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アーシャンテンダ~The World Of ERSHUNTENDA~  作者:
アーシャンテンダ大陸
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裏口

外へ出ると、兵士達が不思議そうな顔をして、メレグロスを見た。

「将軍?」

メレグロスは、手を振った。

「ああ、周辺を調べるだけだ。案じるでない。」

咲希は、どうして他の入り口を使うと言わないのかと思ったが、黙っていた。ラーキスが、咲希を促した。

「して、どちらぞ?主でないと分からぬ。」

咲希は頷くと、歩き出した。

「こっちよ。上から見た時、こちら側が光っているのが見えたの。」

皆が頷いて、咲希に従って歩いて行く。兵士が見えなくなった時、ラーキスが小さな声で咲希に言った。

「もしも、他に出入り口があったら、それを他の者達に知られてはならぬ。女神の石を、奪おうという輩が出ないとも限らないのだ。巫女の血筋以外は、なのでここへは入れないのだからの。」

咲希は、ラーキスを見上げた。

「でも、入れるのならきっととっくに入っていると思うの…私が見える入り口は、きっと巫女の血筋が居ないと入れないのだと思うわ。」

メレグロスが、顔をしかめた。

「ならば我らは通れないかもしれぬの。」

咲希は、首をかしげた。

「いえ…大丈夫じゃないかしら。」咲希は、額の横を押さえた。「どうしてと聞かれてもよく分からないのだけれど。大丈夫な気がするの。」

克樹とラーキス、メレグロスは顔を見合わせた。だが、アーティアス達は気にも留めずにすっすと咲希について歩いて行く。どういうわけだか、この三人は咲希を絶対的に信頼しているようだ。リリアナは、無表情にただ黙ってついて来ていた。

咲希は、じっと自分の何かが命じるままに、神殿の裏側へと歩いて行き、そうして光の出所を探った。すると、足元に枯れ葉や土が普通に積もっていて地面に見える場所から、それが出ているのが分かった。

「ここに…何だか有りそうなんだけど。」

メレグロスが、怪訝な顔をしたが、そこへ歩いて行って、足でさっさと下を擦った。

すると、そこには金属の重そうな二枚板が並んでいた。二枚の間には、取っ手のような丸い輪が付いている。

「扉だ。」

克樹が、珍しく淡々と言った。メレグロスは頷いて、その取っ手に手を掛ける。そうして、片方ずつ引っ張って上へとバタンと開いた。

中は真っ暗で、下へと階段が並んでいるようだった。

「…降りてみるか?」

メレグロスが、皆を見上げて言う。皆が、黙って頷いた。

「え、ちょっと待って…」

咲希が言うより先に、メレグロスがその淵に足を掛けた瞬間、バシッという音と白い光の閃光が走って、後ろ向きに弾き飛ばされた。

「うおっ?!」

メレグロスは必死に受身を取って転がり、立ち上がった。大きな体でかなり素早いのに驚きながら、咲希は言った。

「駄目よ!巫女が居ないと駄目って言ったじゃない!」

メレグロスは、体についた土を払いながら戻って来た。

「では、どうしたら良い。結構な衝撃だったぞ?リリアナであったら危なかったと思うほどぞ。」

咲希は進み出て、そーっと足をその階段の方へと進めてみた。みんなが、固唾を飲んでそれを見守っている。だが、特に何の衝撃も異常もなく、咲希の足は階段の上へと移動した。

「…私は通れるわ。」

「であろうの。」メレグロスは、少しふて腐れたような顔をしながら、また足を進めた。「また弾かれるかもな。」

しかし、メレグロスの足はすんなりと、今度は階段の上に移った。メレグロスは、驚いたように自分の足を見た。

「おお!通ったぞ。」

ラーキスが、アーティアス達を振り返った。

「では、メレグロスがサキと降りて、オレはアーティアス殿と。克樹もサインが見えるのだから大丈夫だろうから、クラウス殿かエクラス、ダニエラと一緒に。」

ダニエラは、首を振った。

「私は、ここに残るわ。ぞろぞろ行っても仕方ないでしょう。誰かがここに近付かないように、ここで見張ってる。」

リリアナが、側のエクラスの袖を掴んだ。

「じゃあ、私はこっち。下まで結構ありそうだから、運んでってちょうだい。あなた、力強いでしょう。」

エクラスは、片眉を上げた。だが、何も言わずにリリアナを抱き上げて、アーティアスに会釈してから先に階段へと進む。すると、やはり何の抵抗もなくすんなりと進んで行った。

