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過去編「バビロンの災厄」

別の町についた。

何故か一面荒野である。

「…病み上がりには最悪な場所だね」ようやく男の姿になった俺はそう呟いた。

身体を休め、俺は小さな小動物を少しずつ吸収していった。他にも人間らしく食事を取ることも有効な手段だ。

これならもし敵に遭遇したとしても、戦闘は出来ないが防御は出来るようにまでは回復が済んでいた。だがまだ収束能力もピストルぐらいしか具現化出来ないし、拡散能力に至ってはそもそもフード付きのコートを作ってからだからまだまだ時間がかかりそうだ。それこそ次は人でも食うか?

「おはようルイ君」

「おはようございます」

スタンロッドで稼いだお金はもちろんアパートに置いていってしまっている。

だからバイトを始めることにした。

…最初の頃を思い出すな。

お金が無かった頃はよく働いたものだ。

仕事は雑貨屋の簡単なレジ打ち。

こう見えて暗算には自信がある。

お陰でこの雑貨屋の店長とはかなり親しい関係を築く事が出来ていた。

「ルイ君、これ前回の給金ね」

「ありがとうございます」

稼いだお金は食事代にしたり、そのまま食べたりする。

これは憶測に過ぎないのだが、古い紙幣や硬貨は、昔の使用者の能力の残しを受けているのか僅かだが多くのエネルギーを吸収することが出来た。

人よりは便利に生きていける身体だが、能力者としては扱いづらい身体である。

昼間は雑貨屋で働き、夜には能力の特訓をする。睡眠があまり必要でないため、そんな無茶な生活を続ける事が出来る。

夜は元の女性型で過ごすことにした。

嫌な記憶を思い出させる姿だが、一番効率が良い姿だからだ。

雑貨屋の店長に迷惑をかけたくないと言うのもある。こんなことはいつもの俺では考えもしなかった事だが…。

一度死にかけたからか、それともアイツの精神解体攻撃の影響か、俺はあまり人を襲うことに踏ん切りがつかないでいる。

このままでは元には戻れない。

それは分かっている。だがそれでも、一度死に頻してから、自分の中で何かが変わったような気がした。

「もう人は襲えない…人以外に、経験豊富で強大な魔力を有するもの…」

俺はいいことを思い付いた。

魔導石。それも巨大な物だ。

魔導石は魔力の塊を結晶化し、更にそれを高名な能力者が昇華させた物を指す。

よくよく考えればB粒子も魔力の塊、とするなら最も確実で直接的な補給の仕方なのではないだろうか?

となれば話は早い。

この荒野の町で、巨大な魔導石のある場所といえば、大体見当がつく。

それはつまり能力者が大量にいて、絶えずひとつの目的の為に能力を使い続けられる環境がある場所、そんな場所は…

そう、組織『スタンロッド』のような能力者による組織のアジトを見つけ出し、その最深部へと向かえばいい。

「まずは…下だね」

荒野や砂漠のある場所の地面の下と言うのは、以外にも古代の遺跡や神殿跡が残っているものであり、大抵そういった場所に能力者たちは集まる傾向がある。

まぁ…あくまでも推測に過ぎないが。

しかしこんな固い石に覆われた地面を割るには、かなりの収束能力を必要としなくてはならないだろう。音も響くだろうし。

「やっぱり情報収集からかな」俺は立ち上がると明日について作戦を考え始めた。

バイトをしながら客や町を歩く人から情報を集めた。するとなんと予測通り、この町の地下にこの辺を仕切っている超能力者軍団、『スコーピオンテイル』のアジトがある情報を入手、構成員を一人拷問して入り口と組織の情報、魔導石の有無を引き出すことに成功した。

だが…何も殺すことは…

いや、戦果は上々だ。人を吸収したことにより、ようやく何か自分を封じ込めている何かから解放されたような気がした。

まずい…『ルイーゼ』が目を覚ました。

どうして…今まで耐えてきたというのに…どうしてこんな…!

きっと私はこれから…取り返しのつかないことを…!


やはり人はいい。

この調子で魔導石とスコーピオンテイルの全員の構成員を頂いてしまおう。

スタンロッドでは無いのだ。スタンロッドとは敵対組織だから何の問題もない。

そうだ、早く、もっと、食べよう。

「ふふふ…ははは…」

私はようやくねぐらに戻ると、心地のいい感情に身を任せて身支度を整えた。とはいえ現状で正面突破をするほど私は馬鹿ではない。組織の深部にある物が必要なのだ。まずはシーカーを始末する必要がある。

シーカーとは偵察者。つまり私から言うと使者がそれにヒットする。

能力の中でも、戦闘向きでない、能力者を探知する能力や、それに類する能力を持った能力者から仕留め、組織の目を潰す。

「シーカーや外付けだけを狙うなら…町で人目につく騒ぎを起こせばいい…」

外付けというのは元の俺のような組織には属さず、シーカーを通じてまず制圧に向かう能力者の事を指す。

私はとりあえず、町のいくつかの広場で暴れまわった。女子供も容赦なく襲い、エネルギーを貪っていく。やがて計画通り拡散能力が使えるようになると、シーカーを次々と仕留めていく。

