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ジェイ

翌朝10時。お婆様の命令で一族全員が大広間に集められた。


お婆様が話し始めた。

「皆の者の知っている通り、

このたびは集まってもらったのは他でもない

イーシャに当家の新しい主とし、イーシャとファンドワーリ家のロビンとの

結婚披露のためである。

くれぐれも不作法が無いよう注意するように。」

お婆様は言葉を区切った。

「なおこれからの行事を円滑に執り行うため、

有能なプランナーを呼び寄せた。

仔細は彼の指示に従うように。」

お婆様の声に一同、頭を下げた。

「彼をこちらに。」

お婆様に呼ばれて入ってきた男に驚いた。

昨日のバイクの男だ。


「このたびの式を取り仕切らせていただく

ジャグジンデル・ジョグデールです。

ジェイとお呼びください。」

そう言うとジェイはイーシャを見た。

「君がイーシャだね。このたびはおめでとう。

ウチのモットーは『花嫁に最高の笑顔を』。

素敵な結婚式になるよう全力を尽くします。

よろしくね。それからその横は...」

「アイラ。」

嘘をついたら「おや?」って顔をした。

分かってるなら聞かなきゃいいのに。

「アーリア。イーシャの姉です。」

私が正直に答えると。初めて名前を聞いたような顔をした。

「そうアーリア。初めまして。よろしく。」

にっこり微笑み、正面に向きなおした。

「それでは皆様、明日はファンドワーリ家を

お迎えしての 歓迎パーティーとなります。

それまではゆっくりとおくつろぎください。

城の周りにも見所はたくさん。

飲み物も食べ物も十分、用意しております。

でも最初から飲みすぎますと、それからが

長いですよ。ご用心のほどを。

何かありましたら、遠慮なく私または私どもの

スタッフをお呼びください。」

そう言うと、にこやかな表情のまま下がって行った。

女性陣はみんな彼に夢中だ。

「チャーミングね」という声が漏れる。

お婆様まで上の空だ。

まったくこれだから女って奴はと呆れた。


昼間、歩き回って疲れたのに、目が冴えて眠れなかった。

窓の外には大きな満月。雲ひとつかかっていない。

今日見かけた川の淵。あの底に届く月の光はどんなにキレイだろう。

そう考えたら、いてもたってもいられなくなった。

大きなタオルを持って行ってみることにした。

誰もいないことを確認してから、服を脱いで水の中へ。

残念ながら思ったように見えない。

水の中ではすべてがボヤけて見えた。

「水中メガネがないとダメかなぁ」

沈んだり、浮かんだりを何度も繰り返した。


突然、「大丈夫か?」大きな声がした。走ってくる足音もする。

「来ないで。」

叫びながら、急いで近くの岩かげに隠れた。

足音が止まった。

「えっ何?溺れてるんじゃないのか?」

怪しむような声。

「泳いでただけ。何ともないからこっちに来ないで。」

「その声、アーリアかい?僕だよ、ジェイ。

いったいなんでこんなところで泳いでるの?」

優しい声だった。迷ったけれど正直に話した。


「水の中からお月様見たらキレイかなと思って。」

「へぇー、それでどう?キレイだった?」

「それが全然ダメ。ボヤけちゃって。

水中メガネがあるといいんだけど」

「フーン。あっ、ちょっと待って」

走る音がした。しばらくして近くに小さな水しぶきが上がった。

「これならどう?」

バイク用のゴーグルだった。

それをつけてもう一度潜る。見えた。

降り注ぐ光がカーテンのように揺れる。

底から上を見ると青白い月がユラユラ揺れて見えた。

すごい、すごい。飽きるまで何回も繰り返した。


岸を見ると服を置いた木の枝にシーツが掛けられ簡易更衣室に

変わっていた。着替えるとジェイはコンロで沸かしたお湯で

紅茶を作ってくれていた。

「ミルクも砂糖もないけどね」

冷えた身体に暖かい紅茶がうれしかった。


「僕も潜ってくるね」。

水の音がした。

10分ほどしてタオルで頭を拭きながらジェイが戻ってきた。

「すごいね、これほどとは思わなかったよ。」

と満面の笑み。

「よくこんなこと思いついたね。」

しきりに感心している。

「ゴーグルがなかったら何も見えなかったわ。どうもありがとう。

でもジェイは何するつもりだったの?」

「あの岩の上で眠ろうかと思ったんだ。

月と星の下で眠るっていうのいいかなってね。」

「それでシーツまで持ってたんだ。変わってるのね。」

「君ほどじゃないさ。

ところでアーリア、ダンスは好き?」

「愚問ね。インド人に辛い食べ物、食べれますかってくらい。」

それを聞いてジェイが笑った。

「明日のパーティー。一緒に踊ってもらえるかな?

Shaandaarなパーティーにするからさ。」

「曲次第で考えてあげる。」

「気に入ってもらえると思うよ。

さて、もうだいぶ遅くなったから帰ろうか。部屋まで送っていくよ。」

二人で歩きだす。

「ジェイは、これまでたくさんの結婚式を手掛けたんでしょ?」

「この仕事を始めて10年以上になるからね」

「これまでで一番うまくいった結婚式ってどこ?」

「それはもちろん今度の結婚式になるさ。」

ジェイは自信たっぷりに答えた。

「でも自分の結婚式は?どこでやったの?」

「それは、まだやってないんだ。」

「フーン。」

気が付けばもう私の部屋の前だった

「どこかやりたい場所ってあるの?」

「イングランド。古いお城、深い緑、美しい湖。

バラの咲き乱れる中、二人で愛を誓ったら素敵だろうってね。

『行ったこともないくせに』ってよくバカにされるんだけど。」

はにかむ彼を見て胸の奥で何かが弾けるのを感じた。

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