咲希とメレグロスは、もう降りて行っている。それを追って行こうとしていると、リリアナが手を開いて掲げた。すると、その手から光が広がって、まるでトーチのようになった。

「足元気をつけてよ。あなた、見えてないでしょう。私には見えるけど。」

確かに、こうするとよく見える。

エクラスは何も言わずに頷いて、慎重に足を進めた。ラーキスが、アーティアスに頷き掛けた。

「では、こちらへ。」

アーティアスは、黙って頷いてラーキスに従った。そうして、その後に克樹とクラウスも続き、全員がそこへと吸い込まれるように入って行った。

ダニエラは、それを見送ってそこに立っていた。


咲希は、先頭を歩きながら、光が無いのに足元がはっきり見えることに驚いていた。メレグロスが、咲希の後をぴったりついて来ているのが分かる。リリアナが放っている光がこちらにも漏れて来ていて、それでメレグロスには辛うじて足元が見えていた。

そうしていると、階段が終わり、緩い下り坂になっているのが見えた。

「ここからは、坂だわ。」

咲希が言う。メレグロスは、頷いた。

「オレは光の魔法を持たぬので、リリアナの光で何とか見えておる。まだ先はありそうか?」

咲希は、じっと先へと目を凝らした。

「…いいえ、ちょっと進んだら、上にまた光が見えるわ。きっと出口じゃないかしら。」

咲希はどんどんと先へと進んで行く。メレグロスには全くの暗闇で何も見えないので、そんな咲希から少し遅れて足元に気をつけながら慎重に進んで行った。

咲希は、光が漏れている場所を見上げた。

「ここだわ…ここから、上に上がれるんじゃないかしら。」

追いついて来た、メレグロスが見上げた。しかし、何も見えない。触れてみると、確かに金属の冷たい感触があった。

「リリアナ!ここを照らしてくれないか。」

メレグロスが振り返って言う。リリアナを抱いているエクラスが、急いでこちらへやって来て、リリアナを持ち上げた。

そこには、二枚の金属の板があった。

「上に持ち上げなきゃならないわね。」

リリアナが言う。メレグロスが、頷いてそれに手を掛けた。すると、またバシッと何かに弾かれた。しかし、入り口ほど激しい弾かれ方ではなかった。

ラーキスが追いついて来て言った。

「オレが開けよう。」

ラーキスが、上へとそれを押し上げる。だが、高さが足りない。メレグロスが、ラーキスの足をしっかり抱きかかえるようにして、上へと扉を押し上げた。

上へと上がったラーキスが、言った。

「おお…ここが、要の間か。」

咲希が、手を扉の向こうへと上げた。

「さあ、メレグロスも上がって。」

咲希の手が通っているので、メレグロスは今度は弾かれずに上へと上がれた。その後、ラーキスが咲希を引っ張り上げて、それに倣ってエクラスはリリアナを抱き上げて手を上へと上げ、乗せてからそのまま上へと上がって行く。克樹は、それを見ながら手を上へと上げて自分の手を扉の向こうへと上げた。

「さあ、今の間に上へ、クラウス殿、アーティアス殿。」

二人は、頷くと軽々と上がって行った。その身軽さには、克樹も驚いた。克樹自身はメレグロスに引っ張ってもらって上へと上がった。

そこは、広いホールのような形になっている、天井の高い部屋だった。ここへ降りて来るように、まるで観客席のように階段がずっと回りを囲んでる。上には、普通の大きさの石の扉があり、恐らく普通に来たならあの扉から入ったのだろうと思われた。

そして、女神の台座の裏側から出るようになっていた、その入り口を回り込むと、正面に大きな石版があった。その石版には八つの穴が開いていて、回りを囲む七つは空洞だったが真ん中の一つには、緑色の石が光り輝いて嵌っていた。石の表面は、磨き上げられてはおらず、何やら不自然にごつごつとしていた。

「ここが…要の間。」

克樹が、ラーキスと同じように呟いた。ラーキスは、じっと魅入られたように石版を見上げて頷いた。

「読んだ通りぞ。あの、本に書かれておった通り…。」

咲希も、そう思っていた。シャルディークは、一本の力だけ残して残りを自分へと戻した。デルタミクシアから命の気が、そのただ一本の石を目指して飛び、そうしてここで地へと還る。そうして、循環システムが確立しているのだ。

