歓迎パーティー
3日目の昼、イーシャと二人でファンドワーリ家が来るのを待った。
やがてやけにキンキラのストレッチボディのリムジンが2台やってきた。
私がメーカーの担当者なら、泣いてすがって乗るのを止めさせたくなる。
それくらい悪趣味だった。
「長時間見る場合はサングラスが必要ね」
私の軽口にイーシャが笑った。
「実にめでたい」とでも言っているのだろう、
お婆様と話していたファンドワーリ氏は
金ピカのマグナムを取り出すと何発も空にぶっ放した。
新郎ロビンは2台目から現れた。裸の上に麻のジャケットを羽織っている。
胸の筋肉を見せびらかしたいらしい。
「ワーオ」
私とイーシャは顔を見合わせ苦笑した。
すぐお茶の時間。
お婆様にロビンを紹介されたイーシャはお茶を用意したり、
お菓子を運んだりと甲斐甲斐しく世話を焼く。
でもロビンの奴は自分の姿を鏡で見てばかり。
イーシャのこと見向きもしない。
私は口を出さずにはいられなかった。
「ロビン、少しはイーシャと話しなさいよ。」
「だれだよ、お前は?」
「私はアーリア。イーシャの姉。」
「別にいいだろ。俺たち二人の問題だ。
イーシャが文句なければいいだろ。なぁイーシャ。」
イーシャは下を向いた。
「こっちは結婚してやるんだ。文句なんて言われる筋合いじゃない。」
ふてぶてしい態度が頭にきた。
「礼儀の問題よ。きちんと向き合いなさいよ。」
いきり立つ私の手をイーシャが抑える。
「別にいいだろ。」
「『別にいいだろ』、そればっかりね。
頭に回る栄養を筋肉が使い込んでいるのかしら。
他の言葉を使ったら?
それとも他の言葉は知らないってこと?」
ロビンがウググとうなる。
「イーシャは文学部だったから、美しい言葉をたくさん知っている。
教えてもらったらどうかしら。」
そこでお婆様の声がした。
「アーリア、こちらへ」
イーシャの不安そうな顔が気になったが、仕方なく私はその場を離れた。
「お前はこの結婚を台無しにするつもりか?」
別室に入るとお婆様は厳しかった。
「ロビンに問題があることは分かっている。
ただロビンからすればイーシャに問題がある。
そこはお互いに目をつぶるべきではないのか?」
「でも」反論しようとした私をお婆様は手で制した。
「いろいろ不満もあろうが、この結婚が成立すればイーシャは
経済的な心配をする必要はない。それがどれくらい大切かは、
お前もよく分かってるだろ?」
私は何も言えなかった。
「お前がこの家にいられるのもイーシャの結婚まで。
イーシャの心配より、自分の心配をするがいい。
あの二人に口出し無用。よいな。」
そう言われて唇を噛みしめるしかなかった。
気分が晴れないまま、夕暮れとなった。
イーシャのことはなるべく忘れるようにした。
ファンドワーリ家を迎えての歓迎パーティー、
Shaandaarなパーティーにするってジェイは言ってたけれど、
どんなことやるんだろ?
会場は照明が落とされた裏庭。
テーブルにはキャンドルが並んでいる。
暗い中にステージの上に組まれた櫓がうっすら見える。
やがて大勢の屈強な男たちが太鼓を調子を合わせて叩き始めた。
暗がりの中、叩くたびに太鼓が青く光る。
急に照明がステージ全体を照らした。
演奏しながら制服姿のブラスバンドが入場してくる。
いったい何人いるんだろう。次々に人が入ってくる。
踊りながらダンサーが現れ、ステージは一杯になっている。
舞台中央にスポットライトが当たる。
一人の男がせりあがってくる。ジェイだ。
ジェイを中心にリズミカルな音楽に合わせた
スピードとキレがあるダンス。
全員の息がぴったり合っている。
フォーメーションが乱れない。
間奏に入るとジェイが目で私を誘った。
私は喜んでステージに上がった。
前半のダンスでフリは覚えた。
ジェイのそばに目を引くほどきれいな女性。
彼女と合わせて踊り出す。
私も自信があったのにとても追いつかない。
ダンスのキレが一枚も二枚も上だった。
私に合わせてくれているのが分かる。
その彼女とがジェイと並んで踊ると、息がぴったり合っている。
私にはとても無理。うらやましかったし、悔しかった。
会場は大いに盛り上がり、歓声が上がった。
ファンドワーリ氏がまたマグナムを撃とうとして
周りから止められていた。
曲が終わりステージの脇に下がると彼女がやってきた。
「飛び入りであんなに踊れる人なんて初めて。
今度、ウチに遊びにこない?」
「ありがとうございます。
来週になったら伺えると思います。」
「私はソニア。これが私の連絡先。待ってるね。」
ジェイの会社のビジネスカード。
ソニア・ジョグデール。肩書は共同経営者。
なんだジェイの奥さんか。
結婚式はまだって言ってたくせに結婚はしてたんだ。
早くベッドに入ったのに、ジェイとソニアの息の合ったダンスが
目に浮かんでなかなか眠れなかった。