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アーシャンテンダ~The World Of ERSHUNTENDA~  作者:
アーシャンテンダ大陸
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動向

王城へと戻ったシュレーは、ショーンが走らなくても軽く浮いて飛ぶことが出来るということを思い出していた。

簡単に追いつくだろうと思っていたショーンに、結局全く追いつけず、その背中すら見ることが出来ずに、気が付くと王城に着いていたのだ。

脇の衛兵に軽く会釈をすると、衛兵達も知っているようで軽く会釈を返して、脇の小さな戸を開いて通してくれた。どうやら、普段から正面の大きな扉を開けることはあまりないようだ。通用門を通しているのだ。

中庭を通って入り口から中へと入って行くと、シュレーが戻ったのをどうやって知ったのか、レンが早足に大階段を降りて来ていた。

「レン?どうした、何かあったか?」

レンは、少し息を乱しながら頷いた。

「部屋の窓から、お前が帰って来るのが見えたからな。どこへ行っていたんだ、昨夜も帰って来ないで。街からは出られないはずだろう?」

シュレーは、頷いた。

「出てないぞ。昔の仲間がパワーベルトに飲まれて行方不明になっていたんだが、その男に偶然会ったんだ。それで、こっちのことをいくらか教えてもらっていた。久しぶりだったし、話が弾んでな。ショーンも一緒だったんだ。戻ってるだろう?」

レンは、首を振った。

「いや、ショーンのことは知らない。オレは今見たらお前が歩いて来るのが見えたから、急いで降りて来たんだ。話があって…みんな戻って来ないし、ほとほと困ってたんだよ。」

レンは、シュレーを今入って来たばかりの扉へと押しやった。シュレーは、いきなり思ってもない方向へ押されたので慌てながら言った。

「おいおい、どこへ行く気だよ?」

レンは、ぐいぐいとシュレーの背を押しながら言った。

「外だ外!庭でいい、いや、こっちの庭はまずいな。あっちの庭へ!」

シュレーは、何のことか分からないままレンに押されて言われるままに裏庭の方へと歩いて行ったのだった。


裏庭は、落ち着いた感じで表の華やかさとはまた違った美しさがあった。シュレーが珍しげに回りを見ていると、レンが言った。

「その…マーラのことなんだが。」

シュレーは、忘れていたと、レンを振り返った。

「ああ、そうだったな。それで、誤解は解けたか?」

明るい表情で聞くシュレーに、レンは視線を落とした。

「それが…こじれてしもうた。」

シュレーは、驚いてレンを見た。

「え?こじれる?あの状況で何がこじれるんだ。」

レンは、深刻な表情で顔を上げた。

「オレは、父親への愛情だと思っていたので、みんなにもそんな風に言えばいいと思っていた。だからマーラにも、そんな感じで気にしないでいいと言った。だが…違うと言われた。」

シュレーは、少し眉を寄せた。

「それは…肉親への愛情じゃないと?」

レンは、頷いた。

「ショーンは間違っていないと。」そして、シュレーを必死の様子で見た。「オレが娘としてしか見れないのは知っていると言って、これ以上このことは話すなと言われたんだ。だが、こんな困難な旅に出てるってのに、こんなに感情的に軋轢を抱えたままなどいいはずはないだろう。だがオレは…ずっとマーラの保護者だと思って来たし…今更、どうしたらいいのか。」

シュレーは、困ったように肩を落とした。

「困ったな。オレもこういうことにはからっきしなんだよ。だが、お前にその気がないならマーラが言うように、このことには触れないで居るのが一番だろう。忘れろ。無理だろうけど。」

レンは、シュレーを恨めしげに見た。

「…他人事だと思って。オレだって、別に嫌なわけじゃあないが、だが子供だった頃から世話してたんだぞ?いくら大人になったって言っても、いきなりそんな風に見れるもんじゃない。だが、このままでいていいものか。オレが普通に接しようとしても、二人じゃマーラも話さないし、一人で街の探索に出掛けたりして、昨日はやっと過ごしたんだ。スタンは報告書を作るとか言って部屋に篭もるし、お前らは帰って来ないし、サルーはまだ地下であのままだし、どれほどオレが困っていたか。」

シュレーは、顔色を変えた。

「サルーは?まだ、意識を失ったままなのか。」

レンは、渋い顔で頷いた。

「シャデル陛下は、しばらくは変異したショックもあって目覚めないだろうと。」

シュレーは、城の方へ足を向けた。

「…様子を見て来るか。気が付いて地下牢だったら、サルーもつらいだろうし…。」

レンは、暗い顔をした。

「どっちにしてもつらいだろう。あの姿じゃ…国へ帰っても、どうにもならん。オレなら、来て欲しくないけどな。昔の姿を知っているお前が、同情気味に自分を見る目さえつらいからな。」

シュレーは、下を向いた。もし自分なら、殺してくれたら良かったのにと思うことだろう。だが、あの瞬間、とても命を奪えなかった。自分は、間違っていたのだろうか…。


その頃、シャデルは王城へと戻って来ていた。

出掛けていたことも、恐らくは城の大部分の者が知らないだろう。だが、バークがそれをじっと王の間で待っていた。シャデルは、いつものように王の間の窓からスイっと飛んで入って来て、床へと着地する。それを見たバークは、驚く様子もなくそちらへ向かって膝を付いた。

