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発見

気が付くと、リリアナとショーン、エクラスは、元の女神の間の像の足元に立っていた。エクラスとショーンが二人してリリアナの方へと歩いて行くと、急に回りの乳白色の霧のようなものが濃くなり、それを払いのけようと手を振ったら、足元が晴れて来た。そして、黄色い光に包まれたような気がして回りを見ると、元の女神の間で、立っていたのだ。

リリアナが、目を丸くして、ルルーを側に回りをきょろきょろと見回している。エクラスが、急いでリリアナに歩み寄った。

「戻って参ったようぞ。どこも、具合は悪くないか?」

リリアナは、戸惑いながらも頷いた。

「ええ。エクラスとショーンが戻って来たのを見つめていたら、急に回りの霧が濃くなったみたいに思えて。気が付いたら、ここに立っていたの。」

ショーンが、エクラスの後をゆっくり歩いてリリアナに寄った。

「戻ろうと思ったら戻っちまう造りになってるんだろうな。で、あの本は持って来れたか?まさか幻だったとかじゃねぇだろうな。」

エクラスは、慌てて自分のカバンの中を探った。そして手の平の上に、小さくした本を乗せて見せた。

「これは現実ぞ。間違いなくある。」

リリアナは、それを覗き込んだ。

「まあ。本が見つかったの?」

ショーンが、険しい顔のまま頷いた。

「訪神見聞録は無かったぞ?術の本だ。恐らくアンネリーゼが術士達に教えた、民を救う術とやらだろうな。まだ全部見てねぇから詳しいことはわからねぇが。」

リリアナは、ショーンを見上げて言った。

「じゃあ、これを持って村へ戻りましょう。手分けして内容を分析して、みんなが戻るまでに報告出来るようにしないと。ここではもう、きっとこれ以上のことは見つからないでしょうし。」

ショーンは、頷かずに、リリアナの横に黙って浮くルルーの方を見た。

「報告ってんなら、もっと手っ取り早くまとめることも出来るだろうが。そのクマ公は、何を知ってるんだよ。」

ルルーは、少し顔をしかめたように見えた。と言っても、ぬいぐるみなのではっきりとは分からない。リリアナは、気遣わしげにルルーを見てから、答えた。

「ルルーも、まだ思い出したばかりだし。それに、全てを思い出したわけじゃないみたいだわ。忘却の間でいろいろ話してくれたでしょう。」

ショーンは、首を振った。

「まだ知ってることがあるはずだ。こいつが知ってることは、オレ達に言うべきなんだよ。こいつが古代人だったってんなら、何かやってそれを正すのをオレ達に押し付けてるわけだろう。だったら、協力してもいいはずだ。」

リリアナは、反論した。

「そんな!やったのはアンネリーゼでしょう!古代に生きてたからって、一市民だったルルーが責任を負うのは間違いだわ。それに、個人的なことまで言いたくはないはずよ。ショーンだって、自分の心の中を全部皆に話したわけじゃないでしょう?」

ショーンは、眉間に皺を寄せて、リリアナを睨んだ。

「オレの心情なんか世界の生き死にに影響しねぇだろうがよ。だが、ここに古代人が居ない以上、個人的なことだろうが何だろうが、こいつの記憶は全部重要なんでぇ。本に書いていることだって、こいつに聞けばどれぐらい正しいのか判断がつくだろうが。こいつは、自分が思い出したことは、全部オレ達に伝えるべきだ。こいつにしかできねぇことなんだからな!」

ルルーは、じっと黙って浮いている。リリアナは、ためらって言葉を詰まらせた。確かに、ショーンの言う通りだからだ。

エクラスが、リリアナの肩に手を置いた。

「オレも、こればかりはショーンの言う通りだと思うぞ。ルルーが知ることは、重要なことぞ。これまで黙っておったこと、我が王に言えば恐らく咎められるだろうて。思い出した時点で、言うべきだったのだ。この際そこは問わぬゆえ、今からでも知っておることを言うべきではないか。」

