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同い年

次の日の朝、咲希はラーキスの声で目を覚ました。

『サキ!もう出発するぞ、朝飯はオレの背で食うのだ!』

咲希は、まだ寝たり無いのに、揺すられるので面倒そうにまどろんだまま言った。

「ラーキス?まだご飯はいいわ、後にして…」

しかし、ラーキスの声はやまなかった。

『何を言うておるのだ。寝たままだったら、背から転げ落ちるぞ。それに何度も言うておるが、コートを着るのだ、コートを!いつまでもこうして主を包んでおれぬ。』

すると、脇から別の声が飛んだ。

「もういいよ、ラーキス、オレが落ちないように掴んで乗るからさ。」

咲希は、その声にハッとして目を開いた。目の前に、ラーキスの大きなグーラの顔がある。そして、横には克樹がこちらを覗き込んでいる顔が見えた。そして、自分はグーラのラーキスの翼と体の間に包まれて、遺跡の入り口の脇に居た。

…そうだった!

咲希は、昨夜のことを思い出した。ラーキスと服を洗濯した後、炎の魔法を適度に当てながら服を乾かして、寒いからとラーキスの翼と体の間へと入った。そこがあまりに暖かかったので、話しているうちにうとうととして…。

今、なのだ。

つまり、私は昨日あのまま外で寝ちゃったってこと?ラーキスが居なければ、完全に凍死だわ…。

無言でコートを差し出すリリアナからそれを受け取って着、既に旅の準備が整った状態で皆が取り巻いているのを知り、咲希は居た堪れなかった。きっと、呆れただろうな…。

しかし、シュレーは言った。

「こんなところで熟睡出来るとは案外に肝が据わってるようで驚いたが、良かった。とにかく、これから王立空間研究所へ行く。疲れはどうだ?」

咲希は、頷いた。

「すっかり取れてます。」

シュレーは、満足げに頷き返した。

「よし。じゃあ、咲希と克樹はラーキスへ、オレとショーンとリリアナはアトラスへ。ここからは降りられないぞ。昼頃一度降りるつもりだが、それ以外はノンストップだ。」

皆が頷く。咲希は、とにかくこれ以上は迷惑を掛けられないと、急いでラーキスによじ登った。克樹も、それに続く。

「出発!」

シュレーの声が響き、アトラスが飛び上がった。続いて、ラーキスも飛び立つ。

二頭のグーラは、五人の人を背に乗せて、朝日が昇って来る空を、南東の方角へと飛んで行ったのだった。


途中、ラーキスの背で朝食を済ませた咲希は、申し訳無さげに小さな声で言った。

「ラーキス?ごめんなさいね、私が寝てしまったから、中へ戻れなかったんじゃない?寒かったでしょう。」

するとラーキスは、こちらへ首を向けて言った。

『いいや。オレは寒さには強いと言うたであろう。グーラは基本、外同然の簡単な巣の中で丸まって眠るもの。人型では無理だが、オレはグーラの型で居たからな。それに、サキがカイロのように暖かかったし。』

咲希は、それでも恐縮していた。

「本当に、ごめんね。服、乾いた?」

ラーキスは、頷いた。

『ああ。克樹に持ってもらっておる。今度人型に戻る時には気を付けねば。素っ裸であろうからな。』

咲希は赤くなった。すると、克樹が言った。

「しっかし服が臭ってたんだって?ラーキスは自分が臭うんだってひたすら体を洗ってたんだもんな。普通気が付くだろうよ。」

ラーキスの声が、不機嫌に答えた。

『知らぬわ。風呂に入る時は服を脱ぐであろうが。出ると着るゆえ、わからなんだだけよ。』

ラーキスは、ふいと向こうを向いた。怒ったのかと克樹は、咲希に軽く肩をすくめて見せた。咲希は、そんな様子に微笑んだ。一体、昨日までの自分が何を怖がっていたのか、咲希には分からなかった。ラーキスはラーキス、アトラスも、アトラス。人にもいろいろ居るように、グーラにもいろいろ居るのだろうが、この二人は味方なのだ。自分達を守ってくれる、仲間…。

