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障害

階下へ降りると、既にラーキスがマーキスに歩み寄っているところだった。咲希が、少し離れたところで立ってそれを見ている。回りではラウタート達が囲んで警戒していて、それを玲樹とレンが押さえてマーキス達のことを説明していた。

圭悟が、マーキスとキールへ駆け寄って叫んだ。

「マーキス!キール!どうしたんだ、こんな所にまで来て!」

「ケイゴ!」マーキスが嬉しげにこちらへ足を踏み出した。「おお、よう無事でおったの!船ごと消えたのだと聞かされた時は、もう駄目かと思うたが。」

圭悟は、笑ってマーキスに寄った。

「ああ、こっちで保護されてたんだ。それより、なんだってこんな所へまで?」

キールが横から言った。

「助けを求めるためぞ。我らもすぐにあちらへ戻らねばならぬ。メレグロスからこちらの様子を聞いて、リツへと立ち寄ったが皆キジンへ行ったと申すゆえ、そのままこちらへ来た。」と、玲樹とレンを見た。「こやつらは途中で拾った。」

シュレーと圭悟が頷く

とにかく、話を聞かねば。

「中へ。ここの王のアーティアスに紹介しないと。」

マーキスが頷いて歩き出そうとすると、入口の方からマティアスとアーティアス、それにシャデルが歩いて出て来た。

「主らの国の民か。」

シュレーが、言った。

「そうです。昔一緒に旅をした仲間で、ライアディータの民です。こちらがマーキス、こちらがキール。」

アーティアスは、じっとマーキスとキールを見た。

「…そちらのマーキスと申す男はラーキス、キールはアトラスと同じ流れの男。信用しようぞ。入れ。中で話を聞く。」

ラーキスとアトラスが、少しためらいがちに顔を見合わせた。確かにラーキスはマーキスの息子だが、キールとアトラスには血縁が無いはずだったからだ。

だが、そんな二人に気付かない風に、マーキスとキールは足を進める。

圭悟とシュレーもチラと視線を合わせたが、何も言わずにそれについて中へと入って行った。

そして、ぞろぞろと皆でまた、城の中へと戻ったのだった。


いくらなんでも数が多すぎるので、下の食堂で集まった。総勢21人にもなった内訳は、ディンメルクのアーティアス、クラウス、エクラス、マティアス、ユリアン、サラデーナのシャデル、ライアディータの克樹、咲希、ラーキス、アトラス、美穂、リリアナ、ショーン、圭悟、玲樹、シュレー、レン、スタン、サルー、そして今回加わったマーキス、キール。

なので、正面の上座にアーティアスとマティアス、ユリアンが座り、アーティアスの背後にエクラスとクラウスが立ち、それと対面にマーキスとキールが座った後は、皆が空いた席へと散ってそれぞれ座った。

隣になった玲樹に、圭悟がそっと小さな声で言った。

「…マーラは?」

玲樹は、首を振った。

「見つけられなかった。」

圭悟は、頷きながらレンの方を見る。シュレーも、気遣わしげにそちらを見た。

しかし、マーキスが話し始めたので急いでそちらを向いた。

「時が無いのですぐに用件を話す。」マーキスは、前置き無く言った。「あちらへ、こちらの命の気の影響を受けない者を、数人連れて帰りたい。」

アーティアスは、片眉を上げた。

「それはそちらの問題ぞ。我らは特に感知せぬ。」

マーキスは頷いて、ライアディータから来た者達の方を向いた。

「先ほど圭悟にも申したが、ディンダシェリア大陸への命の気の流入が収まらぬ。命の気を吸い上げてこちらへ戻す装置も最初は機能しているようだったが、僅かに漏れ続けた命の気が蓄積してもう、西半分は普通の人には足を踏み入れられない場所になっている。装置の数を増やして対応しておったが限界ぞ。皆で一斉避難して我らグーラが装置の調整をしながら、術でも気をこちらへ押し返しておるが、追いつかぬ。メクのグーラも来て手伝ってはくれておる。しかし、メクのグーラは谷に居てあまり人と交流しないので、装置の扱いに慣れておらぬ。術は放てるが、装置の世話をする人が居るのだ。」

と、キールを見た。キールは、引き継いで言った。

「我らダッカのグーラはダンキスの勧めで大学を出ておる者達が多い。あっちこっちを飛び回りながら何とかこなしておったが、無理があった。そこへ、メレグロスとダニエラが戻って参った…あれらは、命の気が強くても平気だった。」

