巡礼編8「火妖虫」
「ここがベストな場所ですね」
ひび割れた荒野にアスファルトの道路の一本道…そんな絵になりそうな場所でエリィはそう言った。辺りは既に夕暮れ時に差し掛かっている。
「つ、疲れたわ…」
近くの岩場にユリが腰かける。
「手伝えそうな事はあるかな?」
私はそう言ってエリィの側に向かった。
「そうですね〜♪じゃあまずこのメイドさんの服を…って冗談ですよ何ですかその理解不能な物を見る目は」
「…キャンプを設営しないと、寝るところがない…手伝って」
サクラはそう言いながら大きめのテントを組み立て始める。
「手伝うよ」私はサクラがいる反対側から手分けしながら設営した。
「ありがとう」サクラはそう言いながらせっせと作業を始めた。キャンプを止めるピンにしっかりと植物を絡めている。
「そんな使い方もあるのか…」
「使いようによって様々な事が出来るのが空間制御能力者の特徴でもあるわ」サクラは顔をあげた「サブ能力のように変異して消える事は無いから、いくらでも発想次第で応用がきくのよ」
「じゃあ私も能力の特性を理解すれば、もっと違った使い方が出来るってこと?」
私は首を傾げた。
「そうね」サクラは作業に戻る「…ルイーゼの場合、武器以外にも構造が分かっていれば車…はやれるんだったわね。例えば列車や飛行機…果ては建物も作れるかも。作る行動以外にも、意外な発想で思わぬ発見があるかもね」
「建物かぁ…魔力がもっとあればできそうだけど…今のままじゃ出来ないかなぁ」
…誰かを食べれば可能かもしれないが。
慌ててその考えを頭を振って忘れる。
「…ルイーゼ?」
「ぁ、いやいや!えっと…蝿かな?頭に乗った気がしてさ!ははは…はは…」
「蝿…」サクラが目を細めた「エリィ、【火妖虫】について、もっと詳しい情報が欲しいのだけど」
「ふむ、そうですね…」エリィは空を見上げた。「見た目は大きな蛾に似ているらしいですね…燐紛のように空気に触れると燃える火の粉を振り撒いているとか。感染しているかどうかは体温を計れば50℃ぐらいになっているのでバレるんですが…残念ながらサーモグラファイ【温度の把握】能力者は今回は同行してないですからね…」
「体温は…分からないなぁ」私は眉をひそめた「それじゃあ感染してるかどうかは判別がつかないんだね」
「厄介ねぇ」ユリは伸びをした「暑いわ…早くキャンプを作りなさいよルイーゼ」
「ご、ごめん!」
慌てて手を動かす。
「ユリちゃんも手伝って下さいよ〜。一番暑さに弱いのって私なんですからぁ…」
エリィは甘えるような声を上げた。
「私はほら、人よりも視力が魔力で高められているからね?見張りよ見張り…」
「でも今【拡散】能力で気配は私が」
「何か言った?」「いや…」
私は縮こまった。
ユリが何だか機嫌が悪いのは、ユリだけが生身で他のメンバーよりスタミナが無いからだ。ユリ自体それは良く分かっていて、足手まといになりたくない一心が逆に彼女に付加を掛け、ストレスを増長させているのだろう…。
サクラもそれを分かっているのか、私に「ごめんね」と言うように申し訳なさそうに頭を下げた。
「出来ましたね…はむ。」
スティックアイスをまた食べながらエリィは完成したキャンプに魔法をかける。
「じゃあ私は先に休ませてもらうわ」
そう言ってさっさと寝てしまうユリ。
残された三人はキャンプを出ると、大型の照明ランプを囲んで座った。
しばらく各々が持ちよった食事を少し交換し合いながら食べる。
「…さて」エリィが口を開いた「アルドァ=ボギニーについて情報を共有しておきましょう。造反が確認されたのが一週間前。イメルの町の出入口を5日ほど偵察隊が見張っていますが、不気味な事に【誰も】出てきてないらしいです。イメルにはギルドストーンが無いので、もし何処かに属した能力者なら一週間に一度位は外出するはずなんですがね…ここまで良いですか?」
「…気味が悪いわね」
サクラが呟いた。
エリィは頷く。
「えぇ。気味がMAXにBADですね。つまり中の人達は恐らく…まぁそれはアルドァ自身にとっても追い詰められた状況なんですがね。組織を抜けたと言うことはアルドァのマナストーンの欠片には魔力が残っていません。センチュリオンのギルドストーンはルイーゼさんが塗り替えてしまったので。センチュリオンの構成員たちのギルドストーンはファランクスのギルドストーンに触れて置かないと魔力が補填されない仕組みになっているのですよ。マスターの情報なんで間違いは無いです」
「じゃあアルドァは今…魔力が無くなって追い詰められているんだ…!」
私はエリィを見つめた。
「えぇ。いくら少しずつ使った所で、仮に町全体を傘下に収めたとすれば相当な量の魔力を放出したはずです。外出していないと言うことは他の組織の介入もあり得ません。比べこちらは歩くギルドストーン付きの、いくらでも魔法の使える集団…以上の判断からマスターは我々に捕獲作戦を要請した訳なんですよ」
「なるほど」私はこくこくと頷く。
「あとは…他に情報らしい情報は入手出来ませんでしたねぇ」エリィはお手上げというポーズをした「センチュリオンの方では結構な重役だったようなんですが、なにぶん能力が能力なので…。アルドァの存在を知っている人は極端に少なかったみたいなんですよ」
