過去への旅4
結界部屋の中は明かり取りの窓もないのに、全体に白く発光している。
「説明してもらったけど、術が複雑すぎて、他の人に説明できないから、聞かないでね。」
母らしい。
「とにかく、ここで何が起きても絶対に外に漏れ出す事はないわ。」
繋いでいた手を離しながら
「なるべく中央に寄って頂戴、壁の近くでは結界を踏んでしまうから、この印見えるかしら、ここが真ん中ね。」
僕たちを見て、
「ミカエラ、ネックレスを外して、そのロケットペンダントを右手で握って、そう。」
僕に
「もっとミカエラにくっついて、ミカエラの左腕をしっかり組んで、指をからめて頂戴、早く。」
手をパーにするのって叱られた。
「いいって言うまで、絶対に離しちゃダメよ。」
二人でうなずく。
「おそらく何度か試してみないと、私たちが納得できるような情報は得られないの。
いい?私たちはミカエラのために、ミカエラの過去へ旅をする。
過去を知っても、悪用はしない。
ただただミカエラの幸せのためだけに調べる、わかった?」
僕に向かって
「過去見ができるのは、ヒロムだけ、私たちには何も見えないし、聞こえない、感じない。
あなただけが頼りよ、しっかり覚えておかないとダメよ。」
「母さんは、どうするの?見ててくれるの?」
「二人が協力して過去見をしてる間、シールドの魔法をかけ続けるわ。
もし何かの術が発動したら、できる限り打ち消すから、後ろは気にしなくていいわ。」
「さぁ、用意ができたわ、ヒロム過去見を始めなさい。」
深呼吸して意識を集中する。
目を閉じて、ロケットペンダントを思い浮かべると音が聞こえる。
「音が聞こえる。」
後ろにいる母が
「わたしには聞こえないわ、ミカエラはどう?」
「聞こえません、ロケットペンダントが少し熱い。」
「冷やすから、もう少し右手を右に出して。」
「冷えました。」
「さ、最初からもう一度やるのよ、ヒロム。」
また意識を集中させる。
遠くの教室で椅子を引くような音かと思っていたけど、これは誰かの話し声だ。
「誰か、なんか言ってるけど、ぼんやりしすぎて聞き取れない。」
「誰かの姿とか、見えてはこないの?ミカエラは大丈夫?」
「大丈夫です。」
「もう一回、はじめからやってみる。」
目を閉じて、さらに集中する。
声の調子は同じだけど、気配がして上を見上げると、部屋の天井が、ぼんやり見えた。
白い、金の枠飾りなのか、豪華な部屋だ。
人影が見えるけど、全く顔は見えない。
二人いて、何か穏やかに話している。
「ヒロム大丈夫?ヒロム?」
「え?大丈夫、部屋と二人の人影が見えた。」
「さっき、もう一回と言ってから、20分くらいたったわよ。」
「自分では1分くらいにしか感じなかった。」
「おそらく次で最後にしたほうが良さそうね、異変を感じたら、すぐ止めなさい。」
「わかった。」
僕は集中して目を閉じた。