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僕は旅をする  作者: 沖ノ灯
32/40

心の旅1

翌朝、母に起こされて、病院に連れていかれた。

パトモット博士とソルデアは疲れていたのか、よく寝ていた。

二人をロマートにお願いして、双方に何かあれば連絡し合う事にしておいた。


病院に近づいて

「母さんみたいに、ミカエラの手や足をさするのは嫌だからね。」

母は笑って

「ミカエラだって嫌でしょうから、そんな事させやしないわよ。」

しばらく黙った後で

「もっと深い事をお願いするのよ。着けば、わかるわ。」

病院は、もう目の前だった。




ミカエラの病室の階にいくと、昨日が嘘のように静かだった。

「魔力研究所のみなさんは撤収したの?」

「機器だけ残してね。ここにいて頂戴よ。」

そう言うとミカエラの病室が見える場所に僕を一人残していった。

相変わらず、ミカエラは眠っているようだった。

おとぎ話じゃないんだから、誰かのキスで目が覚めるなんてない。

気配で振り向くと母と背の高い人がいた。

性別が、わからない。

「ギンゴさんですね。フォンスと言います。

はじめまして、どうぞよろしく。」

手を差し出され握手した。僕も挨拶する。

整った顔立ちだけど、男性なのか、な?

「フォンスさんはね、心理学者なの、特殊なアプローチをして治療されてる方。」

「わたししかできない方法で治療するので、あまり数がなく未承認ですが。」

母はフォンスを見上げると、

「それでも希望はあるわ。」

僕、何させられるんだろ。




ミカエラから発する光に届かないギリギリまでフォンスは近寄ると、ミカエラの方に向かって杖代りの指輪の手をかざし、何かを探っているようだった。

いつの間にかドクターが側で見てた。

「後で何が起きたか教えてくれるかい?」

僕はうなづいたけど、まだ何をさせられるか聞いてない。

フォンスさんは、助手らしき人に二人用のソファを持ってこさせて、位置を微調整してた。

セッティングが終わったのか、僕を真直ぐ見て微笑む。

え?呼ばれてる?

仕方なく僕はフォンスさんの近くに行った。

「これからミカエラさんの心の中にダイブします。」

は?

「わたしが直接ミカエラさんの心に語りかけてもいいのですが、できれば親しい方のほうが効果があるので、ギンゴさんと、ご一緒してもらいます。」

僕は、まだ寝てるのかもしれない。

フォンスさんの言ってる事が全然入ってこない。

「ダイブ?ですか?」

「わたしの特殊な魔術です。

対象となる患者さんの心の中に入り込んで、直接アプローチします。」

フォンスさんは、真面目な顔になると怒ってるみたいで、僕はたじろいだ。

「説明するより試していただいたほうが理解しやすいでしょう。同調は既にご存じだとか?

どうぞ、こちらへ座ってください。」

ミカエラとしたみたいに同調するのか。

心の中って、僕が入っていいものなんだろうか。

前回と同じようにフォンスさんと手を組むと、

「わたしが常に一緒ですから、ご心配は不要です。

わたしの姿はミカエラさんには見えませんが、わたしにはギンゴさんと同じように見えて聞こえています。

サポートしますし、アドバイスさせてもらいますので、ミカエラさんを見つけたらできるだけ自然に話しかけてください。」

僕はハイと返事した。

「それでは行きます。リラックスしてください。一瞬意識が遠くなるような感覚がありますが、心配しなくても、それがダイブですから取りみださないように。入ります。」




フォンスさんの言葉の最後の方は遠ざかるように聞こえた。

居眠りで一瞬寝た感じがしたと思ったら、僕は見た事のない場所にいた。

広い空と芝生が地平線まで広がっている。

目の前に丘があった。

フォンスさんの声だけが聞こえる。

『入りました。ギンゴさん。丘が見えますね。』

『はい』

『ゆっくり歩いていってください。』

小高い丘を歩いていくと、急に視界が開けた。

湖が広がっていた。

丘から迂回しながら湖の近くに今度は坂道をくだっていく。

時々吹く風で湖面がさざ波をつくる。

透き通った綺麗な水だ。

『ミカエラさんは見えませんか?探してみてください。』

僕は湖の岸辺を歩き始めた。

遠ざかる景色は霧がかかったように消えていく。

しばらく歩くと岸から少し入った所にビーチパラソルが刺さってた。

芝生にビーチマットが敷かれて、飲み物やランチの入ったバスケットが置いてある。

サンダルや服が置いてあった。

泳いでいるのか?

湖のほうを探し始めると、誰かが浮かんでいるのが波間に見えた。

『キンゴさん、イメージしてください。心の中で具現化されます。』

僕はボートを想像した。

空気で膨らませる二人乗りのボートだ。

押して水面が胸のあたりまで進めると乗りこんで、オールを漕いだ。

徐々にミカエラに近づいたけど、普通なら心地良さそうな表情していそうなのに、無表情だった。

『ミカエラさんに、いつもみたいに声をかけてください。』

ボートで3メートルの近さにいるのに、全然こっちを見ない。

「ミカエラ、何してるんだよ。」

僕を見ないで

「泳いでる。」

岸辺を見るとパラソルが小さくて見失いそうだ。

「こんなに岸から離れて、溺れたらどうするんだよ。」

「沈もうとしてるんだけど、浮かんでしまう。」

『ギンゴさん、ボートに誘導できますか?』

「泳ぐのも飽きたろ?ボートに乗りなよ。」

僕はミカエラの腕を引っ張った。

長い間泳いでいたのか、すごく冷たい。

ミカエラがボートに、よじ登るのを手伝った。

白い水着を着てるのに、こんなに痩せてたっけ?

僕はホテルのバスタオルを想像して、ミカエラに渡した。

「ミカエラ寒くない?」

弱々しく首を振る。

「岸辺に戻るよ。」

タオルを肩にかけて濡れた顔をそっと拭いている。

僕はボートを漕いで、岸辺に向かった。

ミカエラは黙ったままだ。

空は晴れてるのに、太陽はない。

心の中って時間の感覚がないのかな。

だんだん浅くなってオールが底に当たるからボートを降りて引っ張った。

岸について

「ほら着いたよ、紅茶でも飲む?」

ミカエラはボートからおりて、芝生のパラソルまできた。

「服に着替えるから、あっち向いてて。」

無表情のまま言った。

僕は湖のほうを向いたまま、あぐら座りした。

結構時間が経った気がして

「もういい?」

返事がない。

「ミカエラ?」

怒ったら、その時は謝ればいいや。

僕は振り返った。

誰もいない。

パラソルもバスケットもなくなってた。

『返事してくれただけでも充分な成果です。

こちらの時間では5分も経っていないので、またミカエラさんを探しましょう。』

『ミカエラとかくれんぼしてるみたいですね。』

『急に自分の心の中に誰かが別な意思をもって存在すれば、当然の反応です。』

僕の周りが霧につつまれて自分の足元しか見えなくなった。

『暗くはないので大丈夫です。なるべく明るい場所を探してください。』

『扉をイメージして、近道しちゃダメですか?』

しばらくしてフォンスさんは、

『まだです。先程のダイブの感覚を繰り返します。目を閉じてください。』

僕は目を閉じた。


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