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台座の神

無事に抜けた後、皆が物問いたげに咲希を見て口を開こうとしたが、シュレーが遮った。

「オレだって気になるが今はショーンだ!急げ、走るぞ!」

残りの三人はためらいがちに頷く。咲希は、それにホッとしていた。なぜかと聞かれても、答えられなかったからだ。自分だって訳を知りたい。どうして異世界から来た自分が、こんなことが出来るのかと。

全速力で走るシュレーの後について、みんな一斉に走り出した。咲希の両手は、ラーキスと克樹に片方ずつガッツリと掴まれ、まるで引きずられるように、咲希は通路を奥へと走って行ったのだった。


その通路は、永遠に続くのではないかと思われた。途中咲希がとても走れなくなって、ラーキスの肩にまるで米俵にでもなったように担がれて、咲希はくの字になった状態でラーキスの背中ばかり見ている事になったが、揺すられてそれはそれで大変だった。

「見えた。」

シュレーが言う。咲希は気になって、ラーキスの背に手をついて前を振り返った。

数百メートル先に、ほんのり明るくなっている箇所がある。揺れているので、はっきり見ることが出来なかった。

スピードが緩まって、ついにラーキスは立ち止まり、咲希はやっと肩から降ろされた。そこには、じっと立っているリリアナと、向こうを向いているショーンが居た。

「…なんだ。早かったじゃねぇか。」

ショーンは、後ろを向いたまま言った。シュレーが一歩近付いて言った。

「ショーン!何を願うつもりだ!」

ショーンはそれには答えず、言った。

「ここは、太古の昔に神が世界を作った時、人が神の知恵を使えるようにと設置された場所だ。昔の人は、困った時にはここへ来て神を仰ぎ、その知恵を貰った。時には、人にはどうにもならないことを神に何とかしてもらうために使っていた。どうやら神は二つの世界を一緒に作り、その両方の人を繁栄させるために両方の人が来れる場所にこれを作った…」と、ショーンは台座に書いている複雑な古代語を指した。「ここに、それが書いてある。」

克樹が口を開いた。

「君には、最初から古代語が読めたんだな。だから、それを見て内容を知って、ここへ戻ろうと思った。」

ショーンは、少し振り返って頷いた。

「そうだ。こんなものぐらい、少し研究すれば解読出来た。だから、オレは古代語はすらすらと読める。だが、どうしてもあの床石を全て見ることが出来なかった…こうなったら無理にでも破るよりないと空間研究所へ一緒に行ったが、古代語の内容を読んでその必要がないと思った。だから、ここへ来たんだ。」

シュレーが、横から言った。

「そんなことはいい。何を願うつもりだ。それとも、もう願ったのか?どうしてこんな所に留まっている。」

するとショーンは、突然にシュレーを振り返って叫んだ。

「願いを叶えるには、条件が揃わなきゃならねぇんだよ!どうあっても、神らしき男はオレの言うことを聞いちゃくれねぇ!」

すると、リリアナが横から無表情に言った。

「私達では、資格がないのですって。」

シュレーが、驚いた顔をした。神だって?

「え、神がここへ来たのか!?」

ショーンは、険しい顔で視線を下へ向けた。リリアナが、シュレーを見上げた。

「ええ。あの「手」だわ。あれは、私やサキが見た「手」と同じ波動を感じたわ。でも、人の形だったけれどね。」

咲希が、ハッとしたように言った。

「そういえば…手を封じ直そうとしていたあの時、パワーベルトを揺るがしていた手が下へ降りて行ったわ。じゃあ、ここはパワーベルトの真下?」

リリアナは、頷いた。

「そうよ。あちらの世界とこちらの世界の、狭間と言っていいのではないかしら。台座の向こうは、パワーベルトの向こうの世界ってことよ。」

咲希は、身を震わせた。では、この上にはパワーベルトが回りを飲み込む勢いで、封印を破ろうと荒れているのだ。それなのに、その真下のここはこんなに静かで…。

皆が、一瞬黙った。すると、ショーンが台座に飛び乗った。

「おい!資格ってなんだ!何が足りない!答えろ!」

すると、回りが突然に真っ白な光りで満ち、咲希は思わず目を伏せた。ラーキスが咄嗟に咲希の前に出て自分の影へと庇ってくれているのが分かる。シュレーは、腕を上げて光を避けながら、何とかして光の向こうを見ようと目を細めていた。

《なんだ、また主か。》

その声に、咲希とラーキス、シュレーと克樹、そしてアトラスは、一斉に台座の上を見上げた。そこには、光に照らし出された、はっきりと顔が分からない人の形の何かが浮いていた。

