岐路5
魔力研究所についた。
白い新しい建物だ。
正面玄関に指示書を見せて、
「銀の5号です。こちらに届けるように指示されて来ました。」
受付の女性は指示書を見ると
「ここは初めてですか?」
「はい、初めてきました。」
「それなら、隣の部屋でカードを作ってください。」
僕は隣の事務室に入った。
どうやら身分証明のカードを作らされるみたいだ。
もう二度とこないかもしれないのに。
例の石板と言われる画面に手を置き、魔力スペクトルで認証させられた。
毎回、カードを差し込み、手を画面に置かないと、各部屋には入れないらしい。
カードを首から下げるストラップに通してくれながら事務の男性が
「この指示書の部屋は3階にエレベーターで上がって、出て左の部屋です。
ギンゴさんなら、どの部屋にも入れるようだけど。」
ジロジロ見られた。
「それは、楽しみ?ですね。」
こいつには自分が言った意味は伝わってないなって顔をされた。
さっさとペンダントネックレスを持っていって、用事をすませよう。
エレベーターを降りて言われた通りに左に進む。
どこもかしこも新しい建物のニオイがする。
部屋の前に
『トレッテンチーム』書かれてた。ここだよな。
僕はカードを差し込み、手を置いた。
カチッと音がしてドアのロックが外れる。
一応ノックもして、ドアを開けた。
広い部屋が、パーテーションで区切られて、7-8人の人がデスクに向かって作業してる。
ドアが閉じると、ドア裏に部屋の図がかかれてた。
指示書のリンゲブさんは奥の方だ。
近づいていくと拡大鏡で、魔方陣のプレートをピンセットで挟んで、見てる。
「リンゲブさん?」
拡大鏡をクイッと上げて僕を見る。
「やぁ、誰?」
僕は指示書を見せながら
「銀の5号です。ロケットペンダントをお持ちしました。」
指示書と僕を交互に見ながら、
「あぁ早かったね。ここ座って、一緒に見ていくでしょ?」
椅子を出してくれたので、お礼をいいながら座った。
僕はゴムボールみたいな袋を出した。
「これ便利だろう。そこにいるエバンスが開発したんだ。」
一人置いた隣に座った髪の毛がモジャモジャの男性が、こっちをチラッと見た。
リンゲブがゴムボールを掲げながら手首を回してみせると、満足そうな笑みで返してくる。
「詳しい説明するのに時間がかかるから省くけど、これで術をカットできる。」
そう言うとグレーのプラスチックみたいな板の上に、ペンダントネックレスを袋からそのまま置いた。
素早くパソコンの画面を見て、僕にも見えるように傾けた。
「ほら、見て、ひとまず何も悪さはしてこないようだ。」
画面にはペンダントネックレスの影しか出てない。
「もし何かあるなら、えっと画像はどこに入れたかな、これだ、こんな風に光が出てくるんだ。」
紋章のような影の周りから、白や黄色の光が出てる写真だ。
「それならロケットペンダントは触って大丈夫なんですね。」
リンゲブさんは手袋をはめると
「わたしたち魔力を持つ者は直接触るのは、好ましくない。」
なるほど、結界部屋と鍵の組み合わせと同じな訳か。
「直にさわると、術者が望んでなくとも魔力を供給してしまうって事ですか。」
「そう、説明が省けて楽だよ。」
今度はネックレスを机の上に置いてカメラみたいなアームを伸ばして、ペンダントの真上にくるように微調整した。
パソコンの画面に、ペンダントが拡大されて写る。
リンゲブさんはカメラを覗きながら、ピンセットでロケットベンダントを開き、中の薄い金属の板を、器用に外した。
「あぁやっぱり、一体何枚仕込んだんだ?」
嬉しそうだ。
「何が入ってるんですか?」
「今、出すよ。ほらこれ一枚一枚が魔方陣だ。」
薄いリボンが繋がったような金属の板がいくつも重なって出てくる。
「普通はドーナツがペッタンコみたいな金属プレートなんだけど、どんな形でもひとまず円形なら機能するんだ。」
「なるほど、ネックレスをしている限り魔力が供給されつづける。」
「時限魔法って聞くと、すごいと誰しも思うけど、ちゃんとタネが仕込んであるわけだ。」
