過去への旅3
どうやら母は、シルフィアに事の詳細を聞かされて、涙ぐんでいた。
ミカエラと僕がホールに戻ると、母はミカエラを抱きしめた。
「辛かったわね、もう心配しなくていいから、好きなだけここにいたらいいのよ。」
一見愛情深そうな母だから、当然の発言なんだけど、ミカエラがずっとここに住み続けるのも、どうかと思う。
少なくとも、僕は困る。
「シルフィアから聞いたけど、つまりロケットペンダントには本人以外が触れないように、術がかけてあるのね。
なんらかの要素を感知して、術が発動するかどうかを見分けてる。
ずいぶん高度だこと。」
母は腕組みをしてる。
僕はふと疑問を感じた。
確かに相手を見分けて術を発動するなんて、高度すぎる。
シルフィアの愛情の深さ説も、胡散臭い。
「もしかすると、それも時限魔法かもしれないよね。」
シルフィアが
「なるほどギンゴ、なかなかいい事を気づいたのぅ。
小さな頃は、ただのペンダントだから、調べようとはしない。」
「単に表面的な部分だけ見るんだからね。
文字が彫って無いかとか、せいぜい価値があるかどうか程度だ。」
僕が答えると、ミカエラが
「これが開いた時に、わたし以外が触れると、危険だから、って事?」
「ミカエラ以外にはタロットカードの存在を知られては困るって事だね。」
母が、
「ミカエラを守るためとしか考えられないわね。」
シルフィアが
「タロットカードだけでなく、時限魔法も、ミカエラも、他の何かも・・・知られては困るか。」
「じゃ守る必要が無くなる時って、来るのかな、もしくは、いつだろう。」
ミカエラ本人にも知らせる必要は無いのかな、ここも疑問だ。
だから僕と出会うのを待っていたのか?
もし僕が放棄したら、別の誰かがミカエラを救うのだろうか。
母は僕に
「それを待っていたら、ミカエラはずっと晴れない過去を抱えたままでいる事になってしまうわ。これも何かの縁だから、私たちに出来る事をしましょう。」
母が力強く微笑む。
コワイ。
母は周りを見渡して、
「どういう術が発動するかわからない状態なら、ここではダメね。
みんな、ついてらっしゃっい。」
僕たちを先導する。
物置部屋ばかりの3階へと上がってきた。
1階や2階と違って、ここは天井が低い。
空気が通ってないから、蒸し暑い。
いつの間にか杖がわりの、でっかい石のついた指輪をした母は、廊下の端の鎧戸もろとも両開きのガラス窓も開いていく。
光が入って、風は通るけど、ボロくなった鎧戸が外れそうで、ヒヤヒヤしていた。
「3階なんて物置でしょ、どこ連れていくんだよ。」
「結界部屋よ、あなた使った事なかった?」
「結界部屋?」
はじめて聞いた。
「ここよ。」
黒びかりする扉の前にきた。
母は小さな鍵を出すと、かすかな音を立てて、扉を開く。
開いた途端、部屋の中に何かの仕掛けをしてあるのをビリビリ感じる。
一人でいたら、絶対部屋の中には入らないだろう。
「鍵の持ち主だけが入室を許されているの、さ、手を繋いで。
シルフィアは気分が悪いなら、入らなくていいわ。」
「奥様、申し訳ありません、ここはご遠慮します。」
「ロマートが戻ったら、結界部屋にいると伝えてちょうだい。」
シルフィアの方を母は振り返ると
「3時間以上たっても出てこない時は、主人に連絡してくださる?」
「承知致しました、奥様。」
こんなに従順なシルフィアは見た事がない。
僕は少し鳥肌がたった。