表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/11

ラジャスタン

ジャイプール空港から1時間。

何もなかった岩山の上に城塞が見えてきた。

私とイーシャは車のサンルーフから顔を出した。

9月、涼しくなり始めといえ暑い。それでも乾燥した風は心地いい。

ムンバイの湿った空気とは大違い。

「危ないぞ。二人とも座りなさい。」

父さんが大きな声を出した。イーシャは慌てて座ったけど

私はこの風を感じていたかった。

「えっ、何?聞こえない。」

次のカーブが来るまで無視した。

「まったく、転がり落ちても知らんぞ。」

父さんの怒っているけど口だけだってわかってた。


私はアーリア・アローラ。

妹のイーシャと一緒に大学を卒業したばかり。

アローラ家は今でこそムンバイに住み、企業を経営しているが、

元は勇猛果敢で鳴らしたラジャスタンで唯一の女城主の家系。

後継者であるイーシャが当主となる儀式と結婚式のため

昔の居城に向かっていた。


現在の当主であるお婆様のリクエストは「Shaandaarな結婚式」。

あえてヒンディー語のShaandaarと指定するあたりがお婆様らしい。

AmazingやSuperbでは輝きが乏しい。

Splendidには壮大さ足りないし、Sparklingでは軽すぎる。

だからShaandaar。

威厳と輝きと満ちた結婚式。それが彼女の望み。

そのために凄腕のウェディング・プランナーを呼び寄せたという。


でも私が気にしていたのはイーシャの花婿。

お婆様が決めた相手は新興財閥ファンドワーリのロビン。

写真ではマッチョで、そこそこハンサム。

イーシャは喜んでたけど、私の好きなタイプじゃなかった。

最近、状態が芳しくないアローラ家のグループ企業を

ファンドワーリ家が資金援助する代わりに

結婚を決めたという噂も耳にしていた。

イーシャを大事にしてくれる相手なんだろうか?

私はすっきりしなかった。


キーッ!

突然、車が急ブレーキ。何かが倒れる音もした。

父さんが飛び出す。バイクとぶつかりそうになったらしい。

「お前が謝れ」「そっちこそ」

父さんは相手と怒鳴りあっている。

しばらく待ったけど終わりそうもない。

私はイーシャに出ないように言ってからドアを開けた。


「アーリア、中に入ってなさい」

父さんが振り向いた。

「やぁ、アーリア」

口論の相手が私に笑いかけた。

無精ひげに整った顔。笑った顔がチャーミング。

でも30半ば、オジサンに興味はない。

「なんでお前が娘に話しかけるんだ。」

父さんが怒鳴った。

見れば私たちのメルセデスの前に

黒いロイヤル・エンフィールドが倒れている。

少しだけど自動車の前輪が中央線よりも右に入り込んでいた。

「仕方ないわね、お父様が悪いわ。」

「さすがはアーリア!もの分かりがいい。」

バイクの男がうれしそうに声を上げた。

父さんの顔がゆがむ。


「でもね。ぶつかってもいないのにバイクが倒れているの?

ケータイ片手に乗ってたんじゃないの?」

男は口をへの字に曲げ、お父さんがニヤリと笑った。

「お互いケガもなかったんだし、これぐらいにしましょ。」

私がバイクを起こそうと腰をかがめるたら男が駆け寄ってきた。

「お嬢さんが手を出すようなもんじゃないよ。」

同じバイクを友達に借りて何度も乗ったなんて父さんの前では

言えなかった。

「じゃあね、アーリア。また会おう。」

男のバイクが走り去った。

「二度と会わせるもんか。」

父さんが彼の背中に毒づいた。


たどり着いたお城は期待以上だった。

昔の城塞と聞いて岩ばかりの堅い、いかついイメージを持っていた。

でも実際はまるで違った。

柱や壁のあちこちに細かい模様が刻まれ、

ドアや壁のあちこちに草花がデザインされている。

優しい曲線が多い。城主が女性ということもあるのだろう。


お城はホテルになっていて、古い建築を残しながらも、

照明やエアコン、水回りといった設備は最新式。

柔和さと質実剛健、新しいものと古いものとがうまく融合していた。

そのホテルもイーシャの結婚式ために前後2週間は休業だ。

「本当に素敵ね。」イーシャは有頂天。

「確かに悪くないわね。」

イーシャは私の言い方が気になったらしい。

「あら、アーリアは気に入らないの」

「私はもっと緑が多いところがいいな。」

「ムンバイってこと?」

「まさか」

「分かった、イングランドだ。

相変わらずね。行ったこともないのに。」

そうイングランド。

鮮やかな緑の芝。深い緑の森。古いお城。

美しいバラに囲まれて結婚式が出来たら、どんなに素晴らしいだろう。

小さいころからの憧れだ。

でも分かってる。私がそんなところで結婚式を挙げるような身分

じゃないってことくらい。

「夢よ、夢。」

私は上を向いてつぶいやいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