「確かに、ここで地へと戻っています。どうやら、あの緑の石が取り込んで地へ流す作業をしておるようです。」

クラウスが、アーティアスに言う。アーティアスは、頷いた。

「しかしこちらの命の気はあちらより薄い。この量とこの圧力であるならば、ここ一箇所で済むであろうが、あちらではこうは行かぬな。」

ラーキスが、それを聞いてアーティアスを見た。

「…つまりは、あちらは一箇所では無理と?」

アーティアスは、ラーキスを見て頷いた。

「その通りよ。恐らくは、こういった感じで数箇所に設置せねばならぬだろうの。何しろ、こちらのデルタミクシアの規模を聞いたが、あちらとは比べ物にならぬ。あちらの命の気の発生しておる場所は、メニッツという土地そのものなのだ。不思議に丸く山脈に囲まれた場所での。しかも、かなり強い力のある気。分散させねば、一箇所へ集中させてしもうたらその流れる軌道上の街は壊滅状態になろう。」

ラーキスは、咲希を見た。咲希は、じっとその石版を見上げていた。ラーキスは、咲希に歩み寄った。

「サキ?主は何か分かるか。」顔を覗き込んで、ラーキスは驚いて慌てて咲希の肩を掴んだ。「どうした、何を泣いておる?!どこか傷つけたか?!」

咲希は、涙に濡れた顔のまま、ラーキスを振り返った。

「え?泣いてる?」と、自分の頬に触れた。「え…気付かなかった。」

リリアナが、まだエクラスに抱き上げられたままで、言った。

「サキ…あなた、瞳が完全に緑色になっているわよ。」

ラーキスも、言われてじっと咲希の瞳を見つめた。確かに、夕方見た時よりも、ずっと澄んだ緑になっている…。

「そういう主の持つ人形の目も、光っておるがな。」

リリアナがしっかりと首にしがみついているので、下ろすに下ろせないらしいエクラスが言った。みんなが一斉にリリアナのクマ、つまりはルルーを見る。すると、その両目はまるで、石版の女神の石と共鳴するように光っていた。

「やっぱり…ショーンは、ここからこの石を切り出していたんだわ。」

リリアナが、呟く。克樹が、とんでもないという顔で叫んだ。

「なんてことを!この石は、ライアディータの命の気の流れを司ってるんだぞ!」

リリアナは、克樹を見た。

「分かってるわ。だから、ショーンは全部持ち出さなかったのよ。でも、どうしても必要だったんでしょう。リリアの、復活に必要だと思っていたから。」

アーティアスが、リリアナを見た。

「そのショーンは、ここへ入れたのか。」

リリアナは、頷いた。

「入れたと言っていたわ。バーク遺跡の話しになった時に。それなのに、どうしてルシール遺跡の結界は抜けられないのだと独り言を言ってたのを聞いたもの。」

ラーキスが、付け足した。

「ショーンは術士で、今回サラデーナ王国に向かった使者の中に居たのだ。なので、今は連絡が取れぬ。」

「命はないだろうの。」アーティアスは、特に何の感慨もないような無表情で言った。「良い。とにかくは、サキとやら。主は、これをどうにか術にする術が分かるか。」

咲希は、アーティアスを見ない。ただ、またじっと石版を見上げていた。ラーキスが、心配げに咲希の顔を覗き込んだ。

「サキ?どうした、何か…」すると、咲希がガクッと崩れた。ラーキスは、慌てて咲希を抱きとめた。「サキ?!どうしたのだ、サキ!?」

咲希は、気を失っていた。そのまま、目をじっと閉じていて、揺すっても反応がない。克樹も寄って来て、咲希の顔を覗き込んだ。

「咲希!どうしたんだ、ここの気にあてられたのか。」

だが、リリアナが首を振った。

「違うと思うわ。サキから、命に何かありそうな波動は伝わって来ない。何かのショックを受けて、気を失っただけだと思うわ。サキは…私にも分からないような、とても大きな力があるから。」

ラーキスは、咲希を抱いたまま言った。

「とにかく、皆で何か手がかりになるような物が無いかその辺りを探してくれ。サキをあまり長くここに置きたくない。」

頷いた克樹は、急いで女神の像の台座に書かれてある文字とか、石版の文字などを腕輪で写真に撮って、持ち帰る資料を作っている。

アーティアスやクラウスは、ただその空間を見渡しているだけで、特に何かを調べているような感じではない。エクラスは、リリアナを抱いているのであっちこっち連れまわされていた。

ラーキスは、腕の中の咲希を見つめた。何が起こっているのだろう…これから、何が起ころうとしているのだ。本当に、咲希をこのままあちこちへ連れて行ってしまって良いのだろうか…。

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