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マティアスが戻って来て、その後ろをかなり離れてアーティアスがついて戻って来ているのが見えた。

アーティアスと和解が出来なかったのか、と克樹とリリアナ、美穂、シュレー、圭悟が思って上から見ていると、入口辺りでアーティアスがマティアスを呼び止め、そして何か一言二言話して、マティアスが頷いているのが見える。その様は落ち着いた様子で、何かに憤っているような様子は欠片もなかった。

なので、恐らくはわだかまりは無くなったのだろうが、何やら重苦しい感じがするのに、みんなは顔を見合わせた。

また何か、問題でもあったのだろうか。

しかし、親族間のごたごたは、自分達には関係ない。口出しするのはやめておこうと、みなはそこで決めた。


それから、上がって来るのかと思いきや、なかなかに来ずに居て、たっぷり二時間ほどしてから、アーティアスはクラウスとエクラスと共に、客たちの居間として使っている広い部屋へと入って来た。

その頃には咲希とラーキス、アトラスも合流し、サルーとスタンも入って来ていた。ショーンだけが部屋の外れで一人、座ってあちらを向いていたが、誰も気にする様子もなく、アーティアス達に向き合った。

「…それで、遅くなってしもうたが、石の設置のことであるが。」アーティアスは、どこかしら元気のない声で言った。「キジン湖の西に安定した岩盤がある。そこに、設置してはどうかと思う。」

エクラスとクラウスが、心配そうにアーティアスを見ている。

何やら勝手が違うので戸惑ったが、克樹が言った。

「ええっと…じゃあ、最初に決めていた者達でいいかな。オレと、リリアナと咲希、ラーキスとアトラス、ショーンで。」

アーティアスは、首を振った。

「別に旅に出るわけでもあるまいが。ここから見えておる場所ぞ。そんなに多人数で行っても同じ。サキだけ居ったら良い。後はクラウスとエクラスと、我でとっとと設置して戻って参る。カイへ向かう時は今申した者達で行こうと思うが、キジンは我らの里。何かあるわけなどないゆえ。」

いつも通りのようなのに、どこか言葉に力が無かった。それを感じては居たが、咲希は気にしないように前へ出た。

「じゃあ、行って来ようか。」

ラーキスが、気遣わしげに見た。

「オレも行かぬで良いか?」

咲希は、苦笑して首を振った。恐らく、アーティアスが居るからだろう。だがエクラスもクラウスも居るのだ。何かあるはずもなかった。

「大丈夫よ。クロノスに来てもらって、すぐに終わるもの。」

アーティアスが、頷いて扉の方へ足を踏み出す。

「では、行って来るゆえ。」

リリアナも、美穂も少し心配そうな顔をしていたが、咲希はそれに笑顔で頷きかけて、そしてそこをアーティアス達について出て行ったのだった。


今の咲希にとって、湖の向こう側へぐらい軽々飛んで行けた。

ただ気を付けなければいけないのは、時々に自分でどうやって飛んでいるのか分からなくなって、頭が混乱して、ゲシュタルト崩壊を起こしてしまうのだろうが、出来るはずなのに落ちてしまう。なので、絶対に落ちてはいけない湖だと聞いている上など、飛ぶのは危険だった。

仕方なく、岸の上を大きく回り込むような形で、四人でその場所へと飛んだ。

いつもなら、そんなことをさせたら文句が10は出て来るアーティアスが、黙って頷いて一緒に飛んでいる。咲希は本格的に何かあったのだと思ったが、それでも踏み込んではいけないと思い、黙っていた。

アーティアスが言う場所は、キジン湖の西側、森の中を抜けた所にあった。恐らくはアラクリカで見たものと同じ、結界の岩盤だろう。高くそびえ立ち、上までは全く見通せなかった。

そこへ着いたのはいいが、三人共むっつりと黙っている。

咲希は、仕方なく岩盤に向かって、クロノスを呼んだ。

「クロノス!」

すると、ぱっと短い光が走って、クロノスの姿が浮いた。相変わらず人懐っこそうな笑みを浮かべて、咲希を見下ろした。

「遠くまで参ったの、サキよ。また結界の岩盤に決めたか?」

咲希は、思わず微笑み返して頷いた。

「はい。安定しておるのは、これに敵う場所はありませんから。」

「道理よな。」クロノスは答えて、手を上げた。「では、五つ目の石を設置する。」

咲希は頷いて置いて、ふと顔を上げた。五つ目…いや、これは四つ目では。

言おうと思ったのだが、クロノスの術が体を通り抜け、目の前に御馴染みの咲希の力の玉が浮いた。クロノスは、それをいとも簡単に岩盤へと放り投げると、玉はいつものようにそこへと吸い込まれ、一部だけが埋め込まれた状態で丸く見えるように、設置されて行った。

「では、これで。ゴールも見えて参ったし、あとひと息よな。」

咲希は、帰ろうとするクロノスを、慌てて引き留めた。

「お待ちください!」クロノスは、驚いたように咲希を見る。咲希は、どうしてこんなに必死になってしまったんだろうと、少し恥ずかしくなってコホンと咳払いをすると、言った。「あの、これは四つ目ですわ。クロノスは、今五つ目とおっしゃいました。」

クロノスは、片方の眉を上げた。

「何を言うておる?サルーク、ククル、アラクリカ、ミラ・ボンテ、そしてキジン。五つ目であろう?」

後ろから、アーティアスが口をはさんだ

「何を言うておるのか。ミラ・ボンテは厄介でまだ済んでおらぬわ。」

クロノスは、アーティアスを見た。

「主ら、別々に行動しておるか?シャデル・リーと申す命に刻印を持つ者の力、あちらに設置した。本人の希望で。」

咲希は、驚いて手で口を押えた。

「え、シャデル王があちらへ参ったのですか?」

クロノスは、頷いた。

「今、同じ地に居るのであろう?聞いておらぬか。こちらへ来る前に、あちらへ行っておった。同じことをしておるのに、情報は共有せねばならぬぞ。咲希の力は満ちて来ておるから、咲希一人でも残りの場に設置はして行けるであろうが、まだ少し荷が重いように思うし、あれの力も使えるのなら、それに越したことはないかと我は思う。ま、主らが決めることであるから、好きにせよ。」

