうに…。

「で、とりあえず定期連絡がてら明日街の方に出てみようかと思います。アリスシティのファランクス本部も、たまには様子を見に行った方が良いですからねー」

「…唐突すぎ…」

「ファランクスって…エリィとサクラだけじゃないんだ?」

「ええ。この樹氷地帯を抜けて少し歩くと温帯の街があります。我々はそこを拠点に行動しているのですよ」

エリィはそう言いながら氷で出来た無線機のような物を取り出した。

「…エリィのサブ能力…交信…」

サクラは私にそう説明してくれる。

…じゃあエリィの分からないサブ能力はあと二つか…

「はい私です。そちらは順調ですかー?ふむ…はいなるほど…。」エリィは五分ほど無線機の先の相手と話していたが、無線機を笑顔で切ると私達に向き直って言う。「えぇ、明日行っても良いとの事です。ただ、少し小競り合いがあるかもしれませんね…もしかしたら戦闘になることも考慮に入れといてください」

「そんなに治安の悪い場所なのかい?」

「まあ…アリスシティはまだ良い方ですけどね。基本的に能力者がいる街に治安の良い場所なんて無いですよ」

エリィは無線機をボリボリかじりながらそう答えた。

「…じゃあ、今日は早く寝るね…」

サクラはそう呟くように言うと立ち上がり、外に出ていった。…家の外に。

「あれ…」私は違和感を感じた。

「ちなみにこの小屋に離れはないですよ?…彼女は庭の土の中で眠りますから」

「う…うっわぁ…」仕方のない事なんだろうけど…何だか可愛そうだな…

「一応サクラ用の部屋も有るんですけどね…あ、貴方は一応繋いでこちらで!」

エリィは居間の拘束ベッドを指差した。

「…寝心地悪そうだね…」私はベッドに寝転がりながら苦笑する。

「文句言わないで下さい!羽毛なんて街にしかあってはいけないものです!」

「いや…そっちじゃなくてさ…」

「…」

またあの夢だ。

能力に目覚めた瞬間、私は超越者になった。全てを破壊し、全てを略奪出来る最強の存在になったのだ。

…そう思っていた。

私は自分を、あんなにもためらいなく自分の大切なモノを壊してしまう事の出来る…冷酷な人間だとは思わなかった。

どうしてこうしなければいけなかったのだろう?どうして私は生きているんだろう?どうして私はこんな運命の世界に生まれ落ちてきたのだろう?

…気づけば私は人間をやめていた。

人を…もっと力を…食べないと…!!

「うわあっ…!」

私は飛び起きた。

「大丈夫ですかっ?」エリィが駆け寄ってくる。「今突然辺りの魔力が強くなって…何かありましたか…?」

「うん…何だか少し不安定みたいで…」

私はそう言って胸を押さえた。鼓動するような痛みと共に胸の水晶が光っている。

「…敵は来てない」

部屋にサクラが入ってくる。

肩に雪が積もっていて寒そうだった。

…それにしても…。

あれを夢で見るなんて…。

私はまだ心の奥底で、能力者を取り込むことを欲しているとでも言うのだろうか。

それとも必要の無い記憶を忘れるための段階の一つなのだろうか?

後者であってほしいと思った。

もし…あの【ルイーゼ】の性格を消せなければ、私はまた間違いを犯してしまう。

大切なモノを永遠に失ってしまう。

「ルイーゼさん…少し厳しい事を言いますが、なるべく気持ちを高ぶらせないようにして下さい。あなたに昔何があったのか分かりません。ですが、今興奮状態でこの場所の魔力濃度を上げると…」

エリィはサクラを見上げた。

「…いい結果は生まない。敵に場所が漏れる可能性が高くなる…それにここ一体を覆っているエリィの寒波…これを刺激すると、きっとエリィ以外動けなくなる。」

サクラは肩の雪をほろいながら話す。

「今の段階で辛うじて5℃…これ以上魔力を濃くすると、私でも制御出来なくなります。そうなれば…」

「ごめん…」私はうつむいた「次から気を付けるね…」

胸の光がだんだん落ち着いてくる。

「我々は仲間です。相談ならいつでも乗りますから…あまり抱え込まないで下さいよ?」エリィはそう言って立ち上がった。「少し早いですが移動を始めましょう。この魔力の流れに誰かが気づいたなら、様子を見にここに来てしまうかも知れません」

