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ダッカ

咲希がためらいながらもラーキスの背から降りると、ラーキスは見る間に人の形に戻った。良く見ると、ラーキスは黒髪にブルーグレイの瞳の、それは端整な顔をしていた。咲希がそれに気付いて急に恥ずかしくなって下を向いていると、ラーキスは言った。

「ここが、ダッカ。人の里だ。」

咲希は、ひたすら頷いた。ラーキスが降り立ったのに気付いた里の人たちが、わらわらと集まって来ている。その中の一人が、ラーキスに駆け寄って来て言った。

「お兄様!」

ラーキスは、その10代後半ぐらいの女の子に向き合った。

「マナ。父上と、母上は居るか。聞きたいことがあってな。」

マナと呼ばれたその女の子は、ブルーグレイの髪に鳶色の瞳で、とても可愛らしかった。咲希がじっとマナとラーキスを見ていると、マナは言った。

「お父様は、出掛ける用が出来たとおっしゃってご準備を…そちらは、誰?」

ラーキスは、咲希を振り返った。

「クシア湖の近くで迷うておったのを連れて参った。」

咲希は、慌てて頭を下げた。

「咲希といいます。」

マナは、微笑んだ。

「マナです。でも、どうしてそんな所に?旅の装備もしていないようですけど。」

ラーキスが、頷いた。

「母上と同じ、異世界から来たようだ。気が付くとあそこに居たらしく、帰る方法を探しているらしい。なので、母上なら知っておられるかと思うてな。」

マナは、頷いて急いで歩き出した。

「こちらへ。お父様にも聞いておいた方が良いでしょう?キールも一緒に出掛けると言っておりましたの。」

ラーキスは、一緒に歩きながら言った。

「そんなに急に、一体どこへ?」

マナは答えた。

「首都からシュレー将軍に呼ばれたと言っておりましたわ。詳しいことは、お父様にお聞きになって。」

マーキスは、頷いて黙った。咲希は、何が何だか分からないまま、二人について歩いて行ったのだった。


少し歩くと、ログハウスのような形の家の前に到着した。そこには、ラーキスに良く似た風貌の、ブルーグレイの髪の男と金色の瞳の男、それに咲希には見慣れたような姿の女が立って、話していた。ラーキスが、急いで歩み寄って言った。

「父上、キール。首都へ向かわれると聞いたのですが。」

ブルーグレイの髪の男が答えた。

「シュレーから呼ばれての。西のパワーベルトが荒れ狂っておるようで、慣れたグーラが要るのだ。我ら人を乗せることには慣れておるゆえ。」と、咲希に目を留めた。「誰だ?」

ラーキスは、咲希に手招きした。咲希は、慌ててラーキスに並んだ。

「クシア湖近くで見つけました。どうやら、母上と同じ異世界から来たらしく、帰り方を知りたいのだそうです。」

すると、横の女が言った。

「まあ、あっちから来たの?私もそうなのよ。私は、舞。こちらは夫のマーキス。そして、そちらがキールよ。どちらもグーラ…と言って、分かるかしら?」

咲希は、何度も頷いた。

「あの、ラーキスさんにこちらへ乗せて来てもらって、知りました。魔物、ですか?」

舞は、微笑んで頷いた。

「そうね。そう呼ばれる種族。でも、今はこうして人型になる方法を知って、人と共に暮らしているわ。でも、帰り方…そうね…」と、マーキスを見た。「今は、行き来できるようになったのかしら…。」

マーキスは、息をついた。

「出来ると言うて、まだ不安定であろうの。オレも何度かあの研究所へ行って話を聞いておるが、自由に行き来とまでは行かぬようだ。」

咲希は、頷いた。

「事故のようでした。私は、その機械に巻き込まれて…気が付くと、あの場所に居た。どうしてこんなことになったのか、私には分からなくて。」

舞は、マーキスを顔と見合わせた。

「では、偶然来てしまったのね。怖かったでしょう。」と、マーキスに言った。「とにかく、研究所へ連れて行ってあげれば、帰り方も分かるのではないかしら。マーキス、送ってあげてくれない?」