「…ファランクスに入ったのもたった3分の1程度の下っ端だから…ね」
サクラはため息をついた。
「とりあえず、明朝に出発しましょう。早めに休んでくださいね…明日は恐らくドンパチやることになりますから」
「分かった」私は立ち上がると、二人に挨拶をしてキャンプに戻った。
★
「…しかし、下っ端の極地マナストーン探索チームだった我々が…マスターから直々に依頼を受けられる立場になるとは…」
エリィは星空を見ながら言う。
「そうね」サクラも上を見上げた「私達、思えば本当に長い付き合いだったわね」
「だった、じゃ無いですよサクラちゃん。これからも頼りにしてますからね?これはいつもの愛情表現じゃなく、ちゃんと本心から思っています…」
「ありがとう」サクラは軽く笑った「貴方はユリと私を助けてくれた。その恩を返せる時が来るまでは、エリィは私が護るわ。…何があっても」
「変なフラグ立てないで下さいよ?」エリィはスティックアイスを差し出した「貴方は私の大切な親友なんですから」
「ふらぐ…エリィってたまに変な事言うから、困惑しちゃうわ。あむ」サクラはアイスを受け取った「…うん。おいしい」
「それでは良いムードなのでここはひとつストリップショーでもブッホァっ!?」
「…死ね、変態!」アイスを持ってないほうのサクラの拳が炸裂した。
★
次の日は朝早くに出発した。
いつものようにエリィが下らない冗談を言いながら歩いていると、私の【拡散】能力に何かが引っ掛かる。
「…人がいるよ」
私は足を止めた。
「偵察部隊の方かも知れませんね」エリィも足を止めた「見えます?ユリちゃん」
「うん…確かに偵察部隊の方…が…」ユリが表情を変えた「やだ…うそっ!?」
「ユリ、何が見えたの!?」
サクラがナイフを片手に身構えた。
…反応が、消えた…。ルイーゼも顔をしかめた。この消え方はまさか…
「爆発…しちゃった…」
「うわぁ…趣味の悪い殺し方しますね」
死体の状態はすさまじかった。
辺りにまだ煙を上げている各種臓器が撒き散らかされ、肉の焼ける独特の臭気が辺りに満ちている…。
「…酷い…」サクラが呻いた。
「これ…アルドァは確実に今私達を見てるよね」私は辺りを見回す「偵察隊がこのタイミングで爆破されたってことは、私達への当て付けかも知れないよ」
「そうでしょうね」エリィは死体の状態を調べながら言う「しかし困りましたねぇ…もし街に近づいた瞬間に既に感染してたのなら、偵察隊が報告した内容にアルドァに有利な虚偽の報告が混じっていた可能性が出てきました…」
「でも今さらアリスシティに帰るわけにはいかないわ」ユリは死体を見ないようにして言う「進むしか…無いのよね?」
「仕方ないです」エリィは目を閉じた「慎重に町の中に進んでいくしか無いです」
「…」ここでサクラはユリの手を引き…「ユリ、ちょっと我慢してね」
「んっ…!!?」
いきなりユリと口づけを交わした。
「ふぉぉぉ!?」エリィは発狂する「わぁお、美少女が二人キィッスしてるじゃーないですかっ!?しかも親子の禁じられた関係…ッ!今夜のおかずは親子丼で良いですかッ!?良いですよねぇ!?」
「…はっ!?…わわわママぁ!?」ユリは目をチカチカさせながらサクラから離れる「ちょっ…えぇと、正気…?」
「…正気」サクラは冷静に言った「これからの事を考えて…必要だと思ったの」
「あぁ…なるほど」
エリィは意味を理解したようだ。
「何のことよ」ユリがエリィを睨む「私がカッコいい男を連れてこないか心配だってこと!?このタイミングで心配しなくたって良いじゃないっ…恥ずかしいぃ…」
「町から人が出てきたみたいだよ」
私は注意深く様子を確認した。
これは…【非能力者】の武装集団に見える。動きやすい服装に、各自小銃で武装しているように見えた。
爆発音を聞きつけた、といった動きに見える…。少なくとも見た感じ、まだ我々には気づいていないようではあるが…
「…あまり関わりたく無いですね」エリィは眼下に迫る集団に目を向けた「我々はよそ者です…たとえ彼らが感染してなくとも、今この状況は好ましく映らないのは分かりますよね?」
「…確かに。でもどうするの?」
ユリは顔を上げた。
「私が能力で皆さんを【誤認】させます」エリィはウインクする「集団での潜入において、私の能力ほど凶悪な物は無いでしょう。…まぁ結構なコストなので、あまりやりたくは無いんですが…」
「エリィは大丈夫なの?」
私はエリィを心配した。
「街に入ったら根城をすぐに決める必要がありますね。なるべく虫が立ち寄らなさそうな場所がベストです」
「分かった」
私は頷くと、エリィの手を握った。
やがて、武装した集団が現れる。
「うっ…酷いなこりゃあ…」
「アリスシティから反旗の疑いをかけられた能力者がいるらしいな。これもヤツの仕業…と言うことか」
全員手を繋いで集団の目の前にいるのだが、こちらを注視する者は誰一人として居なかった。エリィの先導で私達は、アルドァが潜伏している可能性のある街へと向かうのだった…。
【続く】




