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山の村にて

ショーンとエクラス、リリアナは船で少し遡り、山の村へと到着していた。

ショーンが、シュレーと圭悟と共に世話になった村で、ユリアンに連れられて滞在したのだという。

小さな集落の、まるで鳥居のようなものの下をくぐって入って行くと、側の家から人が二人飛び出して来た。

「ああ、ケイン、セナ。」

ショーンが言うと、二人は親しげに歩み寄って来た。

「ショーンさん!やあやあ、こんなに早く来て頂けるとは思ってもみませんでした。」と、背後の二人を見た。「そちらは?」

ショーンは、頷いて二人を見た。

「アーティアス王の命令で来てるんだ。こっちが王の部下のエクラス、こっちはオレの相棒のリリアナ。」

リリアナは、軽く会釈した。しかし、エクラスは反応しなかった。ここまで見て来て分かったが、ラウタートは、基本的に王以外には頭を下げないらしかった。

「何とアーティアス様の!長にお目通りを。ご案内いたしますから。」

ケインは、先に立って歩いて行く。すると、ケインが出て来たのと同じ家から、リリアナより小さな少女が駆け出して来た。

「ショーン!」

ショーンは、驚いたように咄嗟に手を差し出した。

「ブリアナ!」

ブリアナは、何やらおぼつかない足取りで駆けて来たので、足が絡まってふらついた。ショーンは、それを想定していたらしく、慌ててかがんで少女を抱えた。

「ショーン!」ブリアナは、嬉しそうにショーンに抱き着いて、頬ずりした。「こんなに早く会えてうれしい!」

ショーンは、困ったようにそっとブリアナを自分から話すと、諭すように言った。

「もう心臓には問題ないとはいえ、急に駆け出したりしたら危ないぞ。ゆっくりリハビリしろって言ったじゃねぇか。まだ体が元通りってわけじゃないんだからな。」

ブリアナは、叱られたと思ってしゅんと下を向いた。

「ごめんなさい…。」

ショーンは、笑って立ち上がるとブリアナの頭をやさしく叩いた。

「ま、元気になって良かったな。今回はオレは、いろいろアーティアス王の指示でやるためにここへ来たんだ。だから、あんまり相手してやれねぇが、またゆっくり来るからな。」

ケインが、横から言った。

「そうだぞ、ブリアナ。無理を言ってはいけない。ショーンさんは偉大な術士なんだ。お忙しいんだからな。」

ブリアナは、素直に頷いた。

「ええ。わかったわ。でも、またね、ショーン。」

ショーンは、頷いた。

「ああ。」

ブリアナは、母らしい女性が急いで出て来たのを見て、そちらへ走って行って膝へと飛びついた。その女性は微笑んで、ショーンに会釈している。

リリアナは、きっとあれがショーンが助けた少女なのだろうと思って見ていた。同じ助けるでも、自分とブリアナでは雲泥の差だ…。

リリアナはそんな風に思った、自分に驚いた。ショーンに、人並みの愛情など求めては居なかった。ショーンにとって、自分はリリアの器でしかないのだ。とっくに諦めていたはずで、求めたこともないようなことを、どうして今、思ったんだろう。

リリアナは戸惑ったが、ケインに案内されるままに、エクラスと共に長のアーサーの家へと歩いて行っていた。


長は、大変な歓迎のしようで、特にショーンとエクラスのことは下にも置かないほど大切に扱っていた。

ショーンは術士、エクラスはラウタートなので力関係からいって村人たちには雲の上の人物たちとなるだろう。

そのせいもあって、リリアナも変な扱いは受けなかった。

昼食だとたくさんのおいしいスープやパイなどをもらって、歓待されていると感じた。

そのまま、空き家だという長の家の隣にある幾分小さめの家をあてがわれ、そこが三人の過ごす家となったのだった。

ショーンが、言った。

「じゃあ、どうする?訪神見聞録を熟読するか、女神の間へ先に行くか。」

リリアナが、答えた。

「本はどこでも読めるわ。ここでしか出来ないことをした方がいいんじゃないかしら。」

エクラスも、頷いた。

「確かにの。女神の間へと行く洞窟は、どこにあるのだ。」

ショーンは、窓の外へと視線を移した。

「あの、滝の裏側だ。入口は滝の脇にあるんだが、かなり足場が悪い。湿っていて足場が悪いから、リリアナはオレかエクラスが背負って行った方がいいんじゃねぇか。本ルートへ出るまでは、結構狭いしな。」

エクラスが、頷いた。

「ならばオレが。背負うためのカバンを持って来ている。お前より体が大きいし、運ぶのも苦にならぬだろう。」

ショーンは、首を傾げた。体を退いて、エクラスの体全体を見ている。

「うーん、まあ本ルートへ入ったらエクラスに頼むよ。狭いっつったろ。幅が無いから、背負ったままその体を通したらリリアナが詰まる。オレが連れてくよ。狭い横穴を抜けたら結構広いから、そこから代わってくれ。」

エクラスは反論しようかと思ったが、自分の知らない道のことだ。なので、頷いた。

「わかった。」

リリアナが、立ち上がった。

「じゃあ、お昼も食べたし今から行く?さっさと済ませた方がいいんでしょう。今日の夜には、みんなサラデーナへ探索に出かけるのだし、私達は自分達が出来る範囲で何かを見つけておかないと。」

ショーンは、頷いた。

「そうしよう。で、お前乾電池持ってるか?オレも持ってはいるが、前も懐中電灯使ったんで消耗してるんだ。換えは多い方がいいしな。」

リリアナは、自分のポーチから小さな懐中電灯を出した。そして、大きくした。

「乾電池も懐中電灯も持ってるわ。安心して。」

リリアナのは、頭につけるタイプのやつだ。ショーンは、あ、と慌てて言った。

「あ、そっちの方がいい!リリアナ、交換してくれよ。」

リリアナは、慌ててそれを抱きしめるようにした。

「いやよ。バルクで買ったんだから。あなた、そっちの手持ちの方が広い範囲を照らせるとか言って、そっちを買ったじゃないの。私がこっちを選んだんだから、あなたはそっちよ。これは、エクラスに貸すわ。」

ショーンはダダをこねるように言った。

「いいじゃねぇか!エクラスは体力もあるしラウタートだからバランスもいいんだから、片手が塞がってても大丈夫だろーよ!オレは非力な人なんでぇ、絶対そっちの方がいいんだって!」

リリアナからそれを奪おうとするのを、リリアナはひらりとかわした。

「駄目だって言ってるじゃないの。とにかく、自分で決めたことの責任は自分で取りなさい。これは、私のもの。エクラスに貸すわ。」

ショーンは、チッと舌打ちすると戸口へと向かった。エクラスは、気遣わしげに言った。

「別にオレは、あっちでも良いがな。争っておっては旅がうまく行かぬぞ。」

リリアナは、涼しい顔で言った。

「いいの。ショーンとはいつもこんな感じだから。あの人、ほんと子供なのよ。」

エクラスは、ためらった。ショーンとリリアナは、命を狙うものと狙われる者同士とはいえ、ずっと一緒に来た仲だ。だからかもしれないが、二人はとても相手をよく知っているようだった。

途端に、自分が場違いな気がして来て、エクラスは二人から遅れてその後ろを追って出て行ったのだった。

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