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アーシャンテンダ~The World Of ERSHUNTENDA~  作者:
アーシャンテンダ大陸
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脱出

その数時間前、シュレー達6人は、必死に迎賓館の大きな階段を駆け下りていた。

下に敷かれてある赤い質の良さそうな絨毯が、余計に靴底に引っ掛かってスピードが出ないように思った。大使に見えるようにと、全員裾の長いローブなどを身につけさせられていたので、それもまた足を取られて思うように走れない。

一階へと到達した時、そこに居た兵士達が振り返って、血相変えて走って来るシュレー達に驚いたように叫んだ。

「大使殿!どうなされた?!」

咎めるようだったその表情は、遠く階段の上から同じように駆け下りて来る甲冑姿の数人に目を留めてからは、目の色が変わった。

「早くこちらへ!ここは我らが!」

剣を抜いて叫ぶ兵士達に頷き掛け、シュレー達6人はやっとの事で建物の外へと掛け出した。すると、脇の茂みから一斉に追って来た者達と同じ甲冑を身につけた男達が躍り出て来て、6人は思わずのけぞった。

「サルー!」

シュレーが叫ぶ。サルーは、のけぞった拍子に足を取られて尻餅を付いたのだ。慌てて立ち上がったものの、その顔は羞恥からか赤く上気していた。

こちら側の守りについていた兵士達が、シュレー達の前へと出てその相手の前へと立ち塞がった。

「早く!このルイについて、あちらへ逃れてください!」

兵士の一人が叫ぶ。ルイと言われた兵士が、シュレー達の前へと出て、言った。

「こちらへ!我らがお守り致します!」

途端に、わらわらと五人ほどの兵士達がシュレー達を守るように囲み、ルイを先頭に走り出した。

シュレー達は、それについて行く他判断のしようがなく、必死にルイの背を追って、最早戦場のようになった迎賓館の周辺の道路を、必死に走った。

走って行く中、迎賓館の方からは、わーわーという声と、剣がぶつかり合う音、兵士の唸り声などが聴こえて来て、気付くのが遅かったらあの只中でどうなっていたのか分からないと、皆は胸を撫で下ろしていた。


しばらく走ると、人も少ない海岸へと出た。そこには、軍船らしき小さ目の船が一隻、係留してあった。錨を上げ始めていて、今にも出発するのだと分かる。

ルイが、振り返って言った。

「あの船に、乗船して頂きます。我ら、バーク将軍からこのような事態のためと、指示を受けておりました。ここから船で、アーシャンテンダ大陸の、我らがサラデーナ王国の首都である、デンシアへ向かって頂きます。」

シュレーが、早口に問うた。

「あれは、どういった者達なのだ。軍人だった。君達とは違う甲冑を着ていたが。」

ルイは、首を振った。

「私からは、これ以上は何も申し上げることは出来ません。全てはデンシアにて、バーク将軍からご説明がありますでしょう。では、我らはあちらの援護をせねばならないので、これにて。」

シュレーが他にも聞きたいと口を開いたが、ルイは船上の兵士に向けて、手を振った。すると、上から縄梯子が降りて来て、そこから一人の兵士がするするとこちらへ向かって降りて来る。それを目で追っているうちに、ルイと兵士達は、さっと元来た道を戻って行ってしまった。

降りて来た兵士は、船腹を蹴って勢いをつけてこちらへ飛び移ると、縄梯子の端をそこの杭へと括りつけて言った。

「少し登りづらいですが、これで早く船へ。こちらにまで攻めて参ったら面倒です。さあ!」

急かされて、スタンが最初に縄梯子へと足を掛けた。最初は斜めになっていて上りづらそうだったが、それでも上へ行くにつれて軽々と足を進めて行く。次にマーラが、そしてレンが行った。シュレーは、ショーンを振り返った。

「お前ならお手の物だろう。縄梯子も要らないんじゃないか?」

ショーンは、進み出ながらふんと鼻を鳴らした。

「だが、ここでは飛ぶなってんだろ?」

ショーンは、まるで飛ぶように誰よりもスムーズに進んで行った。命の気を使って体を浮かしているのは、シュレーの目には明らかだった。シュレーは、ため息をつきながらサルーを見た。

「では、サルー大使。オレは最後で。」

サルーは頷くと、緊張気味に縄梯子に足を掛けて、上り始めた。シュレーは、サルーに限って何かあるということはないだろうと思いながらも、そのすぐ後をついて上がって行った。

そうして登っていると、垂直になったところで、もう大丈夫と安心したのか、サルーが手を滑らせた。

「わ!!」

途端に、高い位置で宙ぶらりんの状態になる。シュレーが、咄嗟に掴んだ腕一本で、どうにかぶら下がっている状態だ。しかも、縄梯子なので裏返ってしまい、もう片方の手で縄梯子を掴み、足先を辛うじて縄梯子に引っ掛けた状態で、何とかその位置に留まっている。

