短い夏休み1
「僕は切望する」の続編です。
前作からの続きですので、読後にこちらを読み進められる事を、お勧めします。
前作とは舞台が異なり、ファンタジー色が強くなります。
僕はパトーオス島に戻ってきた。
しばらく島にいるから、移動する手段が欲しい。
ゲートの近くのマジックモーターズに立ち寄った。
魔力を動力として動く、バイクや自動車を販売してる。
荷物も少ないし、バイク程度でいい。
自転車で行くには暑いし遠すぎる。
オイルで真っ黒な店の人に近づいて
「マジックサイクルで手ごろな値段のってありますか?」
「兄ちゃん、それならパワーサイクルZってのが入ってきたよ。」
「高くない?」
家に帰るのが購入理由の半分なのに、そんなに高価なモノは買えない。
店員さんは、立ち止まると振りかえって
「大丈夫、高くない。」
僕の顔を見て笑うと、歩きだしてから、プッと吹いた。
オイオイ、島に戻っていきなり、騙されるの嫌だよ。
荷降ろししたばかりなのか、木枠の梱包と、今まさに出されたような新品のバイクが並んでいる。
やっぱり自転車、森さんに預けるんじゃなかったかな。
森さんは鑑識の人で、面白いけど、ちょっとヘンな人だ。
「超カッコイイだろう!」
「で、おいくらですか?」
「空冷DOHC2バルブの4スト、モーターの回転で得られた電気をバッテリーに充電するから、今までの半分の魔力で駆動する。エコだよー。」
聞いてない。
「タンクの部分は、そんなに小さくないんだね。」
「タンクカバーを採用してんだ。これを外すと、タンクとバッテリーが入ってる。」
満面の笑顔だ。
「今日乗っていくんなら、バッテリーフル充電しとくよ。」
木枠を見ながら、
「今なら、タンクの色が新色のレインボーメタリックブラックと、メタリックフォレストグリーンがあるよ。」
玉虫色の黒より、グリーンのほうが落ち着く色だった。
「じゃグリーンのほうで。」
「ありがとうございまーす。
ヘルメット2個サービスでつけて50万シルトね。すごい割引だよ。」
なんで2個?
喜んでくれるだろうって顔で見られて、僕は苦笑いした。
予算の倍以上支払う事になってしまった。
日本でとった免許証を見せて、保険にも入らされて、あっという間に昼を過ぎた。
バッテリーを充電するのに、もうしばらくかかると言われて、2軒となりのホットドックとコーヒーの店に入った。
昼なのに、チラホラ人がいる程度だった。
お店の天井に古いテレビが、吊り下げられている。
天気予報で午後からも晴れるようだ。
島なので、いくら夏でも最高気温は30度程度しかあがらない。
パトーオス島の面積はだいたい30万キロ平米。
東西に細長くて東側に首都機能が集中している。
西のほうは山が多くて、平地が少ないからってのもある。
僕の実家は西の端から、ちょっと手前の南側にある。
不便だけど海の近くで、景色だけはいい。
海沿いを走れば1200キロ程度。
途中で一泊して、明日には到着できるだろう。
久しぶりの休みなんだし、楽しんだらいいんだ。
使い魔のジンとタシームは荷物の中に紛れ込んで先に家に着いてる頃だろう。
本当に一人きりの時間は久しぶりだ。
一番手っとり早く帰りたいなら、東の非正規のゲートを通ればいい。
それをしないのは、単に実家に帰りたくないだけだ。
バイクがあればいつでも家を抜け出せる。
1ヶ月間の休みがあっても、ずっと家にいるなんて、息が詰まる。
簡単な食事をすまして戻ってくると、表で新品のパワーサイクルがエンジンを鳴らして待っていた。
「超カッコイイよな!エンジンも快調!一応、バランスとか見てるから、ヘルメット選んでおいでよ。」
暑いから、ジェットタイプで、アゴのガードがついたタイプのを選んだ、もう1個は・・・
一瞬ミカエラの顔が浮かんで、なぜかフルフェイスを選んでしまった。
荷物を乗せるから、フックのついたゴム、ドリンクホルダーになる筒も買うことにした。
「そのドリンクホルダーは、よく売れてるよ。兄ちゃん、そのカッコで乗ってくつもり?」
眉間にシワを寄せると、顔のパーツが全部寄る。
ちなみに僕はTシャツと短パンです。
「俺が見ている間だけでもいいから、これ付けてかなきゃダメだ。」
教習所でつけるような、ヒジ当てとヒザ当てを持ってきた。
「安全第一、これもサービスだから。」
さっそく封を開けて手渡された。
「兄ちゃんの、母ちゃんに、俺が怒られるだろ?」
僕は素直に従うしかなかった。