「陛下。いかがでございましたでしょうか。」

シャデルは、側の椅子へとどっかりと座ると、言った。

「静かなものよ。あの折ミラ・ボンテへ使者達を捕らえに参った後、すっかりナリを潜めておって表へ出ておらぬ。ラウタートの気配もない…あれらがミラ・ボンテ襲撃に出て来なんだのは分からぬ。どうしても奪いたければ、あれら無しなど考えられぬだろう。我でもラウタートの群れの襲撃では手こずるのは分かっておるはずなのに。」

バークは、膝をついたままシャデルを見上げて言った。

「では、真実あれらを捕らえる気などなかったと?」

シャデルは、険しい顔でバークを見た。

「恐らくはな。我らの気を何かから反らすために、襲撃させたとしか思えぬ。あちらへはいくら我でも行けぬ…山脈を越えたらすぐにラウタートが襲って来る。アントンが何を考えておるのか、我にも全くなのだ。」

バークは、眉を寄せた。

「…あちらの内情を探らせようと送った兵士も、皆山脈を越えた辺りで消息を絶ちましてございます。海からも侵入不可能で。あちらの様子は、全く探れぬ状態です。」

シャデルは、息をついた。

「いったい、何を隠そうとした。あれらが使者をあちらへ送ったことは、我も知っておる。それ以上に、何を隠そうと言うのだ。」

バークは、じっと黙っている。

シャデルは、立ち上がって窓の外に遠く見える海を見つめた。何が起ころうとしているのだ…。


一方、ショーンは城の図書室へと案内され、そこで魔術のことに関するものを読み漁っていた。

こちらの術は、簡潔なものでも、あちらで使っていたのと同じような効果があるものがたくさんあった。どうやら、一般人が普通に生活するうえで使う魔術というものは、こちらの命の気の濃さから言って簡単に行なわれるものらしい。

例えば、調理に使う着火の術にしても、こちらでは指一本で簡単に発動した。あちらでは、少なからず呪文を使い、気合を入れて着火せねば火は起こらないのに、こちらではあっさり起こるのだ。ショーンがあちらの調子でこっちで着火の術を使おうものなら、かなりの炎が上がって大変なことになるだろう。なのでこちらの術は、あちらではあまり効果を発揮しないと思われた。

「…だったら、こっちであっちの術を使うってのが一番効果的か…。」

しかし、リリアナはあちらに居る。現状、こちらの二つの国が友好関係を築かなければ、とても簡単に行き来など出来そうになかった。あちらへ戻って、リリアナを連れてこちらへ戻るということが、ディンダシェリアの中で移動するように簡単には行かないのだ。

ショーンが、考えながら他の本をとあっちこっち見ていると、奥の本棚に、魔術の歴史の本を見つけた。その分厚い背表紙を興味深げに見たショーンは、それを両手で掴んで引っ張り出した。かなりの重量で、しかも重い。滅多に誰も見ないのだろう、その本の上には埃が積もっていた。

「いい感じじゃねぇか。こういうのに掘り出し物の魔術が書いてあったりするんだよなー。」

ショーンは一人そんなことを言いながら、側の台へとその本を置いた。そうして、何気なく本を引き出して空いたスペースの方へ目をやると、奥にまだ棚があり、そこにまた、数冊の本が並んでいるのが目についた。

「…あれ?収納スペースが無かったのか?」

ショーンは、そこを覗き込んだ。すると、五冊の本があるのが見えた。他は無いようだ。

…まるで隠すようじゃねぇか。

ショーンは、手を突っ込んでその指先に触れた本を引っ張り出した。すると、明らかに誰も触れていないのか、あっちこっちに埃が積もり、元の本の色が見えないほど真っ白になっていた。ショーンは舞い上がる埃に吸い込まないようにと顔をしかめながら、その表紙の埃を指で拭った。そこには、古代の文字が書かれてあった。

「遺跡で見たのと同じ時代の物か。ええっと…『訪神見聞録1』。なんだ、どういうことだ?神を訪ねたってことか?神殿か何かの観光記録かな。」と、奥を覗いた。「そうか、第5巻まであるってことか。誰も読めないから、奥へ突っ込まれてたのかね。」

だが、自分には古代語が読めた。ショーンが、先にこっちの歴史のヤツを読もう、と思っていると、スタンの声がした。

「ショーン殿?居るんですか!そろそろ、食事の時間だと呼んでるんですがね!」

そういえば腹が減っている。ショーンは、急いで答えた。

「ああ、すぐに行く!」

ショーンは、また午後から来ようと歴史書をその棚へと苦労して戻し、そうして振り返って、ハッとした。奥の棚に戻しそこなった訪神見聞録が、まだそこにあったのだ。

「…まあ、いっか。どうせ読むんだし、後で戻そう。」

ショーンは、それを自分の腰にある小さなカバンに突っ込んで、そうして図書館を後にしたのだった。

次の更新は、一週間後の12月7日になります。他の小説と頭の中でごっちゃになって、こっちの構成が頭の中でまとまらないので、しばらく毎日ではなく不定期更新になります。毎回、こうして次の更新日はお知らせします。

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