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首都へ

ラーキスの背に鞍が乗せられているのを見た咲希は、驚いてその青い瞳を見た。ラーキスは言った。

『少しでも乗りやすいようにとの。お前は慣れておらぬだろう。バルクまではかなりある。鞍があれば楽かと思うてな。』

咲希は、普通にグーラを見たのなら何とも思わなかっただろうことだったが、人型をとって話しているのを見ているので、そんなものを乗せられてと、気の毒に思った。

「ごめんなさい…こんなものを乗せて。私、迷惑ばかりを掛けているわ。」

すると、ラーキスは驚いたように咲希を見た。

『迷惑?そんな風に言う人などおらなんだがな。未だ我らを乗り物だの魔物だのと粗末に扱う人が居るのに。とにかくは、乗れ。父上達に追いつかねばならぬ。』

先に飛び立ったマーキス達のことを言っているのだ。咲希は、慌ててラーキスによじ登った。

「ごめんなさい。よろしく。」

ラーキスは、頷いて飛び上がった。

咲希は、鞍についている持ち手にしっかりと掴まって、空へと飛び立った。


ラーキスはすぐにマーキス達の集団に追いついた。舞が言った通り、上空は風が冷たい。咲希は急いで持たされたポーチから、小さな人形のコートのようなものを出して、震える体を押さえて呪を唱えた。すぐに大きくなったそのコートを着ると、襟元が毛皮になっていて暖かい。ホッとしていると、ラーキスが気になった。そういえば、グーラは毛が細くて短くて毛がないのかというほどだ。寒くないのだろうか。

「ラーキス、寒くない?服着てないでしょう。」

すると、ラーキスはちらと咲希を振り返った。

『我らは寒さに強い。ビロードのようだと母上は言うておったが、細かく毛があるのでな。お前達の方が、不便よな。常服を着ておらねばならぬのだから。』

咲希は、確かにそうかもとは思ったが、言った。

「でも、いろいろ着飾れるからいいじゃない?確かに寒い時にはつらいけど。」

咲希は、流行だからとミニスカートを履いていたのに後悔していた。一応ブーツだが、太ももが丸出しで寒いのだ。

ラーキスは、ふふんと鼻で笑った。

『足が震えておるぞ。』

咲希は、見透かされていると、赤くなって言った。

「うるさい!」

すると、マーキスが振り返った。

『こらラーキス。そのようにからかうでないわ。確かにお前の母も、前は寒い中でも短い服であったがな。』

咲希は、それを聞いて、舞もそうだったんだと思った。今は自分の母親より少し若い感じで、裾の長い服を着ていたが、きっと少し前まではこんな服を着ていたのだろう。

ラーキスが、呟くように言った。

『母上は、今でもサキのような服を着ておる時があるではないか。』

咲希が驚いているのには気付かず、グーラの集団は首都バルク上空へと到着しようとしていた。


『見よ。』マーキスが、険しい声を出した。『あれだ。』

咲希が、その声に前方を見ると、遥か向こうの海の上に、何本もの稲妻が走っているのが見えた。それも、尋常でない数だ。見える限りの横方向に、横一列に並んでいるように見えた。

「何…?あれは。自然現象?」

尻の下のラーキスが答えた。

『いいや、違うな。空がきしんでおるような…何かの力が、あれを起こしておるようだ。』

マーキスは、頷いた。

『あの空の様子は人では気取れまい。急ぐぞ。』

マーキスが、先に降りて行く。

他のグーラ達もそれに続き、ラーキスもそれに従った。咲希は、海の方の空を見上げた…すると、そこに大きな手のようなものが見えた。

「きゃ…!」

咲希は、思わず叫んだ。ラーキスが、驚いてすぐに咲希を見る。

『咲希?!』

咲希は、片手でしっかりと鞍を掴んだまま、もう片手で空を指した。

「ラーキス、手…!大きな手が…!」

ラーキスは、慌てて前を向いた。しかし、それらしきものはない。

『どこぞ?!何も見えぬぞ。』

しかし、咲希は首を振った。

「見えるわよ!ほら、稲妻の上辺り!」

ラーキスは目を凝らした。しかし、咲希の言う手のようなものは見えなかった。

『オレには何も見えぬが…』

前を行くマーキスが、振り返った。

『とにかく降りる。それからぞ。』

いつの間にか側に見えた王城の庭に、グーラ達は次々に降りて行った。咲希はまだ震える体を抑えられず、降り立ってもラーキスから降りられない。すると、金髪に薄い青色の瞳の甲冑姿の男が歩み寄って来て、手を差し出した。

