3年目は門番で
お試し、短編。
俺と相方が街の入り口に立っていると、目の前のそこそこ整備された街道から人が来た。
「お、来たな」
整備されたといっても、日本にあるような道路じゃないし、アスファルトでも砂利道でもない。
土と石とで出来た質素な地べただ。
幅は5mくらいで、固さも程ほどだ。
街が近くなると道幅も広がり、ぬかるみが無い点は良いところだ。
歩いてきた人は、相方が対応していた。
チラッと見てみる。
俺と同じ格好をする相方は、支給品の槍を肩に掛けていた。男が説明を受けている。
疲れてふらふらな状態から、遠くから来たのだろうと思わせる。
大きな袋を担いだ男は、荷物を足元に降ろしていた。
旅人か、もしくは商人かもしれない。
若干の話し声と、カードのような何かを見せて、荷物を担ぎ直して、俺たちに頭を下げて、再び歩きだした。
俺と相方は、会釈を返しつつ、街中に消えていく男を見送った。
「今ので、48人だ」
男が見えなくなったら、相方がニヤリと、視線を向けていた。
俺はため息を吐く。
「いや、まだわからんよ? 今から3人組のパーティーが来れば、俺の逆転勝ちだ」
「抜かせ、来たとしてもお前の方に行ったらな?」
相方は槍を肩でトントンと弾いていた。
そんな相方に、俺も視線を返す。そしてお互い鼻で笑った。
再び街の外に目を向ける。
「おい、いいな? 街の鐘が鳴るまでだぞ?鳴り終わったらじゃないぞ?」
こちらを見ずに念を押す相方。
街の鐘とは、街にある時間後とになる大鐘楼のことだ。
街に住むものは、それによって時間を知るのだ。
分かっていることを聞いてくる相方に、苦笑いをする。
「分かってるって」
俺と相方は、街の入り口で仕事をしている。
その仕事は門番だ。
門番の役目は、街に入って来ようとする人々の身元の確認と、この世界に溢れる魔物が街に入らないようにするためだ。
ただ、街の入り口に立っているだけの簡単な仕事と聞いて、俺は即決した。
元々は、冒険者として生計を建てていた俺だが、ちょっとした出来事で嫌気が射して、こうして定職につこうと思ったのだ。
突発的な稼ぎより、少ないが安定した稼ぎを俺は選んだ。
冒険者としてやっていくと、嫌なことばかりだったというのもある。
特に報酬や人間関係とか、…というかそれしかない。
せっかく異世界に転移できたのに、異世界に夢を見すぎたんだな。
転移してきた時は、テンプレ並みに慌てたし、異世界と知ってからはテンションもあがったな。
昔の事を思い出してしんみりとしてしまった。
「昔の俺は若かったな」
「はぁ?お前20じゃね?」
反対の門の付け根に立つ相方が、俺の台詞に、わけが分からないという顔を向けていた
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「おし、もうすぐテラルが沈む!人も魔物もこない!!」
「定時前にテンション上がるバイトかよ…」
「ばいとぉ? なんだそれは?」
「気にすんな」
しばらくして、日が沈んできた。
この世界でも太陽が地平線に沈む様は美しい。
ここでは、あれが太陽と言われていなんだが、俺の中では同じだ。
そわそわし出した相方が、落ち着きない。
「やべぇ、初勝利か!?夕飯ゴチになるぜぇぇ」
「へいへい…」
そう、いま俺と相方は、俺らの勤務時間である朝日が昇ってから、沈むまでの時間に、一体何人の人々が行ったり来たりするのかを賭けているのである。
俺らが担当する東門は、沢山の人が来るわけではない。
街の立地からみて、一番人が来るのが北門である。
北側の街道を真っ直ぐいくと大きな港町があるためだ。
次点で、南門。
南門は、主に冒険者が多く行き来する。
南門の先には深い森が広がっているのだ。
探検に行ったり、依頼に出掛けるのだろう。
そうして西門と東門だ。
この二つの門は余り人が行き来しない。
理由は簡単で、どちらも目ぼしいモノは何もないからだ
それで賭けの方は……
相方は48人。俺が51人だ。
そしていままでの結果は、44勝0敗16引き分けだ。
俺は全勝である。
『このまま』行けばだが――おや?
街道を走る人影に気づいた。
「いやいや、鐘が鳴るまでだからね…」
勝った気でいる相方に、俺たちの前に真っ直ぐ伸びる道を指し示す。
俺が指した方向を見ると、相方が肩をがっくり落とした。
そこには、男3人が走ってきている。
もうそろそろ日も沈む、日が沈むと、夜行性の魔物達が外をうろうろしだすから、危険である。
そこで街では、門を閉めてしまう。
そうすることで、街中に魔物が入ることを拒否できのだ。
しかし、門を閉めても、門番には夜勤があるのだが、それも仕事だ。
安定した収入は大事だ。
関係ないが、お給金は週の終わりに随時貰う。
未だに鐘は鳴らないようだ。
「まじかよ、しかも常連か…望み薄だわ」
段々と近づく男3人に、悟ったような顔をする相方。
「いや、わかんないよ?俺らのどっちに声掛けても不思議じゃないだろう? 」
魔物も冒険者も、街にいるモブのような俺たちの事など、気にはするまい。
ゲームで言うところの固定文を喋るだけの存在みたいだろう。
『ここはリグナルの街です、ようこそ!』
『ああ、それで―』
『ここはリグナルの街です、ようそこ!』
という風にはならないからな。
「間に合ったぁ!?」
「まだ閉まってない!!おし!」
「はぁはぁ」
考え事をしていると、3人の冒険者が、息を切らして俺の前まで来た。
どうやら、今日の夕食は相方の奢りのようだ。ゴチになります!!
「じゃ、証明書または紹介状、それかギルドカードを見せてくれ。あ、どっちも持ってない場合は銀貨2枚ね? 持っている? ……おし、おっけー」
「あざっすー」
「じゃあね、つかれたぁ」
「飯!」
3人の冒険者はギルドに所属していたようだ。
確認できたので、門を通した。
彼らが門を潜った後に、鐘が鳴った。
鳴った回数は6回。
夕刻故に戻ってきた冒険者や、今日の勤務が終わった連中で、街中が賑わう時間帯だ。
「お前ら、交代だ……どのくらい来た?」
「ういーす」
「51人だな、魔物は無し、今日も平和だ」
俺がそう言うと交代要員が笑った。
「51人とか、笑える。南門だと今日300人らしいぞ?」
「うへっ、まじかよ」
「まぁ、のんびりやってくださいよ」
「はっはっは、敵は魔物より眠気だな!」
交代要員に手を振った。
簡単に引き継ぎを済まし、街に入っていく。
「おぉい!早く行くぞ!」
相方がもう鎧を脱ぎ、ラフな格好で俺を急かしてくる。
あいつ、なんでもう着替えてんだよ!?
「はやっ!?」
「腹へってんだ、仕方ない」
「いいけど、店決めたのかよ?」
駆け足をその場でして、俺が着替える周りをぐるぐると走る。
…………鬱陶しい!!
「ばっ、いつもの所だよ!」
着替え終わった俺は、相方の後ろをついていく。
「へいへい、約束は守れよ?」
「うっ」
たじろぐ相方がシュールで笑ってしまった。
今日も一日が平和に終わる。
異世界に来てから3年目だ。
やはり、安定した生活が一番だと思った。
「割り勘にしね?」
「ばか、しねーよ」
「この強運野郎!!」
ふたりして笑いながら、街に呑まれていく。
ありがとうございます。