舞踏会
5日目の朝、お茶会でジェイがその夜のイベントを紹介した。
「今宵は夜8時より舞踏会。
みなさまパートナーとともにホールお集まりください。」
この言葉をきっかけに、あちらこちらで男たちが
女たちに声を掛け始めた。私のところにも何人か近づいて
来たけれど気がつかないふりをして逃げて回った。
ジェイと目が合った。ゆっくり近づいて来る。
ついに目の前。私は俯いて彼からの誘いの言葉を待った。
「アーリア、私と踊らないか?」
期待していたのとは違う声がした。
いつの間にか父さんが私とジェイの間に入り込んでいた。
「あの別に。いえ嬉しいんだけど、
父さんにはもっとふさわしい人がいるんじゃないかな?」
「私にふさわしい相手なんてだれもいないよ。
それとも誰かと約束でもあるのかい?」
父さんがギロっと後ろを覗くと、ジェイは顔をそむけた。
「いえだれも。お誘い、喜んでお受けします。」
笑顔が引きつった。
ジェイは、やれやれといった顔をした。
その夜、父さんと待ち合わせ。なかなか様になっている。
私たちがホールに到着すると既に大勢の人が集まっていた。
ジェイがソニアと並んでいるのが見えた。
やがて緩やかに曲が始まり、ダンスの輪が流れ始めた。
父さんから別の男性へ、さらに別の男性へ。
曲が進むにつれてパートナーが変わり、
ジェイが次第に近づいてくる。
そしてついにジェイの手が私の手を握ろうとした瞬間、
横から別の手が伸びて私の手を握った。
「父さん?」
仕方なくそのまま私は父さんとダンス。
私が目で謝っても、ジェイは何か考え事をしているようだった。
次の交代のタイミング、だれかが父さんの肩を叩いた。
父さんが振り向くと、そこにジェイ。
彼は父さんの手を取ると、巧みにリードして
父さんに女性パートを踊らせる。
そして滑らかなステップでダンスの輪を離れていく。
少しずつ、少しずつ。
そして出口まで来ると、ジェイは父さんを回転させた。
父さんはクルクル回りながら、ドアの外へと出て行った。
急ぎ足で戻ってきたジェイは一礼すると驚いている
私の手を取った。二人で踊り始める。ジェイのリードが
気持ちいい。私の思う方向にリードしてくれる。
パートナー交代のタイミングでも手を離せなかった。
曲が終わるまでそのまま踊り続けた。
「これから僕の部屋に来ない?」
ジェイの誘いを断る理由はなかった。
「踊るだけね。15分後に行く。」
私は男の子のようなジーンズ姿に着替えてジェイの部屋へ。
ジェイもラフな格好に着替えていた。
音楽を掛けて二人で踊る。
二人でお尻を振ったり、付け髭つけたり、
ワザとしかめっ面してみたり。懐中電灯でフェンシングの真似したり。
少し休憩しては、また踊ってを何度も繰り返した。
ずっと笑ってばかり。
何も言葉を交わさなくてもお互いに分かり合える気がした。
中身を全部出しきるまで羽根枕で殴りあった後、
私はそのままソファに横になった。
ジェイは毛布を私に掛けると、ソファのすぐそばの床に横になった。
「風邪引くよ」と言いかけて手を伸ばしたら、
ジェイは私の手をつかみ自分の胸に当てた。
彼の暖かさを感じながら、私は眠った。
その夜、ジェイと二人笑いながら、
古い複葉機で空を飛び回っている夢を見た。