「用意は…出来てる」

私の拘束を外しながらサクラは言った。

「乗り物とか出してみようか?」

何か役に立ちたくて私は提案した。

今なら出来なくは無いと思う。

自動運転するジープ位なら…

「いえ、あると確かに助かるんですが…今は魔力を温存しておいて下さい。アリスシティまではそれほど離れた距離では無いですから…」エリィはそう言うと鞄から凍った何かの塊を取り出した。「朝食です。余裕があれば解凍して食べて下さい」

見事にカチコチに凍っていて、何なのか判別がつかない…

「…行ける。ルートはBで」

サクラは懐から出したペットボトルの水を一口飲んでから外に出た。

「了解です。さてさて、始めますかねぇ…出番ですよ?スカルプチュア【ウルフ】」エリィはそう呪文のように唱え、空中で一回転しながら家の外へ飛び出した。

彼女が着地すると同時に、まるで雪の中に隠れていたかのように複数の白い狼が姿を現した。私は思わず身構える。

「…大丈夫…仲間だから」

サクラはそう言って私の手を引いて外に引っ張った。

私は今かなりの防寒具を呼び出して着こんでいるが…それでもかなりの寒さだった。いつもの赤い地の着物に羽織を着ているだけのサクラが不思議に思える。

よく見ると下も下駄だし、引っ張ってくれた手を見ると手袋さえしていない…。

「サクラ…寒くないのかい?」

思わず訊いてしまう。

「…寒いよ?」

サクラは首を傾げた。

「もう一枚コートでも羽織るかい?」

私は分厚いコートを呼び出してサクラに羽織らせる。…寒いよって…

「サクラちゃん…もしかしてこの周辺、適正温度じゃなかったですか…!?」振り返って青ざめた顔をしたエリィが言った。

「行動に支障でる程ではない…大丈夫」

「言ってよ!わ、私これ以上友達を凍死させかけるのは流石に嫌ですから!ね?」

「エリィは温度低い方が元気だから…私の事は気にしないで…ね?」

「サクラちゃん…」

というやり取りをしている間に私は狼の一匹に近づいてみていた。

仲間だと分かったのか狼の方も尻尾を振って近づいてくる。

…狼っていうか…犬だよなこの仕草…

となると、思わずアレをしてしまう。

「…お手」

狼は快く私の差し出した手に片方の前肢を乗せた…。

「冷たああああっ!?」

手袋をしていても刺されるような感触に私は驚いて思わず手を引っ込めた。

狼は一体何を思ったか今度は私の膝に頬擦りをしてくる。

「うわ…ちょ…やめっ…」

無理に払うと噛まれそうだ…!可愛いんだけど膝の感覚が無くなって…

「ウルフ3、そこら辺にしといて下さい?ルイーゼさんの膝が凍ると出発が遅れてしまいますから…」

エリィが気づいてそう話しかけると、狼は後ろを向いて元の位置に戻った。

「凄いね…まさか全部あれ…氷?」

私はエリィにそう問いかける。

「えぇ。雪と氷、それと私の魔力で出来てます。ただ、私のサブ能力【装魂】を使ってますから…」エリィは手を上げる「はい、ウルブズ整列!」

バウッと声をあげ狼は一列に整列した。

「おぉ…調教師みたい…」

「彼らは私の魔力に反応して集められたこの世に未練のある魂たちです…それを装魂で器である雪像の狼の中に呼び込み、さらにそれを【懐柔】の能力で統制することにより、場合によっては状況により各々が動いてくれる頼もしい仲間になるのです」

「…うわぁ、すごい!」

私は感心して拍手をする。

「これが私のブリザードアーティストの能力です…貴方は銃やナイフを具現化することが多いみたいですが、私は特に生物を作り出すのが得意なんですよ?」

「…歩きながら話そう」サクラがそう言って自ら先頭を歩き出す。

「はいはーい」エリィはそう言うと狼を従えてその後を歩き始めた。

私は家を振り返る。

…目を疑った。

「あれ…?」

家が…ない。

家が建っていた筈の場所には雪が降り積もり、所々に何かの小さな枝が顔を覗かせている…ただの空き地になっていた。

「あぁ、それがまだ話していない、私の最後のサブ能力…【誤認】という奴です」

「五人…?」

「まぁつまりですね…【Aを全員にB】に見せたり、【AさんだけにBという世界を見せる】事が出来るんですよー」

「つまり…あの小屋はこれから先全員に空き地にみえる…と」

「えぇ!便利でしょう?」

「凄いな…」

…そんなものを戦闘に使われたらどう対処すればいいんだ…。

振り返ってサクラについていきながら私はそう考えていた。

【続く】


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