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消滅

人型は、その力の光りが消えたと同時に姿を消していた。

それを見て、黙っていたシュレーが叫んだ。

「戻るぞ!地上が心配だ!」

すると、ラーキスが叫び返した。

「こちらへ!この上に地上へ向けての穴が開いておるのだ!」

克樹が、慌ててグーラへと戻るラーキスとアトラスを横目に見ながら上を見上げて言った。

「でも、この上にも何だか例の光の障壁があるみたいだよ!上の方に見覚えのある光が見える!それに、パワーベルトが消えてなかったらどうする?ここはパワーベルトの真下なんだぞ?」

すると、アトラスとラーキスが同時に首を振った。

『あの強烈な気を感じない。確かにパワーベルトは消えておる。消えておらずとも、この真上には何の気も感じられない。』

咲希が、ラーキスによじ登りながら言った。

「障壁は、私が乗ってたらくっついてるラーキスは大丈夫だろうと思うの。でも、アトラスはどうしよう?」

すると、ショーンが言った。

「オレが乗る。」シュレーが、ショーンを睨んだ。ショーンは、フンと鼻を鳴らした。「オレは石を持ってる。」

シュレーは、まだ睨んでいたが、克樹に顎をしゃくってラーキスへ乗るように指示した。

「克樹はそっちへ。オレが、アトラスに乗る。」

ショーンが、何も言わないシュレーの後ろへと、リリアナを片手に乗り込んだ。ラーキスが、大きく羽ばたいて飛び上がった。

『先に行く!』

アトラスも、そのすぐ後を追って、飛び上がった。

二頭のグーラは、狭い竪穴をぐんぐんと登って行った。

『障壁を通るぞ。』

ラーキスが言う。咲希は、分かっていても唾を飲み込んだ。自分なら、通れる…通れる…。

心の中で、念じて見るものの、通れないと思っていた膜なので、やはり怖かった。

目の前に膜が現われ、通ったのか分からない間に、気が付くともう地上を抜けて空へと飛び上がっていた。

「通った…?」

咲希が、思わず言うと、後ろの克樹が苦笑しながら言った。

「通ったよ。簡単にね。」と、回りを見た。「わあ…あれはなんだ?あんな湖、見たことがない!」

咲希は、克樹が言った先を見た。そこには、確かに湖があって、その向こうには川も流れていた。元々、ディンダシェリアの地形に疎い咲希には、何が珍しいのか分からなかったが、ラーキスの横に並んだ、アトラスの上のシュレーもショーンも、じっと食い入るように地上を眺めているので、確かに珍しいのだろうと咲希は思った。ラーキスが、言った。

『パワーベルトが、なくなったのだ。今まで見えなかったベルトの向こう側の世界が、見えているのだろう。』

咲希は、頷いた。では、本当にあの光の中の神様みたいなひとは、ベルトを消したんだ…。

しばらく黙ってそこに留まって飛んでいたが、シュレーが、我に返って言った。

「…とにかく、これでパワーベルトの脅威は消えた。陛下にご報告しなければ…バルクへ帰ろう。」と、ショーンを見た。「お前にも、納得の行く説明をしてもらねばな。」

ショーンは、何も言わずに横を向いただけだった。それを聞いたアトラスとラーキスは、頷き合ってバルクの方角へと飛んで行ったのだった。


バルクでは、とうに日が暮れて暗くなっているにも関わらず、町中の人々や兵士が、海の方角を見て騒いでいた。シュレーは、アトラスに言った。

「大学の方へ。」

アトラスは、振り返った。

『先に陛下に会いに参らぬのか。』

シュレーは、首を振った。

「報告するなら全てを把握してからだ。まだオレはショーンの事も、パワーベルトが本当に消えたのかも、分かっていない。まずは大学で何の力場も感じられなくなったのか確かめねば。」