マーキスは、困ったように眉を寄せた。

「一刻も早くとシュレーから言われておるからの。パワーベルトの様子は、予断を許さぬ状態らしい。一頭でも多くのグーラに来てもらいたいと言われておるのだ。」と、咲希を見た。「しかし、放って置くことも出来ぬな。一時バルクへ連れて参って、帰りにあの研究所へ寄ろう。ならば良いか。」

咲希は、授業も気になったが、迷惑を掛けるのに贅沢は言っていられない。なので、頭を下げた。

「はい。よろしくお願いします。」

マーキスは、頷いた。そして、ラーキスを見た。

「お前も来るのだ。ここに三体のグーラだけを残して皆参ることになっている。」

ラーキスは、頭を下げた。

「はい、父上。」

舞が、慌てて咲希を腕を引っ張った。

「じゃあ、服を。そのままじゃ上空は気温が低いから。簡単な術を教えるわ。その荷物も、それで小さくして持ち運べるから、きっと便利よ。」

咲希は、自分の重いカバンを見た。小さくするって…。

すると、マーキスが眉を寄せた。

「急げ。夕刻までにはあちらへ着きたいのだ。」

舞は頷くと、咲希を引っ張って家の中へと入ったのだった。


舞は、古いウェストポーチを出して来て、言った。

「これは、私がこちらへ来てしまってから、旅をする間持っていた物なの。とても便利だから、あなたにもこれと同じカバンをあげるわ。マナのためにと作ったものだったけど。さあ、腰に巻いて。」

咲希は、自分のカバンを下ろすと、それを腰に巻いた。結構小さいが、これが便利なの?

しかし、舞は満足げに頷いた。

「呪文を教えるから、それを唱えて。そうすると、物が小さくなるわ。」

咲希は、顔をしかめた。自分には、魔法能力などない。なのに、そんなことが出来るのだろうか。

しかし、舞に言われるまま唱えると、あの大きなカバンが消しゴムほどの大きさへと変化した。咲希は仰天して、自分の手を見た…ここから、何か出た感じ。

舞は、笑って手を叩いた。

「そうそう!上手じゃない。元に戻す時は、こう。」舞が呪を唱えると、カバンはまたもとの大きさに戻った。「ね?簡単でしょう。」

咲希は、コクコクと頷いた。ここでは、自分でも魔法が使えるのだ…本当に、異世界なのだ。

戸惑う咲希には構わず、舞は自分の古いポーチから小さな爪楊枝のような物を出した。そして、言った。

「これはね、私が魔物と戦う時に使っていた杖よ。結構役に立つの…魔法を放つ他に、これで直接叩いたりしても丈夫だから欠けもしなかった。」と、大きくして見せた。「知らないだろうけど、最高品質のディアムって金属で出来てて、軽くて強いわ。シュート!」

舞がその杖をトンと床について言った。すると、丸く飾りのようだった先が、すっと変化して槍のような鋭い形になった。

「これは、直接攻撃用。スタンド!」

舞がまた唱えると、先はすっと丸い飾りに戻った。咲希は、呆然とそれを見た…凄い。金属があんなに変幻自在だなんて。

舞は、それを縮めて咲希へ渡した。

「何があるか分からないから。研究所に着くまで、これを持っていて。帰りに、研究所に着いたら、マーキスに渡してくれたらいいわ。首都の近くでも街道には、今も魔物は出るの。魔法の呪文は分からなくても、これで張り倒しても結構倒せるものだし。」と、窓から外をうかがった。「ああ、マーキスがイライラしているわ。さ、もう行って。最初は怖いかも知れないけれど、そのうちにこちらの世界のことも分かって、慣れてくるわ。私がそうだったから…今では、こちらで結婚して幸せしているぐらい。」

咲希は、慰めてくれているのだと、舞に微笑み掛けた。

「何から何まで、ありがとうございます。大丈夫です。」

舞は、微笑み返して頷いた。咲希は、舞の笑顔に母を思い出して、明るい気持ちになって、家を出たのだった。

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