「あらかじめ計算して術が一定の時間の後に発動するようにしてあるのか、すごいな。」
「そ、だからわざと一番身につけやすい形にしてある。」
「それなら、宝石箱の中に入れたままなら。」
「永遠に何も起こらない。
ま、たまには魔力を貯めこめるように作られたものもあるけど、術者が触れない状態で長くは動かないな。」
リンゲブさんは僕の顔を見て
「楽しいでしょ?」
「すごく面白いです。」
満足そうに微笑むと僕の上着をチラッと見た。
「その上着は結構着てる?よかったら脱いで見せて。」
僕は上着を脱ぐとリンゲブさんに渡した。
拡大鏡を目のほうに倒すと服の襟裏や、袖口を見てた。
「仕込まれてるな。どうやら熱烈なファンがいるようだ。」
そう言うとピンセットで小さな魔方陣を挟んで僕に見せてくれる。
「まさか。」
「ここに来させられる銀の者は大抵1個や2個付けてくるよ。」
そう言うと、立ちあがって
「ファイナ、Tシャツの予備って無い?」
部屋の反対側に呼び掛けた。
「1枚しかないわ。サイズ合うかな?」
髪の毛を後ろに一つに縛って、メガネをかけた細い女の人が僕の隣に来た。
「ちょっとダブつくかもしれないけど、キツキツより平気でしょ?
これ着ると余分な魔力の放出も減るから、かなり使えるわよ。」
僕にビニール袋に入った黒いTシャツをくれた。
「ありがとうございます。」
お礼を言うと口角だけ少し上げて見せ、自分の席に戻って行った。
リンゲブさんが
「魔力のある者は、ほどんどがそうなんだけど、手だけでしか魔力を出してるわけじゃない。」
「全身から出てるって事ですか?」
「そう、たまに手より足のほうが強い人もいる。」
僕は自分の足の付け根をチラッと見た。
リンゲブさんは笑いながら
「男なら誰でも思う事だけど、一瞬で終わる最高を望むより、長く続く安全を望んだほうがいいと思うよ。」
隣の席の人も
「俺も、その意見に同意だ。」
ニヤニヤ笑ってる。
「さっここで着て行きなよ。これからも追跡の魔方陣は仕込まれるかもしれないけど、ひとまず上半身は魔力をシャトアウトできる。」
僕は着替えながら
「それは追跡の魔方陣なんですね。」
リンゲブさんは僕の服から取った魔方陣を小さなビニール袋に入れて、
「おそらくね、術者によって多少形を変えてるけど、近くに来ると君の存在を知らせてくれるようにしてると思うね。」
ビニール袋に入れた魔方陣を僕に渡そうとした。
「え、いらないです。」
「そう?相手をうまくかく乱できる道具になると思うよ。」
なるほど。
僕はありがたく受け取った。
リンゲブさんは新しいゴムボールの袋をくれると、
「そこに入れておくといいよ。」
ビニール袋の追跡の魔方陣をゴムボールの中に入れて、ポケットに押し込んだ。
「ロケットペンダントは、リンゲブさんが解明してくれるんですね。」
「リグワーノの時操りが作った作品だから、やりがいはあるけど、時間がかかると思うな。
魔方陣の事なら、この建物の中でわたしが一番詳しいから、何か聞きたい事があれば何でも聞いていいよ。」
「それなら、時間か止まったみたいに、人の動きを止めてしまう魔方陣もあるんですか?」
「人の動きを止めるね。」
リンゲブさんは、しばらく椅子の背に持たれてユラユラしてた。
姿勢をただすと
「時間を止めるなんて誰もできない。でも魔力の糸を張りめぐらせれば、人の動きを制約する事は可能かな。」
「シールドやミラーでは、全く役に立たなかったんです。」
「術じゃなく、攻撃でもない、動きを止めるだけのものかもしれないね。
いろんな魔術があるけど、本人ですら、それが何か理解して発動してないからね。」
確かに、僕も感覚だけで出していて、実際何かよくわかってはいない。
「ギンゴ君でいいのかな。何か欲しいアイテムとか無い?」
「今の所は特に。」
「また、わからない事や、調べて欲しい時に来ると良いよ。
役に立つ新しいものを、順次開発していくつもりだから。」
僕はリンゲブさんと握手した。
知らない間に夕方になっていた。
僕は屋敷に戻る事にした。