アトラスは黙って頷くと、大学の中庭へと降下して行った。

ラーキスも、同じように大学の中庭へと降り立つ。克樹が、ラーキスから降りながら言った。

「シュレー、王城には行かないのか?」

シュレーは、首を振った。

「アトラスにも話したが、まずは現状の確認だ。研究室へ。」と、ショーンを見た。「いや、先にこいつの話を聞こう。」

ショーンは、両手を横へ上げた。

「まだ話すとは言ってねぇぜ?」

シュレーは、ショーンを睨み付けた。

「そんなことを言える立場だと思っているのか。牢へ繋ぐことも出来るのだぞ。」

ショーンは、横を見ながら肩をすくめた。

「わかったわかった、冗談だよ。オレだってこの先目的を遂げようと思ったら、お前らの協力が要るかもしれねぇからな。」

シュレーは、眉を寄せたまま言った。

「協力するかしないかは、話を聞いてからだ。来い。」

シュレーは、先に立って歩いて行く。皆がぞろぞろとそれに従う。ショーンは皆が歩き出すのを待ったが、ラーキスとアトラスはじっとショーンが歩き出すのを待って、ショーンを凝視している。ショーンは、仕方なく歩き出した。

「わかったって。見張るがいい。リリアナ、行くぞ。」

ショーンは、リリアナと共にシュレー達について歩いて行く。

ラーキスとアトラスは、その後ろを歩いて、皆に従って行った。


シュレーは、慣れたように大学の廊下を歩き抜け、ひとつの部屋へと入った。そこが、普段は会議室に使われている場所だということは、この大学に在学したことのある者には分かった。皆がそこへ入ると、最後に入ったラーキスが部屋の戸を閉めた。

部屋の灯りを着けると、シュレーは振り返った。ショーンは、いつの間にか皆に取り巻かれるような状態になって、そこに立っている自分に気付いた。

「なんでぇ、まるで犯罪者扱いだな。」

シュレーが、険しい表情のまま答えた。

「犯罪者だからな。」そして、言った。「疑問に答えてもらおうか。誤魔化して逃れようと思っても無駄だ。咲希の魔法の力には勝てないだろう。咲希の手には、まだ封印の呪文が書かれたままだ。何かしようとしても、それでお前を封じてもらう。」

咲希は、慌てて自分の手を確認した。大丈夫、まだシュレーに教わったままの呪文が、その手には残っていた。急いで杖を大きくして手に持つと、いつ何があってもいいように、その手を前に構えた。

ショーンは、それを見てため息をついた。

「わかった。何か聞きたい。」

シュレーは、頷いた。

「まず、ルクシエムからルシール遺跡まであれほど早く移動出来たのはなぜか。克樹がお前と離れてから、ほんの僅かな時間でもう遺跡の中に居ただろう。」

ショーンは、腰に手を当てた。

「そんなことか。オレには、地上を僅かに浮いて移動することが出来るんだ。」と、手を上げてその場で浮いて見せた。ショーンは、床から20センチぐらい浮いたまま、先を続けた。「このまま、後ろへ向けて気を発すれば簡単に前へ進む。そのスピードは、グーラで移動するよりは遅いが、それでも歩くよりはずっと速い。大地から気を吸収して使えるオレだからこそ使える術だ。」

シュレーは、それを見て片眉を上げた。そんな術があるのか。確かに自分の身の中にある命の気を使うしかない普通の人なら、そんなことをしたらすぐに気が枯渇してしまうだろう。ショーンだからこそ出来ることなのだ。

「それは分かった。ならば、次だ。」ショーンは、床へ降り立った。シュレーは続けた。「リリアナは、何だ?お前があの時願おうとした、リリアの復活とはどういうことなのだ。」

ショーンは、俄かに険しい顔をして、黙った。すると、横からリリアナが言った。

「私が、そのリリアらしいわ。」シュレーや、他の皆が驚いてリリアナを見た。「10年ほど前に、魔物の襲撃で死んだ女よ。」

ショーンは、下を向いて黙っている。シュレーは、まじまじとリリアナを見ていたが、やっと言った。

「リリアナ…君は、死んだ女だというのか?しかし、君は生きている。」

リリアナは、無表情に頷いた。

「生ける屍。ショーンはいつもそう言っていたわ。私は何も覚えていないけれど、気が付いたらこの姿で、それからずっとこの姿よ。」

克樹が、呆然とリリアナを見ながら言った。

「…どういうことだ?ショーン、リリアナはずっとこの姿なのか?10年前から?」

ショーンは、じっと黙っていたが、思いきったように顔を上げた。

「そうだ。」と、リリアナを見つめた。「オレは10年前、リリアナを作った。リリアを、助けようと。」

皆は、固唾を飲んだ。

ショーンは、10年前のことを話し始めた。

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