大体のシーカーは姿を消したり音を消したり気配を消したりしながら動くため、『使者』と似たような動きで動いている。

捕り漏らしはないはず。

外付けも何人か現れたが脅威じゃない。

むしろ美味しいご馳走に見えた。

かつて…この姿で街を一つ滅ぼした。

嫌な記憶だったはずなのに、今私は同じことをしている。

この女の姿で暴れまわっている。

破壊の限りを尽くした。

周りにあったものは皆無くなった。

「メインディッシュの…時間だね」

両手に一丁ずつ巨大な銃剣のついたアサルトライフルをぶら下げながら、私は深淵のような色のコートのフードを目深に下ろし、奴らのアジトへ…夕食会へ向かった。

「何だこいつは…ぐわぁぁぁ!」

乱気流の能力者をショットガンで撃ちぬきながらゆっくりと私は歩いていく。

コストやリスクなど気にせず、拡散能力をフルで解放しているため、相手の動きや何をしてくるか等がある程度分かる。

「な…何でデスクラウドがこんな場所にいるんだよ…敵うわけねぇ!…ギャ!」

銃剣で喉をばっさり斬り裂く。

今のところ一人として逃がしていない。

今まで能力者をこんなペースで接種したことは無かった。

これはかなり依存性のある行為だ。

自分がどんどん強くなっていくことに狂喜し、次の獲物を猟奇的に仕留める。

最高の踊り食いだ。

最高の晩餐会だ!

「あはははは!」

強い!私は強い!絶対的な捕食者。

自然の連鎖の頂点に君臨せし者…!

なのに。

何故…悲しくなるのだろうか?

奴らの悲鳴を聞いて、とても心地いいと感じる反面、耳障りで頭が可笑しくなる。

「うわああああ!」

今のは相手の声なのか自分の声なのか。

考えるな…考えるな…

無心になるには、食べ続けなくては…!

…本当に誰もいなくなった。

気配を消して隠れている奴がいないか血眼になって探した。

「…あ」

あった。

宝物庫の更に奥。扉をぶち破ると、小さな部屋に人の大きさ程もある巨大な紫色の結晶が浮いていた。

これが…魔導石。

胸の結晶が光を発した。

それと同時に何故か私は後ずさった。

あれ…?

この為にあそこまで暴れまわったのだ。

なのに何故私は恐れている?

「なっ…ここまで来て…!」

本能が言っている。

この結晶を取りこめば、きっと自分は後悔することになる。

いや…これはきっと能力者が仕掛けた罠だ。そうに決まってる。

私は魔導石に手を伸ばした。

これを取り込めば…どうなる?

私は頭を振り、魔導石に右手を置いた。

感触がない。

ふと、自分の手が魔導石に吸い込まれていくことに気づいた。

「ちょっ…!?」

反射的に何かで対応しようとしたが、何故かコートも武器も消失していた。

そうしているうちにどんどん魔導石は私の体を飲み込んでいく。

「何で…こんなっ…んっ!」

胸の結晶が沈み込んだ瞬間、これまで感じたことのない激痛が走った。

痛い!

結晶の中で私は自我を失いそうになる。

「嫌だ…こんなっ…うあああ!!」

その声も恐らく外には届いていない。

駄目だ…耐えられそうにもない。

痛みは時間が経つたびに増し、叫ぶ気力もだんだん無くなっていく。

「あ…ぐ…ぁ…」私は抗うのをやめた。

だんだん意識が暗がりの中へ引き込まれていき…そして…

「…?」

不意に痛みが無くなった。

身体全体が浮いているような気分だ。

何時間…いや、何日私はあぁしてのたうちまわる事も出来ずに苦しんでいたというのだろう…。

気づけば見慣れない部屋にいた。

あの魔導石のあった部屋に似た雰囲気の、それよりももっと広い場所。

「せ、成功…ですかっ…?」

目の前に綿毛の塊のような白いふわふわしたコートを着て、白い雪の結晶の髪飾りをした小さな女の子がいた。

その隣には、赤い着物を身につけた、日本人形のような18ぐらいの少女もいた。

…私は四肢と首を鎖で縛られ、宙に吊るされているらしい。

「…」私はそれだけを見ると、急に襲ってきた眠気に抗えず…意識を失った。

「…まさかギルドストーンを入手するとは思いもしませんでしたよー♪」

「…何故か人形…」

「そうですね…普通は紫色のクリスタルの形のはずなのですが…何故でしょう?」

「何の話?」

ようやく気を取り戻し、私は起き上がろうとして失敗した。

ベッドに寝かされてはいたが、まだ首と手足の枷は取れていなかったからだ。

「…」日本人形が私を見る。

「ふわぁ!?」小さな女の子はオーバーなリアクションで驚いた。「喋った…!」

「状況がわからないんだけど…君達は俺を助けてくれたってことでいいのかな」

「俺…なかなかゴツい自称使いますね…助けた、というよりあなたのお陰で我々が助かっている訳なんですけどね」

「…」状況が分からん。

自分は今簡素な和風の家屋の中にいる。

…何故拘束されているのかも気になる。

「ううー、そうですねぇ…」白い女の子は少し考え込んだ。「あの、自分がギルドストーンだって自覚はありますか?」

「ギルド…何?」

そう言った瞬間、突然白い女の子が顔面蒼白になった。

「どどどどうしましょうサクラさん!もしかしたら鉱石擬態能力の人だったのかもしれません…!」

「…でも、私達は能力を使えてる…」着物を着た少女は一輪の花を着物の袖から出すと、私の頭に差した「…かわいい」

「人の頭で遊ばないでくれるかな…」私は呆れた顔を見せながら聞いてみた。「…ギルドストーンのことについてから説明してくれるかな?分かりやすく」

「あ、はい」女の子は説明を始めた。

【続く】


どうもこんにちは!ケイオスです!

エキゾチック・マインドをここまで読み進めて頂きありがとうございます。

過去編はこの回でひとまず終了です。

(もしかしたら登場人物の過去編などをまた書くかもしれませんが…)

ここからは「巡礼編」となり、主人公が仲間と共に各地を転戦する話となります。

上手く話がまとめられればまたすぐにでも更新していきたいと思っています。

それではまた、仄暗い洞窟から斜光が差し込むような場所で会いましょう!

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