圭悟は自分の首を見せた。

「これだ。シャデル陛下の力の石。」

マーキスが、目を細めてそれを見つめた。

「ああ…確かにそうだが、それはダニエラとメレグロスとは違った波動であるな。」

咲希が横から言った。

「メレグロスとダニエラの石は私の力の石なの。圭悟さんのはシャデル王の物だわ。」

シャデルが、頷いた。

「そうだ。我が力の石を渡したのはシュレー、レイ、ショーン、圭悟、マーラ、スタンの6人。サルーは間に合わず今では石が必要ない状態であるが。」

咲希も、言った。

「私が渡したのは、メレグロス、ダニエラ、克樹よ。リリアナはバーク遺跡の石で影響を受けないし、ラーキスとアトラスは自分で調節出来たもの。」

ラーキスは、咲希を見て頷いた。

「サキ自身は己で調節出来ておったようだしな。」

シャデルが、マーキスに言った。

「ならば重要な者にだけでも我の力の石を持ち帰るか?それらに持たせておけば、こちらの気の中でも影響は受けぬ。」と、自分の手を見た。「…と申して命の気の操作用に力を残しておかねばならぬし、それほどの量を持たせることが出来るか分からぬがの。」

マーキスが、頷いた。

「もらえるのなら有り難い。陛下だけでも何とかせねばと皆で思案しておったところであったから。」

「待て。」アーティアスが、言った。「今シャデルは力を封じられておって、どこまで力の石を取れるのか分からぬ状態ぞ。それなのに石を持って行ってしもうては、足りなかった時どうするのだ。そもそもが命の気の流れを変えねばそちらも状況が変わらぬのに、それが成せぬ状況を作るのは我は反対ぞ。」

咲希が、口をはさんだ。

「アーティアス、元々は私の力の石だけで賄うはずだったんだから。シャデル陛下の石を少しもらうぐらい、大丈夫よ。」

アーティアスは、咲希をキッと睨んだ。

「大きな口を叩くでないわ。主はまだ覚醒途中ではないか。今聞いての通り主らの地の時も迫っておる。覚醒を待っておる余裕などないのだ。さっさと全てに設置して、命の気を大地へ還す循環を作らねばならぬ。明日はカイ、明後日はララコン、そしてすぐにアーシャン・ミレーぞ。主の力はまだ足りぬはず。気を見ておると明らかぞ。今後はシャデルの力の石に頼らねばならぬのだ。」

咲希は、ぐっと黙った。ラーキスが、庇うように咲希の前に出て行った。

「ここまでサキの力の石で何とか設置して参ったのだ。そのような言い方はないであろうが。」

アーティアスは、ふふんとラーキスを見た。

「そら見よ、主は甘いわ。甘やかすばかりではならぬと我は前にも言うたの。我は、博打打ちではない。シャデルの方が確実なのだから、シャデルの石を使うと言うて何が悪い。」

克樹は、それを横で聞いていて、アーティアスから気遣いを感じた。口は悪いし言い方も悪いが、アーティアスは咲希に負担をかけずにおこうとしているのだと思えたからだ。シャデルが力を持っているのは確実なので、確かにこれから咲希の力を無理に結晶化せずに済む。これ以上咲希の覚醒を促さないようにとの配慮なのだと直感的に思ったのだ。

もしかして、そこに居るほとんどの者がそれを感じ取ったのかもしれない。それで咲希を庇うものは、ラーキス以外誰も居なかった。

気まずい沈黙の後、気の見えるグーラであるマーキスは、簡単に空気を察したように言った。

「何やら言下にいろいろあるようであるが、しかしこちらはそれどころではない。」きっぱりとした言い方だった。「メレグロスや克樹を見ても、こうして額に僅かな石を着けておれば事足りるのだろう。何も人口の分をくれと申しておるのではない。分けられる分だけで良いのだ。」

すると、シャデルが言った。

「あと、設置場所は三つであろう。ならば我が力の石をいくつか分けても充分ぞ。」

アーティアスが、訝し気にシャデルを見た。

「確かか?」

シャデルは、頷いた。

「ミラ・ボンテで設置したからの。あれをあと三つぐらい、我にはどうでもないわ。石を渡そう。しかし、そちらへ行って我が装着させるわけには行かぬので、対象者には必ず身から離さぬように、ぴったりと着けるよう指示するのだ。分かったの。」

マーキスは、頷いた。

「必ずそのように。」

シャデルは、それを聞いてマーキスに歩み寄ると、その膝の上に手を翳した。すると、その手からバラバラと緑の石がこぼれ落ちてその膝へと落ちる。マーキスは、慌てて自分の服の裾を広げて、それを受けた。