咲希は、やっとそう認識出来たのに、帰ってしまう自分が少し寂しくなった。矛盾しているが、元の世界へ帰りたいのに、皆と別れたくない。そんな気持ちなのだ。

しかし、グーラ達はこの世界一のスピードで、王立空間研究所へと近付いていた。


『見えて来たぞ。』

ラーキスが、言った。咲希は、ラーキスの体温が足から伝わって、暖かいのでうつらうつらしていたところだったが、ハッと目を開いた。

目の前には川があり、その川沿いに、その平原には不似合いな立派な建物が立っているのが見えた。克樹が言った。

「ああ、父さんに連れられてよくここへ来たよ。大学へ入ってからなかなか来る機会がなくて。」

懐かしそうに目を細める克樹に、咲希は振り返って言った。

「そういえば、克樹は大学生なの?いくつ?」

克樹は首を振った。

「大学院まで行って、もう卒業したよ。今19歳なんだ。」

咲希は目を丸くした。院卒で、19歳?!

「ええ?!私…今大学の二回生で、もうすぐ三回生なの。20歳。」

克樹は微笑んだ。

「咲希はあっちの世界の日本に住んでいるんだろう?名前がそうだから。」咲希が頷くのを見て、克樹は続けた。「あっちは歳が重要なんだろう。こっちでは飛び級なんだ。試験に合格したら、いつでも次の学年へ飛ぶんだよ。オレはこっちの大学院を出てから、民間のパーティに入ったんだけどね。」

ラーキスが、尻の下から言った。

『ならばサキはオレと同い年であるの。オレも、20歳なのだ。』

それには、咲希は仰天してラーキスを見た。

「ええ?!ら、ラーキス、どう見ても20代後半ぐらいって思ってた…」

そう、ラーキスはがっしりとした体格でとても身長が高く、落ち着いていて大人びた様子だったので、咲希はずっとそう思っていた。ラーキスの声は、おもしろそうに言った。

『ふーん、主らはほんに面白いの。見た目で判断するか。だがの、何と言おうとオレが生まれて20年しか経っておらぬのは事実ぞ。』

咲希は、恐る恐る聞いた。

「まさか、アトラスは違うわね?何歳?」

ラーキスは、答えた。

『アトラスはオレと同い年よ。』

咲希は、眩暈がした。グーラは、早く歳を取るのかしら。

「グーラってみんなこんななの?歳より老けて見えるのかしら。」

ラーキスは、首を振った。

『いいや。同じ時に生まれたグーラの中でも、我らは落ち着いておると言われるの。なので、主の反応も分かるが、主の驚きっぷりが一番おもしろかったわ。』

目の前を行くアトラスが、すーっと研究所の建物の方へと降りて行く。

ラーキスは、表情を引き締めると、後に続いたのだった。


無事に着地して克樹と咲希を下ろしたラーキスは、人型に戻るアトラスを後目に、克樹と共に物陰へと歩いて行った。きっと、服を着るために行ったのだと、咲希はそちらを見ないようにして、アトラスと向き合った。

「何やら、話が弾んでおったようだの。」

咲希は、頷いた。

「そうなの。ラーキスとアトラスが、私と同い年だって聞いて驚いちゃって…。」

すると、ショーンが横から言った。

「へぇ、嬢ちゃんそれで、結構いってるんだな。」と、足を見た。「そんな服着てるから、てっきり若いのかと思ってたよ。」

咲希は、慌てて手で足を押さえると、怒って言った。

「どういうことよ!私は二十歳、大学生です!」

ショーンは、仰天したようにアトラスを見た。

「え、お前、二十歳(はたち)かよ!」

アトラスは、憮然として言った。

「驚かれるのは慣れておるが、何やら不愉快な。言い方に気を付けた方が良いぞ。」

すると、あちらから人型になって服を来たラーキスと、克樹が歩いて来た。

「なんだ、また歳の話か。良いではないか、我らが幾つであっても。どうせ老けて見えるといいたいのだろう。」

ショーンが頷く。シュレーが言った。

「オレは赤ん坊の時から知ってるが、二人共間違いなく二十歳(はたち)だ。そんなことはどうでもいい。さあ、研究所へ。」

ショーンは、まだぶつぶつ言っていたが、シュレーについて、研究所のインターフォンに向かい合ったのだった。

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