クロノスはそういうと、出て来た時と同じように、またパっと消えた。

咲希は、驚いた顔のまま、アーティアス達三人を振り返った。クラウスが、言った。

「そういえば、そういったことをお聞きする暇はありませんでした。あの時は、マティアス様のこれまでのことをお聞きするので精一杯で。」

エクラスも、頷いた。

「こちらへ逃れる前に、恐らく残しては面倒だと先に設置してから逃げて参ったのでしょうな。シャデル王は、大変に頭の切れる王であるから。」

咲希の心の中で、何やら慕わしい気持ちがまたふつふつと膨れ上がって来るのが分かった。咲希は、慌ててそれを押さえ付けた…ダメ、これは私の気持ちじゃない。誰かの気持ちを、感じているだけ…。

それに飲まれたら、今度こそ咲希は、自分で無くなるように思ったのだ。

アーティアスは、ため息をついた。

「…王失格であるの。父上は見抜いておられたのに、我は全くシャデルの本質を見抜けなんだ。」

クラウスが、慌てて言った。

「それは直接に動向を見ておられたからでありまする。アーティアス様には、そんな機会もなく、バークとかいう将軍のお陰で、我らもかなり躍らされておったのです。アーティアス様のせいではございません。」

エクラスも、盛大に頷いた。

「そうですとも。マティアス様は10年も見ておられたのです。しかも、水鏡などを使って見ておった時もあった。我らにはそのような術はありませぬから。」

咲希は、異常なほどに気を遣っているように見える二人に、じっと見入った。どうして、今の話でそんなに反応するの?

「…確かに、シャデル王のことは誰も分からなかったわ。側に行ったことがある人は知っていたけど、そんな機会なんて無かったんだから、間違っても仕方ないと思うわよ。」

咲希が迷いながらもそういうと、アーティアスはふんと皮肉の混じったような顔で笑った。

「…知らぬくせに。」

咲希は、プツンと切れた。

何よその言い方、こっちが気を遣ってやってるのに!なんか知らないけど、ぐだぐだと悩んで!

「知らないわよ!あなたが言わないんだもの!だったら、言えば?何よ、いつでも何でもサバサバ決めて動いてたくせに。私がトロいとか言ってイライラしてたりしてたでしょ!今のあなたが一番うじうじグダグダしてるように見えるんですけどね?!」

いきなり咲希が切れたので、クラウスもエクラスもびっくりして呆然としていたが、咲希がアーティアスに何を言ったのか頭に浸透して来て、顔を青くした。アーティアスも唖然として咲希を見ていたが、急に我に返った。そして、笑い出した。

「うじうじグダグダとしておる奴に、うじうじグダグダしておると言われたわ!腹が立つの、ほんに。」と言いながら、顔は真顔になった。「ああ、我は思い悩んでおるわ。我はの、父上の子ではないのだ。本来ならユリアンが王座に就いてしかるべき。なのに我が就いておる。ユリアンに王座を譲ると申しても、誰も譲らぬ。父上も聞かぬ。我は己の出自も分からぬのに、こんな気の張る地位に居るのが嫌なのだ。」

「王!」

クラウスが、慌てて遮ろうとする。だが、アーティアスはクラウスと見た。

「良い、そのうちに皆が知ることになるわ。我も隠そうなどとは思わぬ。」

咲希は、口をパクパクさせた。何と言っていいのか…思ったより深い感じの家庭の事情だった。やっぱり、口を挟まなければ良かった…。

だが、言った。

「でも、マティアス様はうちの馬鹿息子とかおっしゃって、アーティアスのことも息子として可愛がっていらっしゃるようだったわ。信頼していなければ、国に幼い王子ばかりだったらいくらアントン様が頼んでも、あちらへ残ったりしなかったでしょう。アーティアスを信頼していたからこそ、国をあなたに任せて、あちらで一人、潜入捜査をしておられたんだと思うわ。だって、マティアス様は無責任な王ではなかったのですもの!」

これが正解かどうかなど分からなかったが、咲希は思った事を一気に言った。クラウスとエクラス、アーティアスはぽかんとして聞いている。しばらく待ってみたが、皆こっちを見ているだけで応答がない。あまりに黙っているので、咲希は、そんな三人の前に恐る恐る寄って、手を振ってみた。

「あの…?聞いてた?」

クラウスが、ハッとして言った。

「確かに主の言う通りぞ。あのマティアス様が、民を放ってなど置けぬのは我らも知っておるところ。アーティアス様を信じておられたからこそ、王座を譲って行かれたのだ。」

エクラスも、頷いた。

「確かにその通りよ。まさか人に言われてそれに気付くとはの。」

しかし、アーティアスのツボに入ったのはそこではなかったらしい。

見る見る顔色を変えると、叫んだ。

「誰が馬鹿息子ぞ!その馬鹿に簡単に王座を譲って行きおったくせに、あの父は〜!!」

そこ?!

咲希もエクラスも、クラウスも驚いてアーティアスを見た。アーティアスは、そんな三人に構わず浮き上がった。

「帰る!父上に一言申しておかねば!」

そして、王城の方へとすいっと勢いよく飛んで行く。

咲希とエクラスとクラウスは、慌ててそれを追って飛んだのだった。

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