ミカエラの家3
ミカエラの家は、ものすごく整理整頓が行き届いていて、3年も手つかずにしてたとは思えないくらいだった。
ソファーや戸棚に白い古シーツがかけられてたけど、ほとんどホコリもついてない。
「こんなホコリの無い家あるんだね。」
と僕が驚いていると、ミカエラが空気清浄機を指さした。
「これが毎日タイマーで動くようになってたみたい。」
「なるほど3年分のホコリが溜まってる、けど電気代は誰が払ってるの?」
「知らない。」
知らないって、なかなかの神経かも。
「請求書が届いていると思うよ。」
そして他の手紙も。
ゴミ箱も空っぽ。
メモも何も残ってない。
几帳面て、何かあった時に痕跡が残らないんだな。
ミカエラはバケツを持ってポストに行くと大量の手紙を入れて戻ってきた。
「半分、お願い。」
渡される。
新聞は旅行に行くから止めてたみたいだ。
何日になるか予想ができなかったんだろう。
どうやら、ミカエラが遺産と言ってた口座の他に引き落とし専用の口座があるようだ。
電気料や水道料の引き落としのお知らせしかない。
電気は使っていても、水道はほとんど使ってないから微々たるものだ。
ダイレクトメールのような宣伝を捨てると、特に重要な手紙も無い。
収穫がないと困るな。
「ご両親は旅行先で事故に合われたんだよね。遺品はどうなったか、知らないの?」
「知らない。」
「ミカエラ?」
黙っている。
「学校に手続きに行った時に、何かミカエラ宛てに届いてなかった?」
「何か送られてたみたいだけど、家に転送したって聞いた。」
「僕のほうには、それらしき手紙は無いけど、そっちになにかあった?」
膝の上に置かれた手紙の山は減ってない。
仕方なくミカエラの手から、束をもらって仕分けする。
両親が亡くなり、遺体をどうするか確認の手紙が2年半前に届いている。
その後、ミカエラからの連絡がないために、共同墓地へ埋葬したと報告している。
遺品については保管されるとあるが、多分保管期限があるだろう。
リグワーノ島に先にいくべきか、ミカエラの養父母が事故死したマメリカ合衆国に行くべきか。
ひとまず、この手紙の電話に問い合わせてみるか。
僕が真面目に悩んでいると、ミカエラは放心したように、窓の外を見ていた。
「ミカエラ、大丈夫?」
「わたしが消えたらギンゴは泣いてくれる?」
「また全部放棄して、逃げるのか?」
「なんか、もうどうでもいい。」
「学校はどうするんだよ?魔術師の自分も捨てるのか?」
「真面目に頑張ったら、幸せになれるの?
なんで、みんなわたしを一人にするの?
どうせなら、火事で一緒に死んでしまえばよかったのに。
そしたら、そしたら、一人にならなくてすんだ。」
泣きだした。
「愛してもらった思い出も捨てるのか?それも全部どうでもいいって言うのか?」
「なんでギンゴは、そんなに冷静でいられるの?
わたしはギンゴと一緒にいたいだけ、本当は全部どうだっていい。
でも、ギンゴにとっては単なる仕事なんだよね?」
僕は目を閉じて、聞きたくなかった言葉を反芻した。
僕はミカエラが好きなのか?
日本にいた時から、ずっと言葉にできない違和感ががある。
ミカエラは、すごく弱ってる。
一人ぼっちで寂しくて、手を差し伸べてくれる人は、みんなヒーローだ。
ミカエラは、可哀そうだし、同情してる。
欲情するのは事実だけど、グラビア写真にも同じ反応はしてしまう。
なんとかして助けてあげたいと思うのと、好きって気持ちは似てるようで違うと思う。
僕は手紙を横に音をたてて置くと、
「じゃ正式に交際、お付き合いする?
デートしてキスしてセックスして、それでハネムーンに二人で行って結婚式、めでたしめでたしで暮らすのか?」
ミカエラは黙っていた。
「それで満足で、君は幸せなのか?」
「たまたま僕だっただけで、違う人なら、どうなってた?」
僕はリュックの中から、ペットボトルの紅茶を出して、ミカエラの前に置いた。
「両親が亡くなってから、ずっと一人ぼっちだった。」
「ギンゴだけが、関わりを持ってくれたの。」
好きって言うより、前に進めために必要な相手だったのかもしれない。
紅茶を飲み始めたミカエラに
「さっき蛇口ひねったら、すぐにキレイな水になったから、顔洗っておいでよ。」
ここにいても仕方がない。
まだ日が高いから、帰って問い合わせできる所に聞きまくったほうが情報は得られそうだ。
リュックの中に、必要な手紙を入れて、空気清浄機のフィルターを掃除だけしてコンセントは抜いておいた。
顔を洗って少しスッキリした表情のミカエラが戻ってきた。
「ここには、もう用がないから、どこかで食事して屋敷に帰ろう。」
それからミカエラは、ずっと不機嫌なままだった。
一人にするわけにはいかないけど、やはり僕と一緒にいないほうが、いいんだ。
心底、この仕事を引き受けるんじゃなかったと思った。
それでミカエラと僕の今が変わるものでも無いと思うけど。
もしかして、二人がラブラブになるのを想像した方も、いらっしゃるかと思ったのですが、どうしても、こんな流れになってしまいました。
なんとか、最後はご満足いただけるように頑張りますので、
どうぞ、お付き合いください。




