短い夏休み2
支払いを済ませて、荷物をゴムで固定して、ドリンクホルダーに水のボトルを入れた。
魔力ボール入れを少し傾けて、タンクに入れる。
「バッテリー満タンだから、少しで大丈夫だよ。」
魔力というより、電気バイクだ。
もちろんガソリンみたいな排気は全くない。
スタンドを外して、またがって、スターターボタンを押すと、ドッドッドッと軽いエンジン音がする。
やばい、わくわくしてきた。
お店の人が3人に増えて、キャップを脱いで
「ありがとーございました。」
慣れてなくて恥ずかしい。
オイルで黒い店員さんが、
「なんかあったら、さっきの名刺の番号にかけてね。」
親指を立てて、見送ってくれた。
僕はウィンカーを出して、後方確認、スロットルを回した。
いい感じにクラッチが切れて、ギアが上がっていく。
久しぶりにバイクに乗ったけど、案外忘れないもんだなと思った。
海沿いの道路標識を見ながら、右へと走らせる。
建物や林を抜けて、一気に広がった海を見ながら、走る。
うわー気持ちいいー。
口元が完全にゆるんでた。
この感じ、いつ以来だろう。
たのしーぃ。
「島に着いたの?」
シルフィアの声がした。
「う、うん。」
「東のゲートのヘリポートに迎えに行けばいいの?」
「いや、自力で家に着くから、へーき。」
少し間があいて、
「ロマートが、お食事はどうなさいますか?って。」
ロマートは執事だ。
「明日の夜くらいに着くかなぁ、ちょっとわかんないよ。」
「はぁ、どこにいるの!?」
「島ですけど。」
なんでシルフィアに怒られなきゃならないんだ?
それにミカエラと一緒に行ったんじゃないのか?
ま、いいや、こんなに楽しいんだし、ゆっくり帰ろう。
湾になっている、内海の所は海水浴客でにぎわっていた。
そうかふつーは夏休みなんだよな。
日本で仕事してた時は、休みらしい休みはほとんどなかった。
単に僕が動き回ってただけなんだけどね。
一人で部屋にいるのが、嫌だったからなんだけど。
ガソリンのバイクに比べて、熱くはならないけど、2時間くらい走るとエンジン部分に熱を持つ。
ビーチの外れに、かき氷屋さんがあった。
ちょうどいいや、休憩しよう。
練乳とカプチーノのかき氷をを頼んで、遠くにカラフルな色が海に遊ぶのを、ぼんやり見てた。
ショリショリと音をたてて氷を削ってる、お姉さんが、
「ピカピカのバイクね。」
「さっき買ったばっかりなんだ。」
「気をつけて走ってね、はいカプチーノ・ホワイト。」
「うわーありがと。」
足が斜めってて、座ると傾くベンチに腰掛けて、フワッと溶ける甘苦い味を楽しんだ。
木陰にいて、海からの風が吹いている。
一人で楽しむには、もったいないくらいで、僕はちょっと寂しくなった。