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独身パーティー

うまく眠れないうちに明るくなってきた。

浮かない気持ちでベランダに出ると馬を連れたジェイが見えた。

「馬に乗らないか?」 目と顔の表情だけで私を誘った。

ニコニコ笑っている顔を見たら、腹が立ってきた。


すぐに着替えて外に飛び出した。

「他に乗せるべき人がいるんじゃないの?」

「いいや、だれも。」

「ソニアがいるでしょ。知ってるんだから。」

それを聞いてジェイが笑いだした。

「何、笑ってるのよ。」

「30過ぎて妹と一緒に遊ぼうなんて奴いないよ。」

ジェイは笑いを必死にこらえていた。

「何よ。先に言ってくれればいいのに...」

目のやり場に困って背中を向けた。


馬かぁ。イングランドで乗馬できたら素敵だろうな。

でもその前に練習しないと。

馬が急に暴れ出したらどうなるんだろ?

走り出した馬は、私の言うことを聞かない。

「助けて」叫んだって、だれも来てくれない。

そこに誰かの馬が追いついてくる。ジェイだ。

ジェイは手を伸ばし、私を持ち上げ自分の馬に移す。

そして二人は...。


パチン

ジェイの指を鳴らす音で正気に戻った。

「そんなのないない。」

私の妄想を見透かしたようにジェイが笑っている。

「うーん。ねぇ本当にないの?」

顔をしかめる私を見てジェイはさらに笑った。

「ないさ。僕だってまだ初心者なんだから。

それより乗ってみない?」



朝もやの林の小道。二人の乗せた馬がゆっくり歩いていく。

高さが違うせいなのか、何回も通った道なのに全く違って見える。

イングランドでも、こんな景色が見えるんだろうか。

「そういえばイーシャどうしたの?

昨日元気なかったようだけど。」

「ロビンから無神経なこと言われて落ち込んでるの。

なんとか元気づけたいんだけど二人に口出しするなって言われたし。」

「今夜の独身パーティーはどうなの?」

「友達はみんな来るんだけどね。」

「何か足りないの?」

「楽しめると思うけど、自信を取り戻すのとは、ちょっと違うかなって」

「若い男の子、呼ぼうか?」

「ダメダメ。イーシャは返って嫌がるわ。」

「じゃあこういうのは、どう?」

耳元でジェイが素敵なプランをつぶやいた。

「面白そう。それならイーシャも喜ぶわ。」

「ところでアーリア、今日の昼間はどうするの?」

「何も予定ないんだ。」

「じゃあジャイプールの街に行くのはどう?

宝石店もあるし、バザールも面白いよ。

僕も用事があんだ。中心街まで一緒に行って

2時間、別行動してから一緒に帰ってくるのはどう?」

「ありがとう。そうしてくれると嬉しいな。」

部屋に戻る途中で父さんに出くわした。

「どこへ行ってたんだ?」

「別に。その辺とかあの辺りとか」

いぶかしがる父さん。

「まぁいい。昼間は私と一緒にいるように。」

えーっ?とは口に出来なかった。

顔をしかめていたら、ジェイが遠くで「仕方ないね」と肩をすくめた。


夜、女友達ばかりでパーティー。

大いに盛り上がったけど、ちょっと早めにお開き。

イーシャは物足りなそう。でも明日も早いからねと部屋に戻った。

寝る準備をはじめたイーシャの後ろから目隠しした。

「アーリア、何?どうしたの?」

「サプライズ。目隠ししたまま私についてきて。」

一歩ずつ慎重に裏の納屋に連れて行くと、みんなは準備万端。

私も大急ぎで着替えた。

イーシャの目隠しを外して、気付けのテキーラをショットグラスでグッと一杯

照明を付けると酒瓶が一杯積んだ荷馬車が浮かんだ。

まるで酒場のようだ。

壁に貼られたセピア色のポスターにはイーシャのイラスト。

女ばかり30人。全員付け髭にジャケットで男装している。

イメージは禁酒法時代のアメリカ。

目を丸くしているイーシャ。

音楽が始まる。

まず私とジェイ。

「今夜こそ、俺のものになってくれよー、イーシャ」

大きく腰を振って踊りながら迫る。

イーシャが、笑いながら突き飛ばしたら、

ワザと大きく吹き飛んでみせた。


それから全員で口々に叫ぶ。

「こっちを向いて、イーシャ」

「好きだって言っておくれ」

「ウィンクをお願い」

「投げキッスをしておくれ」

イーシャが大きく笑っている。

イーシャを荷馬車に移す。全員がその周りを踊る。

「ウィンクを!」「投げキッスを!」「俺のものになっておくれ。」

口々に叫ぶ。イーシャが投げキッスをするたび胸を押えて倒れる。

笑い声が夜中過ぎまで響いた。


気が付くとイーシャは荷馬車の上で寝ていた。満面の笑みを浮かべて。

私はジェイに手伝ってもらって部屋まで運んだ。


「ありがとう。あんなに楽しそうなイーシャ、久しぶりに見たわ。」

「『花嫁に最高の笑顔を』が当社のモットーだからね。

ところでジャイプールでお土産買って来たよ。」

「本当、うれしい。ありがとう。」

ジェイが差し出したのは、大理石のプレート。

中央にはハートマークに矢が刺さっている。

ご丁寧に「J & Alia」なんて彫ってある。

驚いて声がもれた。

「何これ。史上最悪にダサダサ。」

「それは残念。気に入ってもらえると思ったんだけどな」

ちょっと不満そうなジェイ。

「ウェディング・プランナーとして大丈夫?

こんなので女の子が喜ぶと思うの?」

「そうか、やっぱりこっちのほうがいいかな?」

Amrapaliの袋を出した。

中には小さなダイヤをちりばめたシックでエレガントな

ペンダント。エメラルドがアクセントになっている。

「まったく。これを先に出せばいいのに。」

頬が緩むのを止められなかった。

「お礼は?」とジェイ。

周りを見て、だれもいないことを確認してから

彼の頬にキス。

「それだけ?」とジェイは不満そう。

「素直じゃなかった罰よ。

いい子にしてたら、またご褒美あげる。

それじゃあね、お休み。」

ジェイは小さく微笑むと手を振って去って行った。

ドアを閉めた後も頬が緩むが止まらなかった。

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