だが、想像以上に重いサルーに、シュレーは顔をしかめながら言った。

「サルー!早く上がってくれ、懸垂してもう片方の腕で、縄梯子を掴んで!」

だが、サルーは力を入れはしたものの、僅かに腕が曲がっただけだった。

「無理だ…片手懸垂など、最近ではやったことはなかった!」

シュレーは、歯を食いしばった。やはり、マーラの判断は正しかった…腕が、鈍っているのだ。

だが、今この状態で言っても仕方が無いことだった。

上へと到達して、それを振り返ったショーンが、顔色を変えた。

「…やべぇ。」そして、さっとローブを脱いで甲板に放り込むと、すぐに言った。「オレが行く!シュレー、踏ん張れ!」

シュレーは、答える代わりに頷いた。下からは、縄梯子を支える兵士が心配そうにこちらを見上げ、また背後に敵は迫っていないかと確かめながら、立っている。

ショーンは、驚くほど早くシュレーとサルーの場所へと到着すると、身を乗り出してシュレーに言った。

「サルーはオレが引き受ける!とにかく、ここまで引っ張り上げろ!」

シュレーは、無理だと言いたかったが、それしかないのに思い当たり、駄目で元々だとサルーを引っ張った。

すると、驚くほど軽くサルーが持ち上がって来て、拍子抜けしてびっくりした状態でショーンを見た。ショーンは、無言で片目をつぶって見せると、すぐにシュレーからサルーの腕を引き継いで、そうして軽々と縄梯子のこちら側へと引っ張り上げた。

「…手間ぁ掛けさけんなよ、おっさん。」

ショーンは、小さく呟いてサルーを急かして先を登らせ、その後を登って行く。

シュレーは、やっと解放された腕をぶらぶらと振って疲れを逃してから、梯子の向こう側へと登って、するすると上がって行った。

下で見ていた兵士はホッとしたように括り付けていた縄梯子を解いて、それに掴まると船へと飛んだ。

そして、ぶらんと垂れ下がった梯子を、慣れたようにするすると登って来ると、甲板へと降り立った。

「出発!」

すぐに、船は動き出す。

驚く速度で、軍船はミラ・ボンテという場所を離れて、一路デンシアへ向けて進み出した。


やっとのことで乗り込んだ甲板で、進み出た兵士が6人に頭を下げた。

「では、ただ今から二時間ほどで首都デンシアへとご案内致します。私は、船長のキーマ。日差しが気になるようでしたら、船室へどうぞ。ご自由にしてくださって結構です。」

レンが、頷いた。

「お世話を掛ける。」

キーマは、それに頷き掛けて、さっと離れて行った。シュレーは、やっと一息ついたように肩を回して言った。

「歳だな。あれぐらいのこと、昔は何でも無かったのに。」

ショーンが、ローブへ腕を通しながらふふんと笑った。

「素直じゃねぇか。こっちのおっさんとはエライ違いだ。」と、サルーを見た。「オレはまだ礼を言われちゃいねぇがな。」

サルーは、甲板に座り込んだまま、ふんと小さく鼻を鳴らした。

「術が使えるなら、何でもないことだろうが。オレ達は術が使えないんだ。寄る年波には勝てないってことだ。」

シュレーは、咎めるように言った。

「サルー、そんなことはない。軍人として、オレはまだやって行ける。少なくとも、他人に迷惑は掛けない。日々の鍛錬次第で、体の年齢だってある程度若く保つことが出来るんだ。少しは努力したらどうなんだ。陛下は、まだあなたが戦えると言うのを、信じていらした。若い頃のことを知っておられるからだ。だが、そうじゃない。もう結構長いこと、何もしていないな?」

マーラも、スタンもじっとそれを聞いている。サルーは、皆の視線から逃れるように横を向いたが、渋々頷いた。

「もう…かれこれ、10年はそんな機会は無かった。最近では、大使と言ってもリーマサンデに駐在するだけで良かったりだったので、文官の仕事ばかりしていたからな。それでも、まだ一般人よりは動けるはずだ。」

マーラは、眉をひそめた。

「はず?はずとはなに?そんな不確かなものに、我らは命を懸ける気にはなりませんわ。やはり、何かの時には従ってもらわねば。私の判断は、間違っていなかったんですもの。10年も実戦の場から離れていて、いきなり昔どおり動けると思うことが甘いわ。」

レンが、まあまあと割り込んだ。

「もういい。とにかく、今度のことで分かった。サルー大使は、恐らく自分の力では何かあった時逃げ切る力があるまい。我らに従ってもらう。それでいいな、シュレー?」

シュレーは、ショーンと顔を見合わせてから、サルーを見て、頷いた。

「それでいい。戦力と数えることは出来ない。」

サルーは、憤慨したように立ち上がったが、結局は何も言わず、皆に背を向けた。

「…船室へ行って来る。」

そうして、中へと去って行った。

シュレーは、最初からこれでは先が思いやられる、と頭を抱えたくなるのを、必死に我慢していた。


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