リリアナは、エクラスを見上げて、迷うようにした。

「エクラス…。」

すると、ルルーが、言った。

「いいよ。知っていること、全部みんなに話す。でも、ボクだって昔は生きていたんだ、きちんと、成人した男として。だから、言えないことだってある。それでもいい?」

リリアナは、ルルーを見上げた。

「いいわ。ごめんね、きっとあまり思い出したくもない過去でしょうに。こんな、無理して戻って来るような心配事があるほどなんだもの。」

ルルーは、首を振って、リリアナの背のカバンへと飛び込んだ。そして、その中から言った。

「じゃあ、ここじゃ落ち着かないから、村へ帰ろう。そこで話す。」

カバンの中からなので、声がくぐもって聴こえる。ショーンとエクラス、リリアナは、顔を見合わせた。

「…仕方ねぇな。じゃ、それで。」と、さっさと超えて来た壁に向かって歩き出した。「行くぞ。リリアナは頼んだ、エクラス。」

リリアナが、エクラスに運ばれようとエクラスを見上げる。

しかし、エクラスは違う方向を見ていた。じっと凝視して、動きを止めて息をひそめている。リリアナは、驚いて思わず小声で言った。

「エクラス?…何か気になる?」

ショーンが、振り返った。エクラスは、まだ一点を見つめていて、小声で言った。

「…物音がした。誰か、居る。」

ショーンが、目を見開いてエクラスの視線の先を見た。エクラスが見ているのは、氷穴と繋がっているという場所を塞いだ岩に、開けられた穴の所だった。

エクラスの聴覚は、人とは比べ物にならない。それを痛感していたショーンは、そちらを見つめて小声で言った。

「…何人だ?」

エクラスは、同じく小声で答えた。

「恐らく一人。近づいて来た足音が止まったゆえ、あちらもこちらに気付いておるだろう。」

リリアナは、唇をほとんど動かさずに言った。

「一人なら敵じゃないかも。」

ショーンは、ふんと小さく鼻を鳴らした。

「どうだかな。」と、急に大きな声を上げた。「そこに居るんだろう?!出て来い!逃げてもこっちの魔法の方が速く飛ぶぞ!」

しばらく、沈黙。

壁の穴の向こうに、ちらっと人影が見えた。

「その…声…。ショーン?ショーンなの?!」

女声だ。ショーンが、顔色を変えた。

「オレの知り合いってか。」

と、そろそろと穴へと足を進める。後ろから、リリアナとエクラスが、いつでも魔法を放てるように構えた。緊張感が漂う中、ショーンは穴の脇から慎重に近づいて行った。

「…マーラ!」ショーンが、叫んだ。「お前…なんだってこんな所に!」

リリアナとエクラスは、顔を見合わせた。マーラは、確かリツに着いてすぐに行方をくらましたディンダシェリア大陸からの使者の一人。ショーンは面識があるが、リリアナとエクラスは面識が無かった。

マーラが、ショーンを見とめて穴のあちら側からこちらへと飛び出して来た。

「ショーン!ああ…レンが、レンが見つからなくて。そのうちに、あちらで軍に追われて…逃げ込むには、ここしか無くて。」

ショーンは、呆れたように息をついた。

「レンは、あれからこっちへ無事に戻ったんだよ。待ってたらこんなことにゃならなかったのに。」

エクラスとリリアナが、術を構えるのをやめて、こちらへ歩いて来る。マーラは、それに気付いているのかいないのか、ショーンを見て訴えるように言った。

「私が馬鹿だったの。レンがまだどこかで潜んでいるならってそればかり考えてしまって、必死で。でも、あちらで兵士に捕まって、首都へ連れて行かれそうになって隙を見て逃げて来たのよ。あいつらは、まだ誰かを捕まえているような口ぶりだったわ…協力しないと、その人を殺すって。」

ショーンは、眉を寄せた。

「誰かを捕らえてるって?そんなはずはないがな。みんな無事にこっちへ逃れて来てたし、ディンダシェリア大陸へ帰って行った者達も居る。レンも、迎えに来たグーラに乗って帰ってったクチだ。」

マーラは、食い下がった。

「本当にその人達はあちらへ帰ったの?途中、捕らえられてしまったんじゃ…。」

ショーンは、眉を寄せて首を振った。

「最初に帰ったメレグロスとダニエラが無事なのはグーラが来て言ってたし、だからこっちのどこにオレ達が居るのか分かったんだと言ってたからな。シュレーや圭悟、レン達が帰って行った時はグーラに乗ってったんだ。あいつらが上空を飛んでくのに、それを落とすなんて無理だろう。しかもサラデーナ領の上でなくディンメルクの上空を飛んでったんだぞ?どこかで降りたんならわからねぇが。」

「待って。」リリアナが、それを聞いて言った。「確かラーキスのお父様が言ってたわね。リツで一度休んでディンダシェリア大陸へ飛ぶって。もしも、誰かがそこで降りて別行動をしてたら?」

マーラのように、とはリリアナは言わなかった。だが、ショーンも思い当たって顔をしかめた。

「レンか。」と、考えるような顔をした。「確かにあいつはこっちに残ってマーラを探したいと言っていたな。スタンに、リシマ陛下にご報告するのが任務だと言われて、渋々一緒に行ったんだ。だとしたら…。」

マーラが、顔色を変えた。

「まさか…レンは、私を探そうと…?」

返す言葉がなく、ショーンもリリアナも、エクラスも黙った。確かに、向こうに誰かが捕らえられているとしたら、それしか考えられないだろう。しばらく重苦しい沈黙が続いた後、ショーンが言った。

「…まだ、そうとは限らねぇ。捕らえられているヤツの顔を見たわけじゃねぇだろう?オレ達の情報を引き出そうと、嘘を言ってる可能性がある。そんな心配する必要はねぇよ。それより、お前がここに帰って来たんだから、またおんなじことにならねぇようにするしかねぇ。今度こそ、すれ違いがあっちゃあいけねぇんだ。単独行動はするな。一緒にレンのことを調べるんだ。」

マーラは、目に涙を浮かべて黙っていたが、見る見るその目に光を戻して、しっかりと一つ、頷いた。

「分かったわ。きっと、レンを助けてみせる。」

ショーンは、肩で息をつくと、マーラの肩をポンと叩いた。

「だからまだそうとは決まってねぇっての。とにかく、オレ達が今滞在してる村へ行こう。そこで、気の流れを正すための情報を整理しなきゃならねぇ。お前も手伝え。」

マーラがまた、レンを助けるのが先だと駄々をこねだすかと思ったが、意外にもあっさりと頷いた。ショーンは、そんなマーラを促して壁を越えようとそちらへ向かう。

エクラスもリリアナを背中のカバンへと入れ、後を追ったのだった。

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