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アーシャンテンダ~The World Of ERSHUNTENDA~  作者:
アーシャンテンダ大陸
59/321

バーク遺跡で

咲希は、コートにくるまりながら、上空からその遺跡を見た。

大きな石が、まるで柱のように点々と輪を描くように立っている。まるでストーンヘンジのようだ、と咲希は思った。

そして、その側には同じく石を積んだ低い建物があった。

神殿というからにはもっと大きなパルテノン神殿の様なものを想像していた咲希は、少し拍子抜けした。

その回りには、小さく人がゴマ粒のように見える。

近付くにつれて、それが兵士なのだと制服を見て思った。

ラーキスがそこに向かって降りて行くと、一際大きな体のメレグロスが、とても色っぽい感じの女の人と一緒にこちらを見上げているのが見えた。

こうして見ると、メレグロスもその女性も制服ではなかった。

着地してホッとした咲希は、先に降りた克樹に手を貸してもらいながらラーキスから降りた。すると、ラーキスは瞬く間に人型へと戻り、ふと見るとメレグロスと女性が一緒にこちらへと向かって来るのが分かった。

「早かったの。」メレグロスは、笑顔で言った。相変らず、とても和む顔だ。「もっと掛かるかと思っておった。ダニエラも、今着いたばかりだ。」

メレグロスは、横に居た女性を見た。真っ赤な髪に、体に添うような白と赤が綺麗に組み合わさったスーツのような服を着ている。だが腰回りには、正面を除いてスカートのような飾りがついていて、豪華なイメージだ。手には咲希と同じような色の杖を持っていて、だた先には真ん中に大きな、王城でも見たようなエンブレムのような物が描かれた飾りがついていた。背がすらりと高く、手足がびっくりするほど長かった。

「はじめまして。王立軍将軍、ダニエラよ。そっちのお嬢さんが、この間の封印をした子ね。」と、ラーキスを見た。「あなたがラーキスね。聞いてはいたけど、本当にマーキスによく似ていい男よねえ。」

ラーキスが、驚いたように目を丸くして、メレグロスを見る。メレグロスは、慌てて言った。

「ダニエラ、ラーキスはならぬぞ。主より歳が10は下だろうが。」

ダニエラは、心外な、という顔をした。

「10はないわよ、7ぐらいだわ。でも、安心して。私はリーディス陛下以外には興味はないの。」と、杖をとん、と地面に軽くついた。「陛下に一生お仕えするって決めてるから。他の男なんて有り得ないわ。」

そうか、あれは王室のエンブレムなんだ。

咲希は、杖の先の紋様を見て思った。確かリーディスの服にも、こんな模様のボタンがついていたような気がする。

でもお仕えするってそっちの意味のお仕えもあるのかなあ。あっちの世界では無さそうだけど、こっちは知らないからなあ。

咲希がそんなことを頭の中で思っていると、メレグロスが咎めるように言った。

「こらダニエラ。皆主を知らぬから驚いておるではないか。陛下をそのように申すのではない。」

ダニエラは、つまらなそうに息をついた。

「いいじゃないの、お慕いするぐらい。陛下が私なんかに見向きもされないことぐらい、知ってるわ。だからこうして、力で貢献して、認めて頂こうとしておるのではないの。相変らずお堅いのね、メレグロス。」

メレグロスは、困っている。咲希は、きっとダニエラが自分よりも年上の、しかも女の将軍なので、やりづらいと思っているのだろうな、と推測していた。

すると、克樹が進み出て言った。

「オレは、バルクのパーティに入っている克樹。こっちはリリアナ、ショーンと一緒に住んでいた子です。」

ダニエラは、ショーンと聞いてパッと真顔になると、リリアナをじっと見つめた。

「そう…じゃあ、そのお嬢ちゃんが、そうなのね。」と、屈んで視線をリリアナと合わせた。「ショーンとはケンカばっかりだったんだけど、まだ若い頃押しかけていくらか術を教えてもらった恩があるの。あなたがまだ赤ちゃんの頃を知っているわ。よろしくね、リリアナ。」

リリアナは、じっとダニエラを見てから、頷いた。

「ええ。よろしく、ダニエラ。」

メレグロスが、これ以上変な会話にならないためにと、急いで言った。

「では、早速中へ。要の間へ行って、女神の石の波動を分析してもらった方が良いだろう。使者達には、入ってすぐのホールで待ってもらっておる。こっちだ。」

そうして、四人はダニエラとメレグロスについて、神殿の建物の方へと歩いて行った。


中へと入ると、広い部屋でたくさんのほかの部屋へと繋がるだろう入り口の開いた、居間には適さないだろうな、といった場所が開けていた。

その真ん中に、背の高い三人の男が立っているのが見える。咲希達が入って来たのを感じて、三人ともこちらを向いた。

咲希は、その容貌に息を飲んだ。

中央の一人は髪の色が染めてあるのか天然なのか、まるでキジトラの猫のような色合いで、美しい縞模様を描いていた。瞳は中央が緑色で、回りは金色だった。左側の男は、真っ黒い髪で目は金色、右の男は明るい茶色と白の縞模様で瞳は緑色だった。