「…こうなると教えてくれねば。知らぬで落とすところよ。」

シャデルは、肩をすくめた。

「落としたところで壊れることもないわ。そんなに脆いものではない。それで、主らは急ぐのだろう?」

マーキスは、キールに合図してシャデルの力の石を巾着へと詰めさせながら、言った。

「ああ。今頃はメレグロスとダニエラが不眠不休で術を駆使しておるからの。」と、皆を見回した。「共に帰る者を募る。」

圭悟とシュレーが顔を見合わせた。

「それなら…ここからは咲希とシャデル王以外、それほど役に立たないんだ。オレは石を持ってるし、オレも戻る。」

圭悟が言うと、シュレーも頷いた。

「では、オレも。オレも石があるんだ。」と、レンを見た。「お前は?」

レンは、ためらいがちに言った。

「オレは…残る。まだ、マーラが見つかっていない。」

するとスタンが言った。

「勝手な行いで離脱した軍人のために、国の大事を放って置いて良いはずはないのでは?あなたも戻るべきです、レン将軍。私も、リシマ陛下にご報告をせねばならないので、共に戻ります。」

「私は残ろう。何しろ、人型にはなれたが今はこちらの魔物なのだ。あちらが落ち着いてから、リーディス陛下に私の身の上をご報告したい。今は変なご心配はお掛けするべきでない。ただ。無事だと伝えて欲しいだけだ。」

ラーキスが、マーキスを見た。

「オレは残ります、父上。サキを無事に連れて帰るまでがオレの責務だと思うておりますので。」

マーキスは、頷いた。

「良い。ここでの足も必要であろうし、人を乗せられる主とアトラスは残るべきぞ。ダイアナとアレスが非常に案じておったのだけ伝えておくぞ、アトラス。」

アトラスは、頭を下げた。

「父上と母上には、元気であったとお伝えください。」

玲樹は、息をついた。

「なら…オレも一度帰ろう。ラウタートになっちまったが、その力の石を一つもらって持ってたら変化しなくて済むしな。ライアディータにこれ以上命の気が流入しないように術を使うよ。それに、オレは機械が得意だ。」

マーキスが、薄っすらと微笑んで頷いた。

「そうであったな。では、今言うた者達は外へ。オレとキールに分かれて乗るのだ。今から飛んでもかなり時が掛かる。一度リツで休んでそこからディンダシェリアへ向かうことになろうが。」

マーキスとキールは、さっさとアーティアスとシャデルに軽く頭を下げると、そこを出て行く。ラーキスとアトラスが、見送りに出るために急いでそれを追った。克樹が、玲樹に行った。

「じゃあ父さん、オレはもうしばらくこっちで頑張るから。」

玲樹は、笑って克樹の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。

「こっちの方が今は問題ねぇよ。だからオレはあっちへ戻るんだしな。ま、ちんたらやってねぇで早く済ましちまってくれ。それまでオレ達眠れねぇのかもしれねぇしな。」

克樹は、鬱陶しそうにその手を払った。

「もう、やめてよ!いつまでも子供みたいにさ!」

玲樹は、声を立てて笑った。

「そういうところが、子供なんだよ。」

圭悟が、シャデルに向き合っている。

「陛下、またあちらが片付いたらこちらへ参りますので。」と、マティアスを見た。「マティアスも、あんまりアーティアスと喧嘩しないで、平和にやりなよ。」

マティアスは、面倒そうに手を振った。

「オレのせいではないぞ?このバカ息子のせいなのだ。」

アーティアスが、ムッとした顔をしたが、何も言わなかった。咲希は、シュレーを見て言った。

「シュレー、いろいろありがとう。なるべく早くこっちの事を済ませるから。」

シュレーは、咲希を見て優しく微笑んだ。

「こちらこそ礼を言わせてくれ。ここまで無事にやって来れたのも、サキのお陰だ。まだもうしばらく世話を掛けるが、よろしく頼む。」

そうして、黙り込むレンをせっついて、そこを出て行った。咲希は、それを見送ってリリアナを見た。

「リリアナは、これで良かった?」

リリアナは、咲希を見上げて頬を膨らませた。

「当然でしょ?私は、あなたを連れて来た責任があると思っているわ。最後まで、一緒に行くわよ。」

咲希は頷きながらも、じっと黙って椅子に座ったままのショーンの方をちらっと見た。ショーンは、戻るとは言わなかった。やはり、リリアナが残るのを知っているからなのか。それとも、こちらでしか使えない術があって、それをリリアナに使うために残るのか…。

咲希は、そう思うとリリアナを返してショーンから引き離した方が良かったのかと思ったが、そうしたら結局ショーンが戻ると言って、自分とリリアナが離れた状態でショーンと二人で居る姿が目に浮かんで、とてもそんなことは出来ない、と思った。

そうして、咲希が見ている窓の向こうで、マーキスとキールは、背に背に人を数人ずつ乗せて、二つの月が明るい中飛び立って行ったのだった。

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