「降りられるか?」

咲希は、ハッとしてまじまじとその男を見た。そして、何とか頷いた。

「だ、大丈夫です。」

男の手を借りて綺麗に刈り込まれた芝の上に降りると、ラーキスも人型に戻り、手に鞍を持って顔をしかめた。

「サキ、どうしたのだ。」

すると、マーキスが近付いて来た。

「シュレー、上空から海の様子は見た。何か分かったのか。」

シュレーは、マーキスを見た。

「まだ何も。こちらへ来ていたアトラスに協力してもらってかなり近くで見たが、パワーベルトは不安定なままだ。術者を集めて命の気で封印の術を一斉にかける事になったのだが、近くまで行く必要があってな。皆に来てもらった。グーラの谷の方にも今、使いをやって何体か来てもらっている。このままでは、ディンダシェリア全体がパワーベルトに飲み込まれるかもしれないと、リーディス陛下もリーマサンデの王も危惧している。」

マーキスは眉を寄せた。

「それは…あのパワーベルト全てを封印するには、かなりの力が必要ぞ。」

シュレーも、険しい顔をした。

「オレも、それが成功するとは思っていない。」シュレーの言葉に、マーキスはますます眉を寄せた。シュレーは続けた。「だが、何かしなければならないだろう。」

ラーキスが言った。

「しかしシュレー、真実役に立つ対策を考えなくては。あの様子では、いくらも時間は残されていまい。」

シュレーは、険しい顔を崩さずに頷いた。

「分かっている。だが、あの力はあまりにも大きい。今まで、あのパワーベルトを破ろうと皆が研究していたが、触れることすら出来ずに来た。それが大暴れしてるというのに、誰があれを鎮められるというんだ?とにかく、出来ることをやるしかないだろう。」

マーキスが、シュレーに一歩近付いた。

「ならば、急がねば。術者は揃っておるのか?」

シュレーは、頷いた。

「僅かな時間に集められるだけ集めて置いた。海岸に待機させてある。行こう。」

一斉にグーラ達が姿を変える中、咲希は急いで言った。

「あの!あの大きな手は?!」

シュレーが、振り返った。

「手?」

グーラになったラーキスが言った。

『先ほどから、あのパワーベルトの上の空に、大きな手が見えると言って聞かぬのだ。』

シュレーは、咲希に向き直った。

「君は何者だ?」

それには、マーキスが答えた。

『舞と同じ、異世界から迷い込んだ女ぞ。事故でこちらへ来てしまったので帰りたいと申すので、帰りに研究所へ連れて参ろうと思うておったのだ。』

シュレーは、少し考えた。

「…オレにも、手など見えない。だが、君には見えるのだな?」

咲希は、頷いた。

「はい。とても大きな…。」

咲希は、思い出して身を震わせた。シュレーは、その様子を見て、言った。

「よし。今は僅かな情報でも欲しい。君も一緒に。」

ラーキスが、割り込んだ。

『サキはこちらへ来たばかりで、何も知らぬ!危険な場所には連れて参れぬ。』

シュレーは、咲希をラーキスの背へと乗せた。

「だったら、お前が安全な場所に居たらいいじゃないか。とにかく、海岸へ。術者達の話を聞かねば。」

そう言って咲希が無事にラーキスの背に収まったのを見てから、シュレーはマーキスの背に乗った。

「では、皆でラクルスへ!」

ためらうラーキスには構わず、グーラ達は一斉に飛び上がり、港町ラクルスへと向かったのだった。

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