じっと待っている三人の前へと到着してから、メレグロスは言った。

「お待たせした、大使殿。こちらが、バルクから参った術士と護衛だ。」と、ダニエラを指した。「我が王立軍の術士ダニエラ、パワーベルトの暴走を封印した術士のサキ、巫女とグーラの血筋であるラーキス、王室公認の武装パーティのカツキ、術士の側で目の役割をしておったリリアナ。」

こうして聞くと、自分が特に目立った経歴の持ち主ではなかったことを、克樹は思い知っていた。それなのについて行くと言って、本当なら許される訳はないだろう。それなのに、陛下は許してくれた。克樹は、それに心から感謝した。

中央の男が進み出て、真っ直ぐに咲希を見て、言った。

「初めてお目にかかる。オレはアーティアス。ディンメルクから遣わされた使者ぞ。」と、隣りの黒髪の男を見た。「これは、エクラス。使者であるが剣技にも長けておる。そしてこちらがクラウス。主らの言う術士の才があり、恐らく見えておるものも主らと同じであろう。」

咲希は、頷いた。何やら自分に言っているようで、返さないわけには行かなさそうだ。

すると、横からラーキスが咲希を庇うように前に出て、言った。

「お目にかかれて光栄だ、アーティアス殿。サキは術士とは申して異世界から数日前にこちらへ参ったばかりで、こちらでの知識は赤子のようなもの。何か御用であれば、他の者達に申して欲しい。」

アーティアスは、片方の眉を上げた。

「異世界から?…だがしかし、このサキの力が一番大きく見えるとクラウスが申す。オレにも、その力の波動を感じる。異世界の住人とは、皆このようなのか?」

それには、咲希が首を振った。

「いいえ、あちらでは魔法すらありません。なので、こちらへ来てみんなに力があると言われて、一番戸惑っているのは私なのです。ラーキスは、それを知っているので私を庇ってくれているのですわ。」

アーティアスとクラウスは、視線を合わせた。それがどんな意味を持つのか、咲希にもラーキスにも分からなかった。

「…まあ、追々知って行くにつれ、その力が役立つのだと信じておる。」アーティアスは行って、メレグロスを見た。「して、メレグロス。要の間の女神の石を見るのではなかったか。」

メレグロスは、急いで頷いた。

「はい。では、参るか。ラーキス、先頭に立ってくれ。恐らくここで見えるのは、ラーキスがぐらいのもの…。」

すると、リリアナが、言った。

「あっちよ。あの横の下へ降りる階段の上に、『要の間へ』って書いてあるのが見えるわ。」

咲希は、そちらを見た。確かに、緑の蛍光色で光るネオンサインのように見える。すると、克樹も言った。

「何言ってるんだよ、メレグロス。オレにも見えるぞ。」

メレグロスは、顔をしかめた。

「主も巫女の子ではないか。見えて当然よ。我らには見えぬ。で、こっちか?」

メレグロスが足を進める。咲希は、慌てて首を振った。

「違うわメレグロス、その隣りよ。その上には『危険地帯』って書いてあるの…でも危険地帯ってなに?」

ラーキスが、咲希を見た。

「そうか、サキにも見えるか。ここはの、侵入者を防ぐために、それは周到な罠が仕掛けられてあるのだ。巫女の血筋でなければ、見えないと言われておる。」

ダニエラが、後ろで肩をすくめた。

「そう。悲しいけれど、私にも見えないわ。術士でも血筋じゃないのね。」

咲希は、びっくりしてそのサインを見た。こんなにはっきり見えるのに…。

「でも…なんだか、そこを通らなくても行けるような気がするわ。」咲希が言うのに、メレグロスがびっくりしたような顔をした。「何かしら、さっき上空から見て思ったんだけど、ここの神殿の裏側が光って見えたのよ。あそこが気になるわ。あっちから行けないのかしら。」

ラーキスが、首を振った。

「オレにはそれは見えなかった。そんなに簡単に破れるような神殿ではないぞ。要の間で女神の石を守るためのものなのであるから。」

だが、咲希は首をかしげた。心の奥から、そんな危ない思いをしなくて良いと、何かが語り掛けているような気がする…。

「きっと、この道を行くのは危ないの。そうではない?」

咲希が言うと、ラーキスは渋々頷いた。

「確かにの。罠が見えないと、見えてもそれに触れてしもうたら、地下へとまっ逆さまよな。だが、なぜに知っておる?」

咲希は、頭を抱えた。何かが、胸の奥から突き上がって来る。それは焦りのような、怖さのような、よく分からない感情だった。自分は、知っている。何かを知っているのに、ここまで出ているのに出て来ない、というじれったい状態だった。

「…どうして知っているのかしら。」咲希は、じっと一点を見つめて言った。「でも、分かるのよ。きっと、裏から行った方がいいの。私達、みんな一緒に。そうしたら、きっとすぐに要の間だわ。」

ラーキスとメレグロスが、困惑したように顔を見合わせる。すると、意外にもアーティアスが言った。

「では、一旦外へ出て裏側へ。」皆が、驚いてアーティアスを見る。アーティアスは続けた。「何をしておる?時が惜しいだろうが。人はなんとおっとりと生きておるのか。」

アーティアスは言いながら、さっさと出口へと向かう。クラウスもエクラスも、すぐにそれに続いた。

仕方なく、メレグロスは皆に頷き掛けて、外へと出て神殿の裏側へと向かったのだった。

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