過去への旅2
屋敷に戻ると、母とシルフィアが昼食後に寛いでいた。
「ミカエラは戻って来てる?」
母が
「食事の前に手を洗ってると思うわ。あなたも手を洗いなさい。」
子供じゃないんだから言われなくても。仕方なく従う。
ダイニング横の洗面所に行くと、ミカエラはいなかった。
あのロケットペンダントだけ置いてある。
「ミカエラ?」
手を洗って、しばらくしても戻ってくる気配がない。
僕は周りを見渡して、ペンダントを観察した。
ロケットペンダントの部分と、チェーンの色が微妙に違う。
チェーンに、そっと触れてみると、何も起こらなかった。
自分にシールドの魔法をかけて、そうっとペンダントの部分に手を伸ばした。
「ギンゴ!」
ミカエラが濡れた髪のまま、走ってきて、僕とペンダントの間に割って入った。
「もう、何かあったら、どうするの?」
ちょっと触るだけだからと言おうとしたら、何か聞こえた。
ミカエラが動きの止まった僕の顔を見てる。
「今、声みたいなの、聞こえた?」
「うんん、何も聞こえないよ?ギンゴ大丈夫?」
母が後ろから来て
「何してるの二人とも、ロマートが出かけているから、サンドイッチ出してあげるわね。」
「今、かあさん、何か喋った?」
「何してるの?って言ったわよ。」
「や、その前」
「いやな子ね、母親の声も忘れたの?何も言ってないわよ?」
すると洗面所に置かれたロケットペンダントをチラッと見て、
「あら、ずいぶん古い物みたいね。」
ミカエラが
「わたしのなんです。」
ネックレスを自分の首にかけた。
「ヒロム、あなたあんまり古いもの、触っちゃダメよ。」
そういうと母はサンドイッチが乗った皿を僕とミカエラに渡した。
「なんで?」
「おじい様に聞かなかったの?ちょっと待ってアイスティーのほうがいいわよね、二人とも。」
僕たちが食べ始めると、母はライムが浮かんだアールグレイのアイスティーを大きなガラスのピッチャーに入れてきた。
氷の入ったグラスに注いでくれる。
「お砂糖入ってるからね。」
と言うと自分のグラスにも注いだ。
「ヒロム過去見ができるわよね。」
食べながら頷くと、
「おじい様も過去見で、国に貢献なさったけど、普通の生活できなくて大変だったのよ。」
「どういう事?」
「この家にも、代々受け継がれてきた銀製品や、陶器の食器があるでしょう?
触る度に、いろいろなものが見えたり聞こえたりするから、おじい様の身の回りの品は全部新品だったのよ。
新しいメイドが来た時とか、間違えちゃって大変だったわぁ。」
「はじめて聞いた。」
「あなたが小さい時は、過去見ができるなんて知らなかったもの。」
「ミカエラが過去見ができれば、何の問題もないのにね。」
「無理、無理。」
二人で笑った。すると母が真顔で
「同調すればいいじゃない。」
とサラリと言った。
「同調?それなに?」
「あなた達、学校で何を教えてもらって、あ、禁止になったわね。」
同調の魔法は、複数の魔法使いが気持ちを一つにして同時に魔法を行う方法だ。
一人では小さな出力でも、複数で行う事で魔力やエレメントを強大なものにできる。
それだけに、意思や目的が一人でも定まらないと事故も起きやすい。
「今や、銀の者も単独で動く事が多くなってしまったから、使う事もないわよね。」
世界中に散らばってるんだから、しょうがない。
「大都市では二人一組で動く事に改革されていくけどね、始まったばかりだから。」
「お父さんと二人で組んでた時は、よく一緒に同調したものよ。」
「仕事してた時なんて、あったの?」
「わたしも銀の者だったのよ、ほんの短い間だけだったけど。」
ミカエラが
「すごーい。」と驚く。
「お父様がいれば、完璧だけど、3人の魔術師がいるなら、怖い物などないわ。
さっ二人とも早く食べなさい。同調が何か教えてあげるわ。」
父がいれば完璧って所が、ちょっと不安だったけど、技を深められる方法があるなら、身につけたい。