「どうしても、聞いてもらいてぇんだ!そのために、オレはずっとここで調べていたんだぞ!」

ショーンは、その人型を見上げて叫んだ。その人型は、答えた。

《太古、全ての「人」がここで願えたのではない。ここで願えたのは、人を統率させるため、我が(あるじ)が生み出された僅か数人の「人」でしかなかった。主にはその血が流れているのが見えるが、しかし薄まり過ぎておるのだ。》

ショーンは、歯軋りした。

「つまり、血筋だって言うのか。オレの血筋には繋がるが、薄まり過ぎてるって。」

相手は、辛抱強く頷いた。

《その通りだ。稀に、血と血が繋がって濃い血を持つ者も居る。また、その命自身が我が(あるじ)が作り出した刻印が入っておる者も居る。そういった者と共にまた来るが良い。さすれば、願いも叶うやもしれぬ。》

その人型は、また上を向いて、上へ向かおうとした。しかし、ショーンは叫んだ。

「待て!」と、後ろに居る皆を指した。「この中に、お前が言う「人」は居るか?!」

その人型は、まるで今気付いたかのように、シュレーや咲希達の方を見た。そして、一人一人見て、言った。と言っても、顔がはっきり見えないので顔がこちらを向いているので見ているだろうと分かるぐらいだった。

《…居る。一人は濃い血を持ってはおるが、何かが混じっておる。一人は、命に我が主の刻印を持っておる。》

シュレーが、言った。

「それはどういうことだ?」

その相手は、少し首をかしげたが、答えた。

《つまりは、命は循環する。太古我が主が生み出した命が、巡って新しい命として再び生まれ出たということだ。しかし、その命には、確かに我が主の印が残る。》

ショーンは、台座から飛び降りると、ラーキスと咲希の腕を掴んで、ぐいと引っ張ると台座の上へと引きずり上げた。

「どっちだ?!こいつらの、どっちかだろう?!」

相手は、咲希を指差した。

《そちらぞ。》そして、ラーキスを指した。《こちらはかなり血が濃いが、人ではない血も感じる。なので、願いは聞けぬ。これは人に限定された特権なのだ。》

ショーンは、咲希の腕を掴んだまま、勝ち誇ったように、まるで気がふれたのではないかと思うように笑って叫んだ。

「だったら、願いを叶えろ!」

シュレーが、慌てて台座に飛び乗って咲希の腕を引っ張った。

「駄目だ、サキ、こっちへ!」

「リリアの復活を!」ショーンは、お構いなく続けた。「オレが維持しているあの体を、完全なものに!」

ショーンは、リリアナを指差して言った。リリアナは、相変らずの無表情だったが、じっと黙ってそこに立っている。咲希は、思わず知らず、呟いた。

「復活…?維持してるって、リリアナは、病気なの?」

すると、人型の存在がそれに答えた。

《その体は、自然に生まれたものではない。我が主が作った太古の命の人の、力の石を使って作られた不自然な命。その石がなくなれば、命を落とす。》と、ショーンを見た。《命の操作は、我には出来ぬ。それは我が主の仕事。人は、命のことに関して願うことは出来ぬ。》

ショーンは、息を荒くして怒鳴るように言った。

「何でだ!条件は揃ったんだろうが!」

人型は、困ったような素振りをした。きっと、ため息をつければついたかもしれない。また、上を見て浮き上がった。

《我は主の相手をするためにここへ来ているのではない。主の命で、あの力の壁を動かさねばならぬのだ。》

ショーンは、戻って行こうとする相手に向かって、急いで叫んだ。

「だったら、パワーベルトを消してくれ!」それを聞いたシュレー達は仰天してショーンを見た。ショーンは続けた。「あっちの世界を行き来させろ!あっちの知識が欲しいんだ!」

人型は、上昇をピタと止めた。そして、その位置で下を見た。

《あの壁を消せと?あちらと知識を交流させるためか。》

ショーンは、それを見上げながら何度も頷いた。

「そうだ!きれいさっぱり消しちまってくれ!」

克樹は、それを聞いてためらいがちにシュレーを見た。シュレーは、黙っている。その表情からは、何を考えているのか分からなかった。

人型は、じっと考えていたが、頷いた。

《良かろう。我が主の刻印を持つ命に懸けて、壁を取り除こうぞ。》

咲希は、仰天してその人型を見上げた。そういうことになるの?!私の願いってことに?!

「え、え、そんな、私何も…、」

「頼む!」ショーンは、それを遮って言った。「今すぐに!」

人型は、頷いた。

《では、その願い、叶えよう。》

人型は、その場で手を上げた。

その手から、激しい光が溢れ出て、その人型が登って行こうとしていた上に向かって